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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
九話「死に閧」上刻
208/1102



 フィリアの背筋に電流が走る。

 悪意の波動を魔力として感知した。客室区画の付近で、誰かが争っている。

 席を立ってマリアに一瞥した。

 意を察して、彼女も頷く。

「私の不在時も結界は解けません」

「ええ」

「ですが、もしもの場合」

「分かってるわ」

 決然とした面持ちでフィリアは客室を辞した。

 通路を出て。

 一帯にけたたましく鳴った破裂音(はれつおん)に驚く。

 悪意を感知した方角が音源だと推測し、フィリアは足を急がせた。距離が(ちぢ)まるほどに、大きくなる人の笑声を耳にする。

 心底楽しそうな声。

 音のする場所まで、そう時間を要さなかった。

 辿り着いた先の光景に絶句する。

 通路にナハトが倒れていた。

 所々が剥がされた侍女服、足に刃傷が刻まれ、背中にはあえかな魔素の光を帯びた火傷を負った惨憺(はんまん)たる姿である。

 その周囲を黒装束が囲っていた。

 だからこそか。

 金色の甲冑姿の勇者マサトが際立つ。

 相手の様子を窺いつつ、フィリアは立ち上がろうとするナハトに寄り()った。

 マサトが微笑む。

「フィリアじゃないか」

「これは貴方がたの仕業ですか」

「仕方ないだろう。彼から仕掛けてきたんだ」

 ナハトを見遣る。

 剣鬼隊では誰よりも冷静沈着。

 勇者たちとの間に余計な(いさか)いが起こることは負担にしかならないことを理解しているので、絶対に自ら火種を作る真似はしない。

 ナハトの人柄には信頼がおける。

 対して。

 勇者は気に入らなければ事あるごとに対立する上に、自身や周囲への迷惑を慮ることなく行動する。

 浅慮なマサトならあり得る。

 したがって。

「信用できません」

「どうしてさ」

「ナハト君は、貴方がたと争う動機は無い上に、実力差を考えて挑みかかることもありません。――そうでしょう?」

「……はい」

 ナハトが苦痛に堪えて(うなず)く。

 フィリアの信頼が自分にはない。

 そんなことまでも意図せず確認したマサトは、悔しげに口もとを歪める。黒装束は成り行きを見守って沈黙していた。

 相手は現代の聖女。

 迂闊(うかつ)な行動にまでは出ない。

 フィリアが両手を握って祈る。

 ナハトの傷がまたたく間に癒えた。

「所要があって茶会の誘いをお断りしたところ、黒装束の方に不敬だと打擲されてしまいました」

「勇者様」

「ん?なんだい、フィリア」

「……その方々は?」

 黒装束たちを見回した。

 勇者は醒めた顔で彼らを指差す。

「僕に充てられた部下さ」

「部下」

「勇者としての部隊の構成員だよ」

 ナハトが立ち上がったのを確認して。

「私たちはこれで」

「もう行っちゃうのかい?」

「では、失礼します」

 一礼だけして立ち去る。

 ナハトはその後ろに従って歩んだ。

「やり方が粗いです」

「強引になりましたね」

「早急に剣鬼を処理したいのでしょう」

 勇者たちの見送る眼差しを感じる。

 気取られないよう、二人は前を見据えたまま小声で会話した。

 参謀陣営の手段。

 それが次第に過激になり始めている。

 聖女、剣姫、ミスト、優秀な剣鬼隊に庇護(ひご)されていることが、何よりも厄介で、気に食わないのだろう。

 フィリアは嘆息する。

「剣鬼隊にも注意を促して下さい」

「承知しました」

「あと、タガネさんは私が面倒を見るので、ナハトさんも自身の職務に集中して大丈夫ですよ」

「ですが、剣鬼隊としては」

「今回のようなことがあれば、大変ですし」

「……そう、ですね」

 ナハトは怪訝に眉をひそめる。

 正論ではある。

 フィリアに任せて不安はない……はずだった。

 だが、語調が一顧(いっこ)だにしない強制の意を感じて疑ってしまう。声色に出た、わずかばかりの独占欲に似た何かが窺えた。

 彼女は悪意を感じ取れる。

 では、自身はどうなのだろうか。

 そんな思考が過って、フィリアを見る。

「大丈夫ですよ」

 フィリアは、前だけを見ていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] フィリアさん、こわいよ((( ;゜Д゜)))
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