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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
九話「死に閧」上刻
202/1102



 王都の遥か南。

 魔獣に虐殺(ぎゃくさつ)された骸が散乱する街道では、白い僧衣の集団が列を作って進行していた。

 一歩に数呼吸を要する遅々とした足取り。

 足下は夢遊病(むゆうびょう)めいて覚束ない。

 まるで魔性に取り憑かれた集団の様相だった。

 それでも倦まず弛まず進む。

 僧衣の列は進んでいく。

 その中の一人は、周囲と同じ歩行を演じて溶け込んでいた。狂気に自ら身を(ひた)すような感覚に、やがて集団の一部になるという危機感が湧きつつ、その異質な空気に同調する。

 僧衣の下で。

 黒い瞳で街道の先を見据えた。

「(…………王都に向かっているな)」

 密かな確信を胸に抱く。

 列に紛れた少年――クレスは目を眇める。

 ケティルノースとの決戦。

 それに際して、魔神教団が活動していることをタガネが仄めかしており、独自で調査をしていた。

 (あるじ)である剣姫。

 そして彼女の宿敵タガネ。

 その両名が脅かされるとあって心中穏やかではいられず。

 (つい)に。

 意を決して内側に潜入した次第ある。

 薬師の娘たちは遠い辺境へ避難した。

 これならば、魔神教団の手が及ぶことはないので、後顧(こうこ)の憂いなく潜入捜査が行える。王国滅亡を企てた元凶ともあり、そこに主を守る使命感の奥では憎悪の焔も燃えていた。

 だが。

 主以外にも守りたい物を抱えている。

 魔神教団への潜入は自刃にも等しい危険性があった。

 命の危険や、守りたい物のそばにいたい想い。

 二つの強い意思排してしまうほどに憎悪は大きかった。

 それが原動力であり。

 クレスは決死の覚悟で挑んでいたのだった。

「(まさか、王都を攻撃?)」

 内心で独り言ちる。

 魔神教団は複数に分かれて動いている。

 その内でも、周到(しゅうとう)に用意を巡らせている分隊に入り込んだが、いまだ明確な意図は把握できていない。

 ただし。

 この集団は他と少し異なる。

 それが――先頭を歩む男である。

「(…………司教)」

 魔神教団の司教だった。

 タガネが数月前に斃した者とは別にいた存在である。ただし、数ある魔神教団の勢力の中で活動している唯一の司教だった。

 そもそも。

 魔神教団の構成。

 それは複数名の司教がある。

 そして頂点に――教皇(きょうこう)

 この最高司教は、開祖(かいそ)であり太古から生きているという伝説が嘯かれていた。真偽を確かめがたいので、そこは未だに判じれていない。

 だが。

 数日前に王都が魔獣に襲撃された。

 それは教皇の仕業だと噂されている。

 ふと。

 集団の足が止まった。

 先頭の司教がその場に(ひざまず)く。

「おお、教皇さま」

「おお」

「おお」

「おお」

 後列が彼に倣った。

 クレスもその所作に合わせて膝を突く。

 ちら、と先方をうかがった。

 司教の前に影が一つ立っている。

「剣鬼は眠らせたぞい」

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「じゃが、さすが切咲じゃ。直に催眠を突破して覚醒するじゃろうのぅ」

「ええ。その前に……」

 クレスは耳を澄ました。

 嗄れた声、老人のものである。

 先に立つ影は、歪んだ広い(つば)の三角帽に、その矮躯に合わないローブの長裾を地面に引きずった風体。

 顎から豊かな髭が垂れている。

 片手には樫の長杖を手にしていた。

「魔神さまのために」

「うむ。期待しとるわぃ」

 老人――最高司教が笑う。

「レインのときもそうじゃが、舞台鑑賞が趣味じゃった」

「…………」

「表舞台に立つ昂揚を、久しく忘れていた。デナテノルズ戦では血湧(ちわ)肉踊(にくおど)ったわい」

「そうですか」

「剣鬼には感謝せねばのぅ」

 骨ばった手が(たもと)から伸びる。

 髭を愛おしげに撫でた。

「もっと観せてくれ、タガネ」

 教皇が含み笑いをする。

 司教たちは頭を垂れたままだった。

 クレスも動かない。

 だが、その心は驚怖(きょうふ)に掻き乱されていた。

 教皇の姿――正体。

 まさか。

「ワシの大事な余興よ」

 教皇は恍惚と笑みを深めた。






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― 新着の感想 ―
[一言] ええええ!!(゜ロ゜ノ)ノ ま、まさか……ベル爺!?
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