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リューデンベルク王都に雪が降る。
何かの訪れを予告するように、大気はより冷たくなっていく。夜空を彩る星の輝きが日毎に強くなることもまた、人々の不安を掻き立てた。
そんな王都で。
さらに不穏な一報が広まりつつある。
新たに宛行われた客室。
寝台の上に剣鬼の少年は眠る。
その隣に椅子を寄せてマリアが見守っていた。
風が窓を叩く音だけが鼓膜を揺する。
重たい沈黙だけの空間。
マリアの顔もまた暗鬱な陰りがあった。
タガネの寝顔。
安らかな寝息を立て、もう十日は眠り続けている。勇者召喚から半月で勃発した魔獣による襲撃、それは加勢に来た冒険者などによって魔獣は迅速に制圧された。
都民の犠牲者はおよそ百名。
被害は甚大だった。
この襲撃の真相に迫るものをつかんでいるであろうタガネは、突如として昏倒してしまい、それから一向に目を覚まさない。
呼吸も脈も正常。
生命活動は続いている。――にもかかわらず、剣鬼は昏睡状態だった。
王宮の現状は、その情報をつかんだ参謀陣営や傭兵たちが蠢く気配で犇めいている。
ますます危険な陰気を増していた。
タガネの身辺も危うい。
マリアは定期的に部屋を訪ねていた。
「昏睡、ってなによ」
「…………」
「こっちの気も知らないで」
マリアが寝顔に手を伸ばす。
タガネの白い頬を抓った。強い指圧で赤らみ、けれど表情は痛みに歪むことすらない。
まるで死人。
どうして、こうなったか。
あの牛頭の魔獣。
何らかの仕掛けがあったのかもしれない。
マリアは深々と項垂れた。
「早く起きてよ」
「…………」
「…………また、来るわ」
マリアは立ち上がる。
それから部屋を出て、扉の脇にいたナハトに振り向いた。
言葉なくマリアの意中を察し、女装の少年は部屋へと入る。タガネの面倒を見ているのは実質彼であった。
護衛も兼ねて、任せている。
無防備な剣鬼に、今の王宮は危険にすぎる。
魔獣襲撃の要因も不明。
不穏な王宮内の動き。
行く先々に暗影がちらついた。
「これから何が」
胸中の不安を押さえて。
マリアは目の前を見据えて進んだ。




