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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
九話「死に閧」上刻
201/1102



 リューデンベルク王都に雪が降る。

 何かの訪れを予告(よこく)するように、大気はより冷たくなっていく。夜空を彩る星の輝きが日毎に強くなることもまた、人々の不安を掻き立てた。

 そんな王都で。

 さらに不穏な一報が広まりつつある。


 新たに宛行われた客室。

 寝台の上に剣鬼の少年は眠る。

 その隣に椅子を寄せてマリアが見守っていた。

 風が窓を叩く音だけが鼓膜(こまく)を揺する。

 重たい沈黙だけの空間。

 マリアの顔もまた暗鬱(あんうつ)な陰りがあった。

 タガネの寝顔。

 安らかな寝息を立て、もう十日は眠り続けている。勇者召喚から半月で勃発した魔獣による襲撃、それは加勢に来た冒険者などによって魔獣は迅速に制圧(せいあつ)された。

 都民の犠牲者はおよそ百名。

 被害は甚大(じんだい)だった。

 この襲撃の真相に迫るものをつかんでいるであろうタガネは、突如として昏倒してしまい、それから一向に目を覚まさない。

 呼吸も脈も正常。

 生命活動は続いている。――にもかかわらず、剣鬼は昏睡状態(こんすいじょうたい)だった。

 王宮の現状は、その情報をつかんだ参謀陣営や傭兵たちが(うごめ)く気配で犇めいている。

 ますます危険な陰気を増していた。

 タガネの身辺も危うい。

 マリアは定期的に部屋を訪ねていた。

「昏睡、ってなによ」

「…………」

「こっちの気も知らないで」

 マリアが寝顔に手を伸ばす。

 タガネの白い頬を(つね)った。強い指圧で赤らみ、けれど表情は痛みに歪むことすらない。

 まるで死人。

 どうして、こうなったか。

 あの牛頭の魔獣。

 何らかの仕掛けがあったのかもしれない。

 マリアは深々と項垂れた。

「早く起きてよ」

「…………」

「…………また、来るわ」

 マリアは立ち上がる。

 それから部屋を出て、扉の脇にいたナハトに振り向いた。

 言葉なくマリアの意中を察し、女装の少年は部屋へと入る。タガネの面倒を見ているのは実質彼であった。

 護衛も兼ねて、任せている。

 無防備な剣鬼に、今の王宮は危険にすぎる。

 魔獣襲撃の要因も不明。

 不穏な王宮内の動き。

 行く先々に暗影がちらついた。

「これから何が」

 胸中の不安を押さえて。

 マリアは目の前を見据えて進んだ。





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