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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
二話「渇く河床」中編
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 円卓を囲うのは五名。

 タガネは卓上に顔を突っ伏していた。

 説教の飛び火を被った所為で、さらに暗鬱としていた心が荒む。出端から数度目の無為な会議に列席する気力が削がれていた。

 隣は、背筋を伸ばして座るマリア。

 未だ不満が解消できておらず、時折円卓の下で剣の柄を触ってタガネに威嚇していた。意に介さない彼の態度が、狂おしいほどに憎い。

 開始早々に問題が多い中、騎士団長が卓を強く叩いた。拳打の衝撃が伝播し、タガネの顔面が()ね上がる。

 慮外の襲撃に、タガネは顔を押さえた。

 かなりの痛みだった。

 騎士団団長は打ち付けた拳を震わせる。

「ヴリトラは、王都にいる」

「そうですね」

「何故、足取りが捕捉できんのだ!?」

 団長の怒声が響く。

 獅子も怖気付く迫力に、魔法使いの少女ミストが体を小さくさせた。

 第一王子ルナートスが静かに唸る。

 騎士団団長のそれは怒りであり、焦燥でもある。誰もが共有している感情だった。

 王都周辺にヴリトラが鎮座した影響で、干魃から逃れようと人々は王都を避けて動く。存在するだけで災厄となる魔獣を一刻も早く退治しなければ、後顧の憂いばかりが大きくなる。

 だが、目撃情報は無い。

 巨大な蛇体すら見せず、地底にいるのか。

 しかし、文献には地下に行動するヴリトラの記録はなかったし、()してや巨大な物が地層を掻き進んで行けば地鳴りなどの現象として誰もが(さと)る。

 狡猾に姿を(くら)ませていた。

「魔獣を感知する手段は無いのか?」

 タガネは顔を押さえつつ問う。

 すると、全員が首を振った。

「魔法で感知できるけど、巨大すぎて仔細な位置を特定できないの」

「王都周辺、とだけだ」

「ミストや他の魔法使いも、魔獣の魔力反応が強すぎる故、感覚が鈍るそうだ」

 ミストを中心に、手段が無いと告げられる。

 タガネは腕を組んで黙考する。

 魔力(まりょく)――万物に魔素(まそ)という物が宿っており、それは人も魔獣も同様。魔素を操る力を魔力といい、魔法使いはそれを操って魔法を使う。

 魔獣は、生きているだけで魔力を使用する。

 だから、大量の魔素を摂取するために人を食らうとされていた。

 従って、魔法使いが行使する感知能力で魔力の反応によって隠れた魔獣の位置を暴く手段はあるが、ヴリトラの場合は規模も魔力の強さも桁違いとあり、接近し過ぎると常に近くに強い魔力反応を発しているので特定が不可能とされる。

 姿もない。

 気配もない。

 それでは、探しようが無いのだ。

 何処にいるのか、誰もが疑問に思っていた。

 タガネは思考を巡らせる。

 姿が無い、のではなく見えないのでは。文献に書かれているのは、所詮生態の一部のみ。脅威の度合いのせいで研究しようがないので、全容と比較すれば軽微な物なのだろう。

 なら、想像するのが手っ取り早い。

 例えば、小さくなる。透明になる。

 或いは――。

「何かに、化けてるのか?」

 タガネの言葉に全員が怪訝な表情になる。

 人や動物に擬態する。

 そんな狡獪(こうかい)な生態機能があるのかもしれない。

 タガネの言葉は、暗にそう語っていた。

「それは無いだろう」

「魔獣が、だぞ」

「アンタ、もう少し頭回しなさいよ」

「…………ある、のかな?」

 誰もが懐疑的だった。

 生物の擬態とは、そもそも危険から身を守るための物が一般的である。

 しかし、それは食物連鎖の上位に列なる捕食者ほど、天敵の種類も減るので、必然的に擬態などは進化の過程などで不要として廃棄される。

 臆病者なりの守る術、なのだ。

 それが、あの三大魔獣にあるのか。

 天災が排除されることを臆して隠れる。

 きっと誰もが鼻で嗤う可能性の話だった。

 タガネも、即否定されて押し黙る。

「だが、そう考えるしか」

「じゃあ、何に擬態してるんだい」

「それは知らん」

「はあ?」

 タガネも諸手を挙げて降参する。

 ルナートスが顔を顰めた。

 魔獣に精通しているわけではない。なので、これ以上追及されても答えられないのだ。

 マリアが一人が、沈思に耽っていた。

「…………」

「どうした、マリア」

 団長が様子の異変を悟って尋ねる。

 ルナートスも訝って顔を向けた。

「……王都内には、入れないわよね。旅人なんかも荷物を検査されたりするし、不審な人間がいれば入れない」

「そうだな」

「周辺で、不審な人物の目撃情報は?」

「指名手配者の物くらいで、特には」

 マリアが隣を見た。

 タガネは彼女が何を言わんとしているかを察して顔を強張らせる。

「アンタの面倒見てる子」

 確かに。

 旅人でなくとも入った例がある。

 それは、剣鬼の名で押し入り、入念な検査を受けずに王都に入行したタガネと……レイン。

 しかし。

「あいつは、魔獣じゃない」

「本当に?」

「ああ」

「確証は?」

「人を食ったり襲ったりしない。普通に飯も食う」

「親はいるの?」

「……知らないらしい――」

 マリアの目が探るように光る。

 タガネは閉口した。「知らない」の後に紡ごうとした言葉は、レインの容疑を深める情報になる。

 歳の割に言葉が拙い。

 水の摂取が頻繁なこと。

 身許不明。

 そして――先日、レインに触れられて体内の水分が蒸発したとされる執事の不審死。

 だが、どれも否定のしようがある。

 言葉の発達は、人と隔離された空間で育てられ、逃げ出した先でタガネと出会った。身許不明、親を知らないのもこのためである。

 水の摂取は、脱水症状になった際の危機感から生きるために必要だと感じて常に飲もうとしている。

 執事の不審死は――。

 そう考えて、タガネは吃驚した。

 まるで、今の自分は必死にレインを庇おうとしているかのようではないか。

 誰も信じないと、決めたのに。

 他人なんてどうでも良いと、思っていたのに。

 庇護していた。

 タガネは自嘲的な笑みを浮かべる。

 いつの間に絆されていたのか。

「じゃあ、あいつに聞いてみようか」

「な……」

「おまえは化け物ですか、ってな」

 全員の顔が曇る。

 それから、長い沈黙が続いた。後にぎこちなく会議は再始動したが、これ以上は何も出ないと諦めて終了となった。

 タガネも部屋へ、重い足取りで向かう。

 部屋の扉を開けた。

「なあ、レイン」

 部屋の中心で桶の水を飲む少女。

「ん?」

「おまえは、違うだろ?」

 化け物なのか――とは問えない。

 タガネの声は、震えていた。




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