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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」上辺
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 庭園が歓声に包まれる。

 マリアと剣鬼隊が前に駆け出した。

 決闘直後のタガネに突進し、全方位から揉みくちゃにする。嫌がって抵抗する彼を担ぎ上げた。

 すると。

 カルディナが微笑む。

 端然(たんぜん)と隣に佇む英雄に誰もが身を固める。

 決闘の最後。

 危うい場面だったのを救われた。

 ただ、赤い重甲冑の大男が音もさせず、至近距離で短剣をふるった勇者の攻撃を、駆け寄って防ぐという離れ業をなし(おお)せている。

 タガネもかなりの実力者。

 ただ――カルディナは桁違(けたちが)いだった。

 タガネが目礼する。

「ありがとうございました」

「何がかね?」

「助けて貰ったんで」

 カルディナが首を横に振る。

 タガネの肩に大きな手が乗せられた。

「また腕を上げたね」

「いえ」

「それに背も伸びたらしい」

 カルディナは目を眇めた。

 その瞳の奥に、過去の自身が投影されているようでタガネは顔を背ける。苦手意識が喚起されて、思わず一歩退いた。

 カルディナの距離感には慣れない。

 マリアが小首を傾げる。

「知り合い?」

「昔、戦場でな」

「アンタ、何か歯切れ悪いわね」

 タガネはマリアを見た。

 質されたくない部分を追及するマリアの感情の機微を読み取る感性の鈍さに呆れる。

「剣姫マリアくん」

「え、あ、はい」

 カルディナの雰囲気に圧倒されて。

 マリアまでもが畏まった。

「良い男に目をつけたね」

「へ?」

「君のために身を擲つ覚悟のある人間だ。きっと将来的にも君に尽くしてくれるだろう」

「そ、そうですかね!」

「けっ」

「何よ?」

「いや、別に」

「どうだい、()()()婚約してみては」

 カルディナの一言に。

 タガネとマリアは意表を衝かれて硬直した。

 恐るおそる彼の顔を見上げる。

 穏やかな笑みを湛えて、二人を見詰めていた。露払(つゆはら)いのための偽装婚約の内情が看破されている。

 他は気づいた様子がない。

 タガネは戦々恐々として隣を盗み見た。

 マリアは全身を真っ赤にして動かない。

「いや、そんなの、えと」

「はは、先は長いな」

揶揄(からか)ってやらんで下さい」

「ああ、これは失礼」

 カルディナは含み笑いを噛み殺す。

 マリアは未だに動きを止めていた。

「それで、タガネくん。――相談だ」

「うん?」

「改めて、我が兵団に入らないか」

「…………どうして」

 タガネの声が驚嘆で震える。

 昔は黙殺(もくさつ)で峻拒した誘いである。

 無礼であるのはともかく、もはやどこも鬼と畏れる傭兵を迎え入れる気心が全く読めない。

 訝しむ様子に。

 カルディナは微笑みで返す。

「タガネくん」

「…………」

「君はいま、複雑な立場にある」

「複雑な?」

 カルディナが頷いた。

「各国は君の動向に目を光らせている」

「え」

「一人の傭兵としては名実ともに、無視できる力を超えている。たとえ意図せずとも、そうなっているんだ。剣聖という立場を与え、爵位での拘束を目論んでいる」

「……はい」

「それは(ひとえ)に、君が単独であること」

 タガネは押し黙った。

 今年になって、剣鬼は話題に事欠かない。

 それなのに。

 特に傭兵団などに属さず、国の招聘にも応えない。

 誰も剣鬼の心内を知れないのだ。

 これらが剣鬼を。

 野放しになった大量虐殺兵器か、危険な犯罪者の予備軍(よびぐん)だと認識させた。

 ただ定住先を探す。

 旅で路銀を稼ぐためだけの傭兵稼業。

 それが良からぬ疑念を招いていた。

「どうかね」

「……静かに暮らしたいだけなので」

「………………」

「どこにも所属はしない」

「そうか」

 観念して。

 カルディナは背を向けて歩く。

 タガネたちは、その背中を見送った。

「いいのかよ」

「所属すると嫌な責任が付いて来るんでね」

「勿体ねぇ」

「荷物はおまえさんらだけで十分だ」

「おう、言ったな?」

 再び剣鬼隊がタガネを取り囲む。

 タガネはその渦中で、マサトの方を見た。

 地面に尻もちを突いて茫然としている。

 その隣にマタニルが歩み寄った。

 複数人で腰の抜けた勇者を支えて庭園から去っていく。その姿を観戦者たちがせせら笑う声が密かに広がった。

 ふと。

 その中にいる一つの影。

 タガネはもう一人の勇者の姿を見咎めた。

 マサトを一顧だにせず。

 タガネの方を注視していた。

 その視線から逃げるように、タガネはマリアへと顔を巡らせて――。

「まだ固まってやがる」

 立ち尽くすマリアに。

 タガネは静かに呆れ笑いをこぼした。





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