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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話「喚び水」上辺
182/1102



 王城の前庭は賑わっていた。

 城下から十丈以上も高く隆起した敷地。

 その上に王城が建つ。

 前庭と言っても、城下町から王城へ上がるための長い階段(ステップ)の前に設けられた広い空間のことである。

 最大の国土を有するからこそ。

 趣向に占有される面積に躊躇いない余裕だ。

 タガネは鋭く付近一帯を見回す。

「えらい顔触れだな」

 思わず賛嘆に目を(みは)る。

 そこに戦士達が集合していた。

 各国から提供された騎士団。

 名のある傭兵たち。

 魔獣討伐の専門家ともいえる冒険者。

 錚々(そうそう)たる面子が一同に会していた。

 辺境を活動拠点にしている傭兵団もが紛れており、世にも稀な奇観が広がっている。前庭に集った戦力だけでも、国を滅ぼせる軍隊が編成(へんせい)できる。

 ただし。

 相手は国ではなく世界規模で当たる敵。

 これでも心許ない。

 連合国でそれを目の当たりにしたので、対峙する脅威の大きさを痛烈に把握している。人間一人に太刀打ちの(あた)う代物ではない。

 それでも。

 前庭に集まる顔は自信に満ちていた。

 タガネは我知らず彼らを冷笑する。

「お、いやがった!」

「タガネさんっ!」

「ずいぶんと遅い到着です」

 人混みの中から。

 タガネの姿を見咎めて十数人が駆け寄る。

 別れていた剣鬼隊だった。

 タガネは軽く手を挙げて応える。

「息災で何より」

「ったく、オレらがいねぇ間に」

「魔獣数百体と喧嘩ですか」

「勇ましいねぇ」

 口々に剣鬼隊が茶化す。

 タガネは心外だと顔をしかめた。

 ベルソートの依頼もあり、王国の跡地に足を運んだゆえに生じた必然の結果である。魔獣は回避の利かない密度が群棲していた。

 そう説明しても。

 剣鬼隊の耳には届かない。

「ま、無事ならいいぜ」

「おまえさんらもな」

 拳を突き合わせて再会を祝う。

 ふと。

 侍女服のナハトが、黒コートの裾を摘む。

「変わった材質ですね」

「ああ、これかい」

 タガネは黒コートの袖を見る。

 これがベルソートの依頼の報酬だった。

 リッセイウム家の宝剣。

 その真の効果(ちから)は、『勇者の魔力』が宿っているので、突き立てた地から魔獣を退ける。範囲は国土全体には及ばずとも、魔獣の活動を抑える性質だった。

 ベルソート曰く。

『勇者は友人でな、返してやって欲しいんじゃ』

 その嘆願を()けて。

 タガネは私情もあり宝剣を返還した。

 その(むく)いがこの黒いコート。

 ベルソートが保管していたデナテノルズの糸を素材にし、それらを編んで製作した外衣である。魔獣との戦闘で荷物も損失し、防寒具の不足を危ぶんでいたので、是が非でも着る物が欲しかった。

 なので。

 基本的な性能も聞かずに着用している。

 タガネは襟を開いてみせた。

「ちと特別でな」

「売れば高値だろうな」

「世に一つとあって換金が難しいとさ」

 タガネが襟を正す。

 傭兵としては、高価な物ほど持ち歩いても盗まりたり、戦場で命もろとも奪われたりするので、所有する意味はない。

 腰の魔剣ほど思い入れが無ければ。

 早々に手放すつもりである。

「あ、ここにいたのね!」

「うげ……」

「何よ、その反応。……斬るわよ」

 後方から聞き慣れた声。

 タガネは思わず歪めた顔で振り返る。

 銀の軽甲冑(けいかっちゅう)を着た剣姫マリアだった。

 隣に並び立ち、下から覗くように上体を傾ける。顔をそらして逃げるタガネを執念(しつこ)く追った。

 二人の様子に。

 剣鬼隊が口もとの笑みを隠す。

「王国で何してたのよ」

「さてね」

「私にも話せないの?」

 真剣な紺碧の眼差しが射竦める。

 王国関連なので無関係とは言いがたい。

 彼女はいまだルナートスの存命と、そしてタガネの手によって討たれた事実も未確認なのだ。捉えようではマリアの痛憤(つうふん)を招く。

 決闘どころでは済まない。

 しかし。

 マリアの瞳は逃すまじと眼力を強める。

 うっ、とタガネは呻いて。

 しばらくの逡巡の後に、渋々とうなずいた。

「…………いつかな」

「ならよし」

「やれやれ」

「私に隠し事なんて許さないから」

「面倒な小娘だな」

「小僧のアンタと同じよ」

 細々と愚痴るタガネ。

 マリアは余裕の笑みで軽口を返した。

「ミストとフィリアは?」

「王城よ」

「そりゃ何用で?」

「何かの儀式があるみたいで、二人の力が必要みたい」

「…………仲間外れか」

「違うわよ!」

 マリアの爪先が臑に突き刺さる。

 不意打ちによる激痛に。

 タガネは足を押えてうずくまった。

 絶叫を呑んだ呻吟の声を漏らす。

「私は、その」

「うん?」

「あ、アンタを待ってたのよ。王宮には剣鬼も来いって言われてるでしょ」

「そりゃ、そうだが」

 リューデンベルク王国の本部より。

 タガネは王城へと招く書状を受け取っていた。

 王家の証である押印(おういん)と、同封された徽章(キュテルベート)を携えて、王国までの道を急いだのである。

 それが奏功し。

 マリアの予想を裏切って期日内に到着した。

 それでも。

「どうして一緒に」

「い、いつもみたいに遅刻すると思って」

「ひどい信頼だな」

 マリアの苦言に。

 タガネは納得しながら苦々しく笑う。

 痛みをこらえて立ち上がる。

 隣を見れば、耳まで赤くしたマリアが腕を組んでつん、と顎を上げていた。頬に差した含羞の赤みに可笑しさが胸の内で湧く。

 タガネが小さく噴き出した。

「なっ!?」

「いや、こりゃ失敬」

「ッ……ほら、行くわよ!」

「ちょ、いだだだだ」

 マリアに耳を引っ張られて。

 タガネは王城へと連行されて行った。





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― 新着の感想 ―
[一言] 訂正 剣鬼隊とマリアの前でも楽しそうwww
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