表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間・小話
174/1102

一話「隠り歌」前編



 森の奥の館に。

 ()に当たれば焼かれる娘がいた。

 親を知らず、太陽を識らず。

 ただ、ひっそり生きている娘がいた。



 大陸の最西端は森深い地だった。

 常緑樹(マルシュービット)の植生で満たされた地は、吹雪や乾燥にさらされても蒼然と大地から根を絶やさない。

 だからこそか、獣の国となっている。

 鳥の鳴き声、草を食む音、樹間をよぎる影。

 緑が萌え、大気は生気に充ち満ちる。

 だが、人は誰も寄り付かない。

 狩人(かりうど)が獣を仕留めに足を運ぶが、あまり深い所に行くと、帰れなくなるとの風聞がある。

 遭難か。

 それとも、森の奥に怪物がいるのか。

 はたまた、人を惹き留める桃源郷。

 そんな噂が立ち始める。

 いつしか。

 人々はここを緑の沼(シューブネスク)と呼んだ。

 そんな森の中。

 少年が木漏れ日を頼りに進んだ。

 まだ開拓がなされておらず、舗装(ほそう)された道が細々と木立の中を巡る。

 半ば獣道となっており、鞘ぐるみの剣で払いながら歩んでいた。

 そうして少年タガネが嘆息(たんそく)する。

 齢十六の夏、今年で六度目の仕事だった。

 それは森の奥地を調査すること。

 すでに十二件の行方不明の報告が上がっており、これを不審に思って森に隣接する地域を治める辺境伯(へんきょうはく)から依頼が出された。

 そうして。

 請け負った傭兵もまた数名が行方知れず。

 巡りめぐって。

 タガネのところへ話が来た。

「本当、面倒なこって」

 思わず愚痴(ぐち)がこぼれる。

 タガネは方角をあらためながら進んだ。

 日の角度などから進行方向を確認し、森の奥地を目指す。気になった都度(つど)に修整などを心がけるが、特段その足先が(あやま)つことはなかった。

 人を惑わせる力が作用しているわけではない。

 噂では幻惑されると言っていたが。

 尾ひれがついて話が誇張されているのだろう。

 だからこそ。

 タガネは呆れるしかなかった。

「概ねの噂はウソだと」

 もうすぐ噂の奥地に着く。

 信憑性を欠く情報ばかりだったが、実際に行方不明者がいる。その後の消息が(よう)として知れないので、偶然で十数件に及ぶとは考えがたい。

 タガネの予想では。

 純然たる危険が潜んでいる。

「どうせ魔獣か何かだろ」

 タガネは進み出して。

 ふと奥から聞こえた音に耳を澄ます。

 足音、ではない。

 獣の鳴き声にしては、妙に上ずったり低くなったり、語調の変化を感じる。

 しばらく()いて、タガネはそれが歌だと理解した。

 まだ歌詞(かし)は聞き取れない。

 しかし、綺麗な音色だった。

 タガネはそちらへ足を運ぶ。

 そして。

「……化かされてるのか?」

 辿り着いた先。

 そこに集落があった。

 生け(がき)で囲われ、扉と思しき物も設えてある。その奥では土を叩く音がしており、中へ入れば人が畑仕事に(いそ)しんでいた。

 (うね)の間に体の芯を据えて。

 力強く鍬を振り下ろして土に叩き込む。

 人の営みがあった。

 遠くには多数の民家も見受けられる。

 タガネは畑へと立ち寄った。

「もし、そこの方」

「ん……もしかして、傭兵かい?」

「ああ。ちと訊きたいんだが」

「構わんぞ」

 畑仕事に当たる人物。

 その一人だった男に尋ねた。

 彼は肩にかけた手ぬぐいで顔の汗を拭きながら、タガネの下まで歩み寄る。

「地図じゃ、ここに村は無いんだが」

「そりゃ、そうさ」

「……おまえさんは、いつからここに?」

「ここに来て十余年だな」

「今年は移住者なんかがいたかい?」

「いや?」

 タガネは小首をかしげた。

 地図上に無い場所に十年以上前からいる。

 人の手が届いているなら、地図にも記される。『緑の沼』などと()われる所以などないはずなのだ。

 行方不明者は、この村にいない。

 では、何処(いずこ)に……?

 猜疑心にタガネが黙り込むと。

 農夫が北を指した。

「疲れたろ。茶でもどうだ?」

「いや、仕事の邪魔になる」

 タガネは畑を斜視する。

 すると農夫が笑って手を振った。

「なら夜主(ダーティル)の館はどうだ?」

「夜主……?」

「この村を治めてる方だ」

 指し示された方向を見た。

 両脇から梢を伸ばして屋根を作る街路樹の列、その中を潜る長い坂がある。

 そこに薄闇を湛えていた。

「なら、挨拶しに行くかね」

 不気味さに苦笑しつつ。

 タガネはそちらへ向かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ