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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」中央
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 開放された大扉に駆け込む。

 剣鬼隊を歓迎したの円形の広間だった。

 四方に立つ銅像があり、いずれかの内の三つは世に勇名を轟かせる三英雄である。北に()す青年の像の正体は誰も知らない。

 像が立つだけの内装だった。

 上階に向かう手段が見当たらない。

 ナハトの姿もなかった。

 外側から(あらた)めようにも、扉の外側は烈風と轟音に荒れている。一度出れば、巻き添えを喰らって死ぬ危険性もあった。

 ジル達は屋内を調べる。

 部屋に唯一の置物である銅像に触れた。

「ずいぶん古臭ぇな」

「どこかに絡繰があるんでしょうか」

「ナハトめ、案内くらいしろよな」

 不在のナハトに愚痴る。

 ジルは文句を囁きながら、英雄王バスグレイの銅像を眺めた。

 像を支える台座の正面には、名前と端的にまとめられた武勇伝が刻まれている。

 肩に翼の意匠を施した重甲冑の巨漢。

 世情(せじょう)に疎い者でなければ誰もが知っている。

 元は傭兵崩れの騎士。

 自分と同じ生業ながら、世の敬愛を集めてやまない男の姿を(かたど)った物に、奇妙な感慨を抱いていたジルの手元に何かが引っかかる。

 台座の側面。

 その下に紙片が挟まっていた。

 ジルは拾い上げて紙面を広げる。

『四つの銅像の名を唱えろ』

「ナハトか」

 紙片の内容を了解する。

 それぞれを調べた。

 大魔法使い『ベルソート・クロノスタシア』。

 聖女『ヘルベナ・メギフィノ』。

 英雄王『バスグレイ・ディーンオーズ』。

 勇者『マコト・イスルギ』。

 ジルは四名を記憶した。

「うし、唱えりゃ良いんだな!?」

 天井に向かって名を叫んだ。

 その奇行に全員が驚く最中、広間が震動する。

 中央の床が方形に隆起(りゅうき)し、天井まで伸びる。

 柱となった物の先端が衝突し、根本には扉が現れた。ひとりでに開いて、剣鬼隊を招く。

 ロビーが先に行って中を確かめる。

 十数人以上を収容可能な空間があった。

 手招きで後方の剣鬼隊を呼ぶ。

「これは一体……」

「階段、では無ぇな」

「昇降手段なんでしょうか?」

 訝る面々は中に踏み入る。

 全員が柱へと入った途端、扉が閉められる。

 まさか、罠か!

 ジルが扉に槌鉾を振り下ろした。

「ぐッ……(かて)ぇ!」

 甲高い金属音を打ち鳴らして。

 ジルの槌鉾が弾かれた。

 後退した彼を受け止めて、次々と剣鬼隊が破壊を試みる。それも虚しく跳ね返され、誰もが憮然とした。

 この閉塞的な空間。

 退路は無いので嬲り殺しにされる。

 その危惧に青ざめる剣鬼隊の足元が微かに揺らいだ。

 また震動。

 次は何事かと目を瞠る。

「何だ、この異様な浮遊感」

「……まさか」

「どうしたんですか?」

「これ、昇降機なのか」

 ジルが疑心を抱きながら呟く。

 体を底から持ち上げられる浮遊感、壁の奥側から小さく聞こえる歯車の(めぐ)る音。

 ロビーが小首を傾げる。

「昇降機?」

「オレも目にするのは初めてなんだが……」

「これは何なんだ、お頭!?」

「上に昇ってる」

 再び床が揺らぐ。

 すると扉が開かれた。

 また円形の広間が広がっている。

 剣鬼隊は外へと躍り出て周囲を探った。

 そしてすぐに。

 柱のそばに佇む影を見咎める。

「お待ちしていました、皆様」

「な、ナハト!!」

 歓呼の声が上がる。

 剣鬼隊が一斉にナハトへ飛びかかり、肩を組んだり、足を蹴ったり、頭を小突いたりと、密集して大混雑となった。

 だが、誰も気づかない。

 ナハトの右手は義手となっていた。

 ロビーが前に出る。

「……ロビー」

「ナハトさん、ごめんなさい」

「貴方は何も悪くありません。臆して動けなかった私こそ」

「いや。いいんですよ、もう」

「…………」

「おかえりなさい」

「はい。ただいま戻りました」 

 再会を言祝がれて。

 ナハトもまた相好を崩した。

「砦での失態、どうか挽回させて頂きたく」

「ンなもんいいって」

 腰を折って一礼するナハト。

 ジルが苦笑しながら断った。

「剣鬼は、どうされましたか?」

「野郎は前庭で戦ってる」

「ルナートス将軍ですね」

「……アイツ、勝てそうか?」

「私の見立てでは、問題ありません」

 ナハトがが両腕を広げた。

「ここは塔の二階です」

「標的は何処にいんだ?」

「十一階の書斎にいます」

「十一…………」

 ジルは上を振り仰ぐ。

 一階とは様相が異なって階段がある。

 壁面を撫でるような螺旋状の階段が延々と続き、その途上に扉が設けられていた。階層を判断するのは、おそらく壁面から隆起した凹凸である。

 一階は事情を知らない侵入者用の偽装だった。

 ここから先こそ。

 塔の支配者が住まう塔の心臓部なのだ。

 ジルの口角が上がる。

「十一階なぞ直ぐだろ」

「では、案内します」

「なァ、ナハトよ」

「はい」

 ジルへの振り返る。

 ナハトの黒い瞳は以前とは違い、決然とした光を宿していた。

 その様子に、ジルは首を横に振る。

「いや、何でもねぇ」

「…………」

「もう頭は下げんなよ。お前が欲しくて剣鬼隊は走って来たんだ。奪う側に頭下げる必要は微塵も無ぇさ」

「……はい」

 ナハトが微笑んだ。

 その頭上で(きざはし)を蹴る雑踏が聞こえた。

 ジルが視線を鋭く巡らせる。

 階段を駆け下りる兵士たちの姿があった。

 その先頭に、標的(イーザス)がいる。

 兵数も剣鬼隊を優に上回る上に、階段で激突すれば明らかに不利である。それを踏んで、余裕綽々と戦場に出てきたのだ。

 接近する敵影に対し。

 しかし、剣鬼隊は野蛮な含み笑いをこぼす。

 そこに気負いの色は無かった。

「来やがったな、命知らず」

「俺たちに勝てると思ってんのか?」

「ああ、全くだぜ」

 全員が駆け出そうとして。

 それをジルが制する。

「こっちは再戦(ソデュート)だしな」

「それが何か?」

「ヤツはロビーとナハトで仕留めろ」

「え……」

「兵士はオレたちで倒す」

 ジルが目配せする。

 ナハトはしばしの逡巡の後、うなずいた。

 遂に広間へと兵士が辿り着く。

 剣鬼隊へと一直線に肉薄した。ジルを先頭に、それを真っ向から迎え撃つ。

 両軍が激突し、広間が戦場と化した。

 その様子を眺める位置から、階段の欄干に身を寄せているイーザスへと、ナハトとロビーが躙り寄る。

 イーザスが微笑む。

「飼い犬に噛まれるとはぁ」

「もう貴方の走狗(そうく)にはなりません」

「ナハトさんは、僕らの仲間です!」

「……仕方無いかぁ」

 イーザスが腰から斧を手にする。

 肉厚な刃が軽い一振りでも唸り声を上げた。外観からもわかる重量は、片手で扱える彼の異常性を同時に物語っている。

 イーザスは斧を肩に担ぐ。

「一応、戦闘にも心得はあるよぉ」

「……私も、あります」

 裳裾から二本の短剣を取り出して。

 ナハトは胸前で両手に持つ。

「貴方に訓練されたので」

「むふふぃ」

「決別させて貰います!」

 ロビーと息を合わせ。

 ナハトはイーザスめがけて駆け出した。





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