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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
二話「渇く河床」前編
15/1102



 侍女長は困り果てていた。

 理由は一つ。

 剣鬼から預かった少女である。

 王家も贔屓にしている相手とあって、無碍にはできなかったが、今考えれば断らなかった後悔が募った。

 侍女としての仕事があるので、面倒を見きれない。なので、休憩中の侍女や執事に委ねて一時間後に様子見に戻る積もりでいた。

 しかし――。

 一時間もしない内に、侍女が駆け込んで来た。

 驚く侍女長は、子供に不祥事が起きたのだと考え、慌てて侍女の案内を借りて少女の下へと向かう。もし取り返しのつかない事態なら、剣鬼によって両断されるやもしれない……。

 そんな暗い未来図が浮かぶ。

 侍女長は、少女のいる休憩室に到着した。

「もう助けて下さい侍女長」

「何事ですの」

 努めて平静を装いながら問う。

 疲労困憊といった様子の侍女が、部屋の隅を指差した。示された方向に視線を滑らせると、水の入った桶を抱えてうずくまる少女がいる。

 外傷は無い。顔色も、来たときより幾分か良い。

 何ら問題は無さそうだった。

「どうしたのです?」

「実は……あの()、異様に水を求めるんです。何度も持ってくるのが面倒で桶ごと渡したんですが、それすら飲み干して……」

「何度も汲み直させた挙げ句、無言で空の桶を差し出してくるし、大変なんですよ!」

 決河の勢いで流れる文句。

 侍女長は冷静に一つずつ受け止めた。

 頻りに水を求める少女、今も器で掬った分をちびちびと飲んでいる。

 侍女長はふと、その器が薄汚れているのに気付いた。衛生的にも悪い、一見して健康状態が悪い少女に使わせるには不適切な物だ。

 ゆっくり接近し、少女の隣に屈み込んだ。

 替えの器を差し出す。

「器を替えましょう」

「んん」

 少女が首を振った。

「でも、それだと水も汚くなるわ」

 手を差し出して交換を要求する。

 それでも、少女は拒否した。器を庇うように胸に抱く。

 特に外観から高価な物でもない。むしろ旅人が気軽に使う品だった。貴賤の価値など計るまでもないほど粗末である。

 だがしかし、少女は拒絶した。

「強情な子ね」

 困り果てて、ふと侍女長は気付いた。

 この器、もしや剣鬼の所持品では。

 確かめようにも少女の掌中だが、器を庇う態度などからも心情の概ね把握した。

「どうします、侍女長」

「このままでいいわ」

「どうして?」

 侍女長が顔を綻ばせる。

「剣鬼様になついてる様子だわ」

「ええ……あの鬼にですか?」

「美形ですけど、犯罪者予備軍でしょ」

「いや、もう予備軍でも無いな」

 口々に剣鬼の悪印象な部分が上げられる。

 侍女長も、それを強く否めなかった。

 数々の戦場で武功を立て、その分だけ周囲から強い恐怖を抱かれる少年。どんな過去を辿ったのか、全く人を信用していない。

 心の奥底で、人を冷めた目で見ている。

 侍女長は手を叩いて全員を制した。

「この子は私が面倒を見ます。苦労をかけましたね、あなた方はゆっくり休みなさい」

 執事や侍女が、ほっと安堵のため息。

 すると、少女が立ち上がった。

 音もなく立った姿に、全員が思わず沈黙して注視する。さっきと一変して、不機嫌そうな顔だった。

 とてとてと、まだ覚束ない足取りで進んで行く。

 そして。

「え?」

 一人の執事の足を掴んだ。

 突然のことで誰もが戸惑う。

 意図を理解できずに見ていると、捕まれた執事の足から、だんだんと蒸気が立ち始めた。

 異常な現象。

 執事が思わず足で少女を突き飛ばす。

 倒れた少女を無視し、慌ててズボンの裾を捲った。

「な、何だこれッ!?」

 執事がズボンから出した生肌(きはだ)の足は、枯れた樹皮のごとく黒くなり、骨と筋だけになっていた。

「きゃああああ!!」

 執事が驚怖に震え、見ている者も悲鳴を上げた。侍女長も愕然として立ち尽くす。

「ん」

 少女が起き上がる。

 その場の全員が萎縮した。

「あなた、何者なの……?」

 侍女長が震えながら問う。

 しかし。

「ん?」

 少女はただ小首を傾げるだけだった。





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