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タガネは第一要塞を眺めた。
城門に多くの人影が犇めいている。
マリアに何事かあれば、即座に出動可能な態勢で構えているのだ。
それだけ。
剣鬼が南軍にとって脅威として認識されている証である。
安全を案じられるマリア。
当の本人には伝わっていない。
気心の知れた仲だからと、警戒の素振りすらない。顔を合わければ剣突くしてくるマリアが、意気揚々とこちらに走る姿には面食らっていた。
そして。
やはり要件はケティルノース討伐への参戦。
ただタガネには確信があった。
今のケティルノースに対して、ただ兵力を衝突だけでは敵わない。その根拠は、『魔神の加護』によって変質した魔獣の動向だった。
連続した三大魔獣の出現。
どれもが王国に集中していた。
三体は極北の『凪の胎窟』でしか産まれない。そこから遙か南部の王国で発見されるのは不可解だった。
ヴリトラは長期滞在。
デナテノルズは谷間で羽化を待った。
そして。
ケティルノースは、王国を滅ぼすまで大きな報告は無かった。
そこが異様であった。
「もう巫女は体内にいる」
「そう、なのね」
体内で三大魔獣に影響を及ぼす。
それ相応の力が備わっているのは、魔神教団でも『巫女』と呼ばれる特殊な地位の人間のみ。
レインも、その一人だった。
「今のケティルノースって……」
「面妖なやつだ」
「どういうこと?」
「戦略的に国を襲撃する行動もそうだ」
戦略性を持った魔獣。
本能ではなく、意図を以て国を滅ぼす。
つまり。
「ただの魔獣を相手にするのとは違う」
「そうね」
「確実に死ぬだろうな」
三大魔獣で最強の個体。
すでに別の悪意が内在する。
「だから」
「恐らく、馬鹿正直に対峙しても勝てんよ」
「でも、ミストやフィリアたちも――」
「自惚れるな」
冷然とタガネが言葉を遮る。
マリアも思わず固まった。
久しく見た剣鬼の面構えである。正対する人間を心底から凍りつかせる眼差しを放っていた。
「頼るなら俺じゃない」
「じゃあ、誰よ」
「ベル翁だろうよ」
タガネは立ち上がった。
「それに、俺にはやることがある」
「な、世界の危機よ!?」
「知らんよ」
「ま、待ちなさい!」
タガネは踵を返そうとする。
その腕をつかんで止めた。
「要件、もう一つあるの」




