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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」西端
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 タガネは第一要塞を眺めた。

 城門に多くの人影が(ひし)めいている。

 マリアに何事かあれば、即座に出動可能な態勢で構えているのだ。

 それだけ。

 剣鬼が南軍にとって脅威として認識されている証である。

 安全を案じられるマリア。

 当の本人には伝わっていない。

 気心の知れた仲だからと、警戒の素振りすらない。顔を合わければ剣突(けんつ)くしてくるマリアが、意気揚々とこちらに走る姿には面食らっていた。

 そして。

 やはり要件はケティルノース討伐への参戦。

 ただタガネには確信があった。

 今のケティルノースに対して、ただ兵力を衝突だけでは敵わない。その根拠は、『魔神の加護』によって変質した魔獣の動向だった。

 連続した三大魔獣の出現。

 どれもが王国に集中していた。

 三体は極北の『凪の胎窟』でしか産まれない。そこから遙か南部の王国で発見されるのは不可解だった。

 ヴリトラは長期滞在。

 デナテノルズは谷間で羽化を待った。

 そして。

 ケティルノースは、王国を滅ぼすまで大きな報告は無かった。

 そこが異様であった。

「もう巫女は体内にいる」

「そう、なのね」

 体内で三大魔獣に影響を及ぼす。

 それ相応の力が備わっているのは、魔神教団でも『巫女』と呼ばれる特殊な地位の人間のみ。

 レインも、その一人だった。

「今のケティルノースって……」

「面妖なやつだ」

「どういうこと?」

「戦略的に国を襲撃する行動もそうだ」

 戦略性を持った魔獣。

 本能ではなく、意図を以て国を滅ぼす。

 つまり。

「ただの魔獣を相手にするのとは違う」

「そうね」

「確実に死ぬだろうな」

 三大魔獣で最強の個体。

 すでに別の悪意が内在する。

「だから」

「恐らく、馬鹿正直に対峙しても勝てんよ」

「でも、ミストやフィリアたちも――」

「自惚れるな」

 冷然とタガネが言葉を遮る。

 マリアも思わず固まった。

 久しく見た剣鬼の面構えである。正対する人間を心底から凍りつかせる眼差しを放っていた。

「頼るなら俺じゃない」

「じゃあ、誰よ」

「ベル(おう)だろうよ」

 タガネは立ち上がった。

「それに、俺にはやることがある」

「な、世界の危機よ!?」

「知らんよ」

「ま、待ちなさい!」

 タガネは踵を返そうとする。

 その腕をつかんで止めた。

「要件、もう一つあるの」



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