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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話「忘れ敵」北端
134/1102



 降伏を申し出る敵兵に。

 タガネは魔剣を構えたまま対する。

「何を企んでる?」

「城主が死んだ」

 頭目と思しき甲冑が告げる。

 狙うべき首級が襲撃を待たずして死んだ。

 追い詰められて自刃したとしても、必死の形相で逃げる兵士たちの様子と辻褄が合わない。そこまでの覚悟がある人間なら、部下を撤退させた上で独り城に残ってから遂行するはずだ。

 何もかも不十分。

 甲冑姿の言葉が疑わしかった。

「信じられんな」

「バルコニーに首を断たれた死体がある」

「首を?」

 自刃するにしても。

 首を自ら断つのはおかしい。

 東方では介錯をつけて(はらわた)に、この辺りや北部一帯では心臓に刃を突き立てるのが自刃の正道である。

 首を斬るのは怪異だった。

 それも断たれた――胴と首の泣き別れ。

 断頭(だんとう)は一人では不可能な作業である。何者かの手を狩りなければならないし、自刃でも例を見ない。

 タガネは目を猜疑で細くする。

「誰に殺られた?」

「不明だ」

「どうして」

「おそらく外部の工作員の仕業だ」

 タガネは上階に視線を投げかけた。

 甲冑姿は両手を挙げつつ。

「確認が必要か?」

「………まあ、いい」

 タガネは魔剣を鞘に納めた。

 背後の通路から、装束を赤く染めた遊撃隊の面々が現れる。凄烈な追討であったと察せられる様子に敵兵たちがどよめく。

 ジルが肩に槌鉾を担いで歩み寄ってくる。

 その後ろで、ロビーがその腰にすがりついていた。

「十は取り逃しちまった」

「問題ない」

「んで、こいつらは?」

 ジルの敵兵を舐めるように見回す。

 タガネは上階を一瞥する。

「降伏するらしい」

「へー」

「首級は上で殺されたそうだ」

「誰に?」

「不明だ」

「そりゃ奇怪だな」

 ジルが無言で前に手を振る。

 後ろにいた遊撃隊の数名が上階へと駆け上がって行った。言葉なくとも従う様子にタガネは言葉を失い、育まれた連携力を垣間見た。

 そして。

 タガネが呆けている間にも、遊撃隊が一人ずつ拘束していく。

 憮然とするタガネに、ジルが破顔した。

「驚いたか?」

「何をしたんだい」

「雇用主に使い捨てられたと知った今、俺たちは『遊撃隊』じゃねぇ」

「まあ、そうだな」

「俺たちは――剣鬼隊(けんきたい)だ!!」

「やめろ」

 タガネは顔色を悪くした。

 身を忍びたいがために連合国の戦争に参加したのに、剣鬼隊と名がついて行動すれば、国外にも周知される。

 ジルが唇を尖らせる。

「良いと思ったのによー」

「そんなら頭目はおまえさんに任せる」

「お、いいのか」

 タガネは嘆息してロビーを見た。

 まだ蒼白い顔の彼は、虚ろな目で見上げてくる。

「ロビー、頼みたい仕事があるんだが」

「な、なんですか?」

「空に火矢を放ってくれ」

「火矢を?」

「介入の機を見計らってる東軍の連中に制圧完了を報せる」

「りょ、了解です」

 殺傷以外の仕事を任されて。

 ロビーは別の傭兵から矢を受け取ると、外へと向かって行った。先刻の追討で生き残ったのも不思議なほど覚束ない足取りだが、強運の持ち主であることには違いない。

 その背中を見送る。

 最初の奇襲によって半数を失い、しかし後の戦闘で人員は誰一人として欠けていない。

 剣鬼隊とジルに呼称された遊撃隊は、士気の高さこそ使い捨ての雑兵に相応しくないだった。

 ジルが思案げに天井を見上げる。

「んで、どうする?」

「……そうさな」

 語るべくもなく。

 ジルが案じているのは今後の処遇である。

 東軍は報酬を払う腹積もりなく、この奇襲作戦に遊撃隊を駆り出した。それも全滅、相討ちなどで、必然的に報酬の支払いが不能となる事態を目論んでのこと。

 逼迫した東軍の経済。

 この遊撃隊の人数分の雇用一回すら養えるか。

 タガネには無理だと思われた。

 半数まで削減したとはいえ生存している。

 東軍が大人しく応じるか否か。

「なら、砦の中を探っときな」

「んお?」

「あとは追討と道すがらで斃した連中の金品を回収しといてくれな」

「盗賊みてぇな真似だな」

「戦場で挙げた手柄だ。構わんだろうよ」

 報酬が不充分。

 ならば、戦場で得た物に限る。

 砦内部に金庫があれば貯蔵されている者を遊撃隊が必要な分だけ徴収し、そのまま解散するのが最善だ。不足分は斃した敵兵の所有物から補う。

 報酬未払いの危険を回避し。

 東軍とも争わずに契約を解消できる。

 タガネは肩を竦めた。

「ロビーも報われるだろ」

「あんだけ地獄見たのに()()ってのはないよな。がははは!」

「やれやれ」

「そんで剣鬼よ」

「うん?」

「砦攻略の次は何処ぞに行くんだ?」

「南軍だ」

「穏健派が雇ってくれんのか?」

 タガネは手を振った。

「南軍は国土防衛に注力してる」

「それで?」

「戦争派の傭兵だとかは北軍ら辺に着くのが必然、それらが敵に回るとなれば南軍も兵力を欲しがる」

「……なるほど」

「大方、任期数日とかで金が貰えるだろうさ」

「良い商売だな」

 拘束された兵士たちを眺めて。

 タガネは腕を組んで部屋の隅を見た。

 通路の脇に侍女服(メイドふく)の少女がいる。気配もさせず、静かに佇んでいた。

 腰まである緑の金髪と黒い瞳。

 後ろに手を組んで直立している。

 タガネが注視すると。

 その視線をなぞって少女を発見した遊撃隊の一人がそちらに向かって行く。

 少女に対して、話しかけた。

 表情も動かない人形めいた面相。

 唇だけが動いて傭兵に応答している。

 ぞっと、

 タガネの背筋に悪寒が走る。

「そいつから離れろ!!」

「え?」

 大声で警告を飛ばした。

 戸惑いがちに振り返った傭兵。

 その首が――音もなく宙へと飛んだ。

 階段前の一同が天井へと上昇していく生首に視線を取られた。斬られる直前の顔で固まったそれは、床にごとりと鈍い音を立てて落ちる。

 ふと。

 視線を戻した通路の前。

 そこにもう少女はいなかった。

 タガネは急いで周囲を視線で探る。

 ジルも危機感を悟って槌鉾を構え直した。

「何処だ、どこにいやがんだよ!?」

「やべぇ、やべぇぞ!」

「なんだ、あの女のガキ!」

 遊撃隊の全員に伝播していく。

 タガネは視線を砦内の全景に巡らせて。

 また背筋の皮膚が粟立つのを感じた。

 ――来る!

 タガネは剣を後ろへと振る。

 すると、そこに少女が短剣を構えており、接近する剣先を短剣で受け止め、後ろに弾き飛ばされていた。

 床を激しく転がって。

 緑の長髪が床に()()()ひろがった。

 それは(かつら)だった。

 少女がすぐに立ち上がる。

 しかし、剣を防ぎ(おお)せなかったのか腕から出血していた。片手は力なく垂れている。

 いや、それよりも。

 タガネは少女の姿をあらためた。

 緑の短髪に、動かない表情と虚ろな目。

 タガネは剣を構えて。

「いや、女じゃない」

「え?」

「女装した小童(おとこ)だ」

 少女――否、女装した少年。

 侍女服の裾を捌いて床を蹴った。

 タガネに向かって直進する。

 短剣を低い位置から振り上げて、首を狙って来る。

 その寸前で。

 タガネの振り下ろした剣の柄が後頭部を打つ。

 一瞬の苦悶の後。

 少年はその場に崩れ落ちた。

 傭兵たちが慌てて拘束する。全員が短剣を取り上げて、武器の先端をその矮躯に突きつけた。

「殺さなくて良い」

「いいのかよ、剣鬼」

「縛っときな」

 タガネは少年を見下ろして。

 ふと既視感を覚えた。

「この小僧、知ってるぞ」

「あ?知り合いかよ」

「俺たちが広間で見た、奴隷商と一緒にいた男の侍女だ」

「………ああああっ!?」

 ジルも想起して叫ぶ。

 清潔感のある服を着た男の隣に控えていた侍女。たしか奴隷を多く購入し、馬車で反対方向に去っていった。

 ジルは腕を組んで眺める。

「なんで、こんな所に?」

 タガネもまた少年を見つめる。

 例のごとく。

 厄介事を招く嫌な予感が、彼の中に生まれていた。




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