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死屍累々とした森。
遊撃隊は敵を全滅させて一息ついていた。
崖上からの北軍射撃隊を、ほとんどタガネが単騎で撃滅し、危険な勢力は付近にいない。
それでも油断ならない。
塞がれた坑道の前から移動し、砦の西側にある森に身を潜めていた。
遊撃隊が奇襲を仕掛けない限り。
本隊が砦への突入を開始することはない。
まだ傭兵としての任務は続いている。
その前の一休憩だった。
警戒の見張りを数名だけ立たせて。
草の上に全員が車座となる。
「死ぬかと思ったぜ」
「ま、仕返しに三人殺ったぜ」
「ぐははは!!その程度で威張るなよ」
「んたと?テメェも今から頭数に加えてやろうか」
「上等だ、立てこの野郎」
野蛮で品のない会話。
殺伐としていて、けれど彼らにしか伝わらない強迫めいた冗談の可笑しさ。
大いに歓談は盛り上がっていた。
しかし。
その内容の大体を占めるのは先刻の戦闘。
誰が凄かったか、敵の実力は。
そんな話題が持ち上がるが、どう論点を変えても、結果的に誰の目に見ても凄まじい武功を挙げた人物に注視がつのる。
車座の中心で。
タガネは好奇の的にされていた。
「さすがは剣鬼だな!」
「小僧のくせにやる」
「噂になるだけはあるぜ」
口々に称賛される。
タガネの顔は苛立ちで険しかった。
遊撃隊の半数を失って、まだ気概を失っていないのは幸いだが、戦場らしからぬ空気の弛緩に呆れている。
この調子では。
また何処かで痛手を負う。
「おまえさんら、静かにしろ」
「良いじゃねぇか」
「だがな……」
「息抜きなんだから好きにさせてやれ」
諫言を口にする声がある。
遊撃隊の士気を養うため。
この間の抜けた空気も、一見は無駄に思えても次の戦略に活きる有意義さがある。
そう諭しているのか。
一理あると考えて。
タガネは声の主を見るや落胆した。
声の主はジル、それも草枕に夢現にあるようで、瞼は半開きである。彼こそが最も緊張感が欠けている人間だった。
鞘ぐるみの剣で。
半睡眠状態のジルを叩く。
「いでっ、何しやがる!?」
「おまえさん、見張りに行きな」
「マジかよ……眠いぜ」
屈託を口にして。
不承不承とジルは立ち上がる。
まだ血脂の貼り付いた槌鉾を手にして見張りに向かう。その後ろ姿は、戦闘を経てもまだ活力があった。
彼はまだ戦える。
タガネは遊撃隊の顔ぶれを見回した。
「半時で再出撃できるな」
全員の顔色はよかった。
不幸中の幸いか。
矢傷は浅く、辞退する者はいなかった。死者こそいれど、足枷になる怪我人はいない。
これがタガネにとっての僥倖である。
遊撃隊の員数は半数まで減退した。
それでも、まだ奇襲作戦が機能する程度には残存している。懸念していた事態の手前で被害は収まった。
ひとり思考を巡らせて。
ふとタガネは改めて全員の顔を確かめる。
「ロビーがいない」
そこに。
あの眼鏡の少年がいなかった。




