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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」上門
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 リフの家で夜を明かした。

 タガネは雪の囲いを超えて。

 ふたたび集落を横断する表通りへと出た。

 ふたたび温泉郷を目指して。

 コートの襟に顎をうずめながら東へ向けて足を運ぶ。

 雪中行軍の心得(こころえ)があるとはいえ。

 いちいち沈む爪先を持ち上げるのは苦心する。

 集落もそうだった。

 合掌造の屋根が半ばしか見えず、自らの重さで沈んでいるようである。

 その所為か、異様に静かだった。

「人の気配が絶えてるな」

 ほとんど見えない家屋。

 人の有無を判別する徴憑(ちょうひょう)が無い。

 一軒ずつ訪ねて周るしか無いかもしれない。

 リフに聞いたが、住人は病といってリフを遠ざける節はあるが、積極的に忌避(きひ)する態勢では無いらしい。

 近所の家から人が退去するなど。

 露骨(ろこつ)な行動には出ていない。

「しかし、鬼仔ね……」

 鬼仔。

 本来なら人を捕食するのが魔獣である。

 それが他人に遺伝子を残すのは、魔獣の異常行動でも最も稀有(けう)とされる。なお、それが更に無事に生まれるのもまた極小の可能性なのだ。

 タガネも目にしたのは初めて。

 人ならざる形質を有するので、まず相違ない。

 ただ。

 鬼仔は奴隷市場では高く取り引きされるので、滅多(めった)に人里で生活している例はあまり聞かない。

 それが、タガネの疑念を呼ぶ。

「恐れながら匿っている?」

 矛盾している。

 しかし自分には関係ない。

 ただ温泉郷への道の途上に寄っただけ。

 それに、昨日かんじた悪寒が深入りするなと警告している。経験則から、従うが(きち)と判断した。

 さっそうと。

 表通りを辿って東に急ぐ。

 その途中。

 道端に雪をかく毛皮服の老人をみつけた。

(せい)が出ますな」

「ん、あんた何者だ」

「旅の者です。この先の温泉郷へ向かう由、一宿一飯の世話になりました」

 一宿一飯。

 その言葉に、老人が一瞬だけ瞠目する。

 だが、すぐに平静を取り繕って。

「ほう、どこで」

「あちらの方で」

 タガネは顎で後ろを示す。

 西側はいくつも家が建っている。

 曖昧な示し方に老人が片眉をつり上げた。

 どこの世話になったか。

 リフだと明言(めいげん)すれば、余計な厄介をこうむる。それは自明の理だった。

 老人が手を止める。

「あんた、昨晩は何食った?」

「うん……山菜の煮込みを」

 老人の問に。

 ふたたび虚偽で返す。

 これもまた、リフを探るものだった。

 狩人の家に泊まれば、肉を振る舞われやすい、なにせ蓄えが多いのだ。

 その実、昨晩は豪勢(ごうせい)な熊鍋をご相伴にあずかった。大変な美味に、レインも顔をほころばせたほどである。

 ここでうっかり。

 獣肉の馳走(ちそう)と応えたなら、たちまちリフだと露見する。

 タガネは努めて笑顔で応対した。

「ここは雪深いですね」

「ああ」

「住人の皆さんも、(うち)に?」

「動けんのだ」

「動けない……流行り病、ですか?」

 老人が首を横に振る。

 そうして、ちらと西側を一瞥した。

「アイツの出す肉を食うな」

「は?」

「いずれ四肢(しし)が動かんくなるぞい」

 そう言って作業を再開する。

 そのとき。

 風に吹かれて揺れた老人の襟元からのぞく首筋に茶色の(アザ)が見受けられた。

 痣というより。

「……(さび)?」

 一瞬だけ見えたそれに。

 タガネは眉をひそめながら歩を進めた。





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