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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」上門
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 鬼仔――その単語に。

「何ですか、それは」

 きょとん、とリフは小首を傾げた。

 聞いた覚えもない様子である。

 タガネは剣などの武装を解いて、荷物を整理していく。その間、レインは脱ぎ捨てられた黒いコートに(くる)まる、寒さには弱かった。

 リフは途方に暮れて。

 額の辺りに立つ角を手でさする。

「これ、病気じゃないの?」

「なに?」

「えっ、だから、これは病気かと……」

 今度はタガネが首をひねる。

 リフの額にあらわれた物。

 それは紛れもなく、鬼仔と呼ばれる個体の指標(指標)である。病ではなく生態、いわば種として遺伝する形質なのだ。

 血に起因し、由来する。

 血統の問題。

 なので決して。

 唐突に、発症する病などではない。

「いや、病じゃないな」

「でも、みなは病だって」

「そりゃ風評だな」

 タガネは肩をすくめて笑う。

 リフは当惑しつつ。

 空気を温めるべく、囲炉裏に火を焚いた。(まき)の中に宿った熱が薄暗い屋内を柔らかく照らす。

 レインが小さな手を向けて。

 その人形めいて動かない口元を緩めた。

 厳寒の冬に堪えた小さな体が癒える。

 実は、集落に着く直前までは歩いていたものの、寒さに堪えられず魔剣の形状にもどって、タガネに運んでもらっていた。

 雪深い土地に踏み込むと、レインは膝まで埋まるときがある。

 それになおさら嫌気がする。

 火の熱に身を乗り出して温まる。

 タガネも囲炉裏へといざって。

「ふう、こりゃ助かる」

「寒いの嫌い」

「あと少し歩いたら温泉だ」

「おん、せん?」

「あー、っと……ぽかぽかする水だ」

「ぽかぽか?」

 言葉に窮して。

 戸惑いながらタガネが火を指差す。

「あれみたいなのだ」

「……温泉すき」

「まだ入ってねぇだろ」

 タガネがため息して呆れる。

 その正面に腰を下ろし、疑問を抱えた不平顔のリフが、そわそわと質問の機会を待っていた。

 落ち着きの無い様子に。

 ようやくタガネは気づいた。

「おう、悪い」

「ううん。……それで、病気じゃないって?」

「ああ」

 タガネは胡座(あぐら)の上に頬杖を突く。

 灰色の瞳は床を見つめる。

「魔獣と人、その両性を有したのが鬼仔」

「両性」

「多い例は小鬼(ゴゥブル)。女子供を(さら)って陵辱するんだが、大抵が人になれず出来損ないの小鬼になり、出産直後に絶命する」

「うぇ……」

「ただ稀に、二つの血の均衡をとって生まれる。……それが鬼仔だ」

 リフは生々しい話に。

 顔色を悪くして口端が引きつっている。

「人と魔獣の中間とあって畏怖や侮蔑を抱かれやすい」

「そっか……」

「亜人種よりも差別の対象になりやすい」

「じゃあ、ボクって」

「おまえさんの周囲が、病だと(うそぶ)いて遠ざける方便にしてるだけだな」

「…………」

「よくある話だ」

 タガネは事もなげに言い捨てた。

 鬼仔は忌み嫌われる。

 たいがいが体のいい欲望の捌け口に使われる。まともな末路を辿っだ鬼仔の話は前代未聞であった。

 それは世の摂理であり。

 逃れられない(しがらみ)だ。

「たしかに角は生まれたときからだけど」

「……どうした?」

 それでも。

 リフは釈然としない面持ちだった。

「でも、病なんだよ」

「なぜ」

「だって」

 リフが躊躇いがちに口を動かす。

「みんなも、角が生えたんだ」

「………は?」

 そのとき。

 タガネは背筋を駆け上がる悪寒を感じた。

 嫌な予感がする。

 経験から来るのか、本能からの発信か。

 それは定かではない。

 どちらにせよ、(ろく)なことではないのだと直感で察した。


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