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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
1036/1102

小話「夜忘れ」⑷



 剣術大会は三日後に開催される。

 それに合わせ、タガネは会場を確認していた。

 街の中央には、既に祭壇と決闘場となる空間が設けられており、その周囲でも露店などの設営が開始されている。

 大会というより祝祭の様相だった。

 剣術大会の起源は、大国アイケメスを築いた初代国王が平民から剣のみで国の頂点にまで成り上がった経緯から、彼を讃えつつ剣の腕を競う催しが行われるようになったこと。

 その他、大会にはもう一つ意味があった。

 初代国王は最も優れた剣士を傍に仕えさせた。

 優勝者が騎士となる風潮も、そこから引き継がれているのだ。

 だが、今回はいささか異なる。

 優勝者のみならず、上位九名が叙勲。

 アイケメスの三人の姫の近衛騎士という名誉を賜ることが秘密裏に画策されている。

 例年でも、大会で活躍した者が王室関係者の護衛として推挙される件も何例かあり、今回の美のニ姫の近衛となるといった噂もその前列に端を発している。

 今回が特別なのは、姫の近衛採用が主体。

 優秀な者は必ず姫の傍に仕える権利が与えられる。

 誰もが羨む報奨には違いない――が。

「気が乗らんなぁ」

 その風潮にタガネは染まらない。

 休暇に舞い込んだ厄介事。

 近衛騎士の重責という難は逃れられた。

 だが代償として大会上位まで進出し、且つ開催中にタガネの代行をする人材の目利きをしなくてはならない。

 セイレンにも国王にも許可は得ている。

 後は、宣言通りに事を為すのみ。

「よう、剣鬼」

「話しかけんな」

「また冷てぇこと言うなよ」

「虫の居所が悪いんでね」

 背後から合流した男が声をかける。

 タガネは嫌気を全面に出して応えた。

「ここで戦うんだよな」

「そうさな」

「どんな野郎どもがいるのか」

「少なくとも腕の立つ連中が多い」

「へえ、そう考える根拠は?」

 タガネはちら、と会場周辺を流眄した。

 人込みの中に佇む人影たち。

 滞ることなく流れる雑踏の最中で、会場に視線を注いでいる者が何名か見受けられる。いずれも、タガネ同様に周囲を見渡して同じように立ち止まっている者をその目に認めていた。

 紛れもなく。

 勝負への強い意気込みを感じる。

 会場確認は戦場の広さを把握するため。

 限られた空間内にて、自身の戦術を如何に展開する策を早くも練るために実地調査に出ている――そこからは慎重さが窺えた。

 次に、強者の確認。

 同じような行為、思考に及んだ者がいる。

 タガネが彼らを見たように、彼らもまた自身らと似て勝負へ余念の無い姿勢で挑む者、大会では間違いなく難敵となる相手を先んじて確かめられる方法にもなる。

 つまり。

「ここにいる連中は手強いぞ」

「他は?」

「多少は逸材が隠れてるかもしれんが」

「まあ、大方の強敵は確認できるってか」

「ああ」

 タガネは全員の顔を記憶した。

 別の時間帯に現れる者もいるだろう。

 これでも判明した強敵の数の一部に過ぎない。ただ注意すべき相手がいるのも、大会前からの戦意(こころがまえ)を作るのに大切な作業だ。

 失敗は許されない。

 大口を叩いた以上は完遂する。

 タガネは常時より慎重を期することにした。

「足を運ばん連中はどうだ?」

「まあ、手強くは無くとも強いだろう」

「はあ?」

「騎士を決める戦いだしな」

 騎士団へ入る権利が授与される。

 その報酬に目を光らせる者は多い。

 身分の低い者ならば、人生の逆転を狙える大一番ともなりうる。

 しかし、本質は腕を競う大会。

 だからこそ、自信のある者が集まる

 参加者がアイケメス国民に限定されず、傭兵や冒険者などの条件付けがほとんど皆無な状態なのだ。

 戦士としての自負がある者は必ずいる。

 激しい弱肉強食の世界。

 大会の開始と共に力量の低い者が脱落させられ、あとは強者同士の利権を賭けた戦闘へと様相は変わる。

 タガネがここで確認した者たち。

 彼らよりは注意度は低い。

 だが、侮れるほど弱くもない。

「気を引き締めろ、ってこと」

「まあ、端から油断なぞせんが」

「剣鬼なら上位は楽勝だろ」

「おまえさんが勝たんと何も進まないからな…………途中で敗退なんてしたら俺の剣で引導渡すぞ」

「味方が脅すなよ」

 それにしても、と。

 タガネは剣術大会に対し改めて呆れていた。

 騎士には戦術が幾つもある。

 その主武装は剣に限らず、槍や槌など他にも多数あるのだ。剣術大会という名義は形骸化し、今や多様性を許容してあらゆる武器の使用が許可されていた。

 ただ、この規則を弁えている者は少ない。

 大会名と、優勝者が与えられる栄光。

 この二つのみを噂だけで訪れた者は、剣のみに限定されると勘違いする場合もある。セイレンによれば、頻りにそういった者からは不満の声もあったようだった。

 認識の穴を見抜いて。

 大会で力を存分に揮える者が何名いるか。

「おい、あれ」

 不意に男がある方向を指差す。

 その先には武器屋の店頭で新品の剣を掲げた者がいた。

 その体つきや立ち居姿からタガネは実力を推測する。

「剣術の大会と勘違いした阿呆だな」

「危うく俺らもああなってたかもな」

「そうかね」

 タガネは再び周囲を見回す。

 会場を確認する面子は――一名増えていた。

 金色の髪を結わえた中性的な容姿の少年である。

 腰には帯剣、軽甲冑を装備している。

 華奢で小柄な体格だが。

「あれは手強いな」

「うお、すげえ別嬪」

「…………実力を見ろよ、早くもおまえさんの先が暗くなってきたぞ」

「も、勿論かわいくたって容赦はしねえさ!」

「どうだか」

「でも、可愛いことは否定しないんだな」

「生憎と美人とは縁が多いが、どれも碌なもんじゃない。どいつも毒を含んでるんで、極力関わりたくは無いね」

「そりゃオマエの運が悪い」

「おまえさんも痛い目を見るといい」

 脳裏に思い起こす知己の顔。

 会うたびに決闘を要求する剣狂いの令嬢を筆頭に、いずれも恐ろしい者ばかり。

 相手の美醜など実力には関係ない。

 だが。

「あれは要注意だな」

 タガネは少年を見て、警戒の意識を強める。

 空を仰ぎ、日が傾き始めたのを確認した。

「そろそろ宿に戻るか」

「お、じゃあ今日こそ」

「インレッタの秋雨だ」

「奢れよ」

「独りで食え」

 踵を返して、二人は街路を歩く。

 肩を組もうとする男の脇腹に強烈な肘を叩き込み、その場に蹲った状態の彼を見捨てて、タガネは宿へと直行するのだった。








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