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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話『猛き雷』天
1012/1102



 こことは異なる世界。

 退廃が進んでいき、後は破壊神の裁定を待つばかりの場所で、『奥の目』はひとり不貞腐れていた。

 荒野を見下ろす岸壁の上に座し、暗く蟠る雲に覆われた空を仰ぐ。

 この世界に色は無い。

 大地も空も枯れている。

『この世界も消失か』

 たった独り。

 奥の目は誰にともなく呟く。

 巡った世界は数知れず。

 辿り着いた頃には失われる前の世界の骸である。

 ただ絶滅した人類の魂たちが、混沌には溶けず奇妙な動きを見せていることは奥の目も感知していた。

 女神からの力の供給。

 それを絶たれて死滅した世界だ。

 ならば、魂たちが次に求めるのは――。

『女神無き世界、かな』

 魂のみになろうと。

 人間の生存本能は強く根付く。

 肉体に宿る自己保存とは別に、個として自我を得た魂は己の存在を強く保とうとする。

 それが黄泉に蟠る内に、自意識を薄くさせていくことで混沌へと自ら堕ちる。

 何年、何十年、何百年…………それ以上を黄泉で過ごせるのは、魂の存在力において破格の強さを有した者だけだ。

 今回の魂たちにそれは無い。

 ただ。

 黄泉に馴染む前に移動を開始した。

 自らを受け容れる、形を得られる世界だ。

『預言者が余計なことをせねば』

 女神を切除し、独立した世界。

 それを目指して預言者イオリは太古からあの世界に干渉した。

 最初にヴァスシエルという布石。

 最後にタガネという決定打を打った。

 世界の一つが切り離されて、女神は着々と弱体化しつつある。

 自らの力を捻出し、世界を抱える女神はその役目から『世界の保存』が使命なのだ。

 ただ、その行動の所為で一つずつ消滅している。

 いわば自滅行為。

 女神は己の身を削っているに等しい。

 イオリの目的は、滅ぶ前に女神世界を彼女から切り離して、用済みとなった女神の打倒である。

 そうなれば。

『たしかに、ハッピーエンドとやらだが』

 作戦の要であったタガネの世界。

 そこに異常が生じている。

 異世界人の急増は、間違いなく人類の文明に大きな変化を与えるだろう。

 それが、どんな結果に転ぶか。

 いずれにせよ。

 過剰な転生に良い効果はない。

『今が攻め時か』

 奥の目は思案する。

 どうやろうと。

 タガネとベルソートは必ず女神の使徒を感知し、撃退しに赴いてくる。

 ベルソートは別段恐ろしくない。

 問題はタガネである。

 本来なら、魂の本体を女神に記録した使徒はたとえその世界に顕現した際の姿も『影』に過ぎない。

 そこで死のうと、女神がいる限り蘇る。

 しかし、タガネの剣はそれを許さなかった。

 あの斬撃は、影を通して本体にまで到達する。使徒が有する特権、不死の法則を文字通りに切って捨てる。

 奥の目とて、無事では済まない。

 現に女神の使徒数名はタガネに葬られた。

『ならば手段を変えるとしよう』

 目指す結果は同じ。

 ただ過程を変えれば良い。

 奥の目は別世界へと逃れようとする魂たちに対し、外套のフードの奥で目を細めた。

『あれにしよう』






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