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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
八話『猛き雷』天
1010/1102




 剣爵領地への緩やかな旅が始まる。

 ジルニアス――ジルの厚意に肖り、より強い者と対戦する機会を得た。

 まだ反省点が多い現状では、道の途中での修行と、適度な実戦を繰り返さなくてはならない。オーケンとしては是非もないほど胸が踊る方針だが、同時にその困難さも承知している。

 そうそう対戦者は見つからない。

 アマルレアはともかく。

 他の者は潜伏していたり、国を治めたりと容易に会える立場ではないのだ。

 これまでは機運に恵まれていた。

「目的地は雷の港町」

 オーケンは大街道を進んでいく。

 目的地と定めたのは大陸有数の港湾部。

 そこに至るまで二月は要する。

 猶予はそれまで。

 今の己と前世の『擦り合わせ』を行いたい。

 問題は――。

「前世って何のことっスか?」

「っ!」

「覗き見、申し訳ない」

 オーケンの足が止まる。

 口に出していない。

 思考の底を読み取った声に、恐るおそる背後を振り返った。それを肩に乗せられた長杖の物と思しき杖先が頬を突いて押し止める。

 姿は確認できていない。

 声は高く、女性だと判別できた。

 杖を押し返す頬に伝わる抵抗感から握り手の大きさも分かり、そこから推測して体格なども概ね見当がつく。

 いや、そんな情報よりも。

「…………」

「お話、聞かせて頂けるっスか?」

 声が尋ねる。

 オーケンに拒否権は無い。

 相手が危険か否かも分からない。

 そんな現状で相手の意へ不用意に反抗してもどんな目に遭うか予測もつかないからだ。思考を見透かす相手ならば、なおさら慎重にならなくてはならない。

 ゆっくりと頷く。

 杖が肩から離れていった。

 止めていた体を後ろへ巡らせる。

「聞きたいこととは?」

「まずは近場の落ち着けるところに」

 フードで顔を隠した小柄なローブ。

 オーケンは促されて、渋々と付き合った。

 街道の路肩へと移動し、互いに正面から向き合う。

 フードを取れば、その中から金髪の少女の顔が露わになった。

 声以上に幼い顔立ちに絶句する。

 こんな子に背後(ふかく)を許したのか!

 唖然としたまま。

 打ち拉がれるオーケンに少女は微笑む。

 嘲るような、単純に面白がっているような底の見えない笑顔だった。

 アマルレアやジル、この少女といい不思議な人物の顔に浮かぶ表情には、つくづく精神を掻き乱される。

 ――未熟なり。

 オーケンは己の単純さを自戒する。

「まずは自己紹介っスね」

「オーケン、武芸者だ」

「ミシェル、まあ旅の魔法使いっスね」

「拙者に何か用か」

「ええ」

 オーケンは緊張で指先が震える。

 もしかすると。

 このミシェルも異世界人を厄介視する者かもしれない。思考を読む術はともかく、前世――という単語から何かを感じ取っている。

 今も、ミシェルはオーケンを観察している。

 じっ、と目を見つめていた。

「ううん、どういう絡繰か」

「…………?」

「あたし、今は人には気配を感じ取れない魔法を自分に施してるんスよ。なのに、触れたり話しかけたりしても返答が返ってきた」

「な―――!」

「これも可怪しいっスね」

 オーケンは愕然とする。

 いま少女は余人には認識できない状態。

 普通に目視し、会話できているオーケンはその時点でミシェルにとって怪異だったのだ。

 ますます怪しまれてしまっている。

「なぜ拙者の思考を」

「情報収集っス」

「調べごとか?」

「だから街道を通る人間の思考全部(・・)を読み取ってたら面白い物を見つけたので」

「なる、ほど」

 つまり、オーケンは運が悪かったのだ。

「それで、前世って?」

「…………」

 如何に説明するか。

 自分は無害だと主張したい。

「拙者は、どうやら異世界人というものらしい」

「らしい?」

「前世の記憶がある。前世は剣帝という称号を賜った剣士で、この世界に転生した」

「ふむふむ」

「なので、今世はより強さを求めたいと思って武芸者をしている」

「なるほど」

 ミシェルは適当な相槌を打つ。

 その間も視線は逸らさない。

 瞬きもしない瞳にオーケンは恐怖さえ覚えた。

「いま、その修行の旅?」

「ああ」

「そうっスか。――じゃあ、『上』にはあなたのことは無害と報告しとくっスね。ただ羽目を外すのは禁止、今は色々と過敏になってる時期なんで」

「過敏に?」

「異世界人なら分かるかもしれないっスけど、この世界は基本的に女神と敵対してるんス。異世界人を女神から使命を帯びた敵なんじゃ、って考えてるんで」

「女神は世界を護る存在だろう?」

「それが度を超して、幾つも別の世界が滅んでるんスよ」

「な…………!?」

「女神は使徒を送り込んでまたこの世界と接続しようとしていて、だから世界の外側を常に警戒してるっス」

 ミシェルの説明は簡潔的だ。

 深い事情の、上辺を語っていく。

 概ね間違いは無く、けれど微妙に修正点はある。

 ただ初耳のオーケンには、充分に納得する意味が備わっていた。

「そういうことなんで」

「了解した」

「よろしい」

「でも、具体的に何をしたら悪いんだ?」

「王族でもないのに国盗りとか、技術の独占、世界の不和や大量虐殺に繋がる行為全般」

「なら安心だ、拙者にその心積もりは無い」

「それが聞けて良かったっス」

 ようやくミシェルの監視が外れる。

 オーケンは胸を撫で下ろす。

 それから。

「…………」

「ん、何スか?」

 今度はミシェルを自分から見つめた。

「あの?」

「む、拙者の考えてることが分かるのでは?」

「もう興味無いので対象外っスよ」

 オーケンは顔をしかめる。

「ミシェル殿」

「ん?」

「拙者と勝負――」

「しないっス」

「…………やはり読んでいただろ」

「いや、読むほどでもないくらいには顔で語ってたっス」

「……………」

「ま、その代わりと言ってはなんだけど強いヤツを紹介するっスよ」

 ミシェルが懐中から紙切れを一枚出す。

 オーケンはそれをまじまじと見つめた。

 やけに用意が良いような…………。

「どうするっスか?」

「………では、頂戴する」





ルート分岐


誕生前

ヨゾラが国で将軍の妻になる→タガネではない銀髪銀瞳の子が誕生、ただし世界滅亡


イグルとヨゾラが結ばれる→タガネ誕生ならず


幼少期

『征服団』勧誘の受理→IF『征服団のタガネ』

イオリに質問しなかったら→世界滅亡


少年期

『極刀』ユキと結婚→レインと邂逅後、世界を救うも日輪ノ国で死ぬ。


『緑の沼』に定住する→レインと邂逅後、世界を救うも自殺


ヴィータの護衛になる→世界は救えるが、色々とアウト


至星の召使い続行→『元悪徳教祖ですが、今は最高の魔法使いやってます』、世界は救える


レインを連れて王国を去る→ヴリトラ発現後、タガネ相討ち

ベルソートに敗北→何もかもバッドエンド


マリアと結婚しない→セインと放浪、別の形だが辛うじてハッピーエンド


青年期


『哭く墓』リョウに敗北→何もかもバッドエンド


マヤを拾わない→アヤメはリャクナとの闘争で戦死、剣爵近衛団の誕生ならず




脳内にあるルートは大体こんな感じです。




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