表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月は儚く。  作者: miyuz
7/20

闇。

三人一緒に歩んできた道。

 

 これから先も、当たり前のように道は続いている…はずだった。

 

 いつかどこかで、分かれ道に遭遇し、遠回りや迷い道を経験しながら、娘たちは、それぞれの道へと歩みを進めて行ったであろう。


 それが、当然だと思っていた。

 

 しかし、その香里が進むはずの道が突然崩れ落ち、香里は、永遠の暗闇に落ちていった。

 

 分かれ道も、遠回りをすることも無く…。

 

 

 残った私は、幅の狭くなった道を歩み続けることができなかった。

 

 消えた香里を探すように、私も暗い闇の中へ。

 

 どこまで落ちても香里は見えない。

 

 どうして…どこへ行ったのよ。

 

 お母さんに何も言わないで。酷いじゃない。

 

 

 

 永遠と深く沈んでいくように思えた。それでもいいと思った。

 

 暑さも、寒さも、痛みも感じない。

 

 光の届かない暗闇の中。海の底のよう。

 

 ただ、悲しい…。

 

 ふと、誰かの声がした。

 

 お母さん…。

 

 美保の声。

 

 あぁ、そうだった。美保。戻らないとね。

 

 でも…。

 

 香里にもう会えないことも分かっているけど…。

 

 それでも、それでも…。

 

 香里がどこにもいないのよ。

 

 

 

 

 日々の仕事の忙しさで、次第に、涙することも減ってはいった。

 

 しかし、日常生活がすべて思い出。

 

 朝起きれば、歯ブラシがそのまま置いてある。

 

 最初の頃は、朝起きると、もしかしたら、私はあの悪夢から覚めたのではないかと、本気で香里の姿を、トイレや浴室まで、探してしたこともあった。

 

 やっぱり…いない。

 

 チェストの上の成人式で撮った写真。

 

 優しく私を見る香里の目が悲しい。

 

 亡くなってから、気が付いた。

 

 こんな優しい表情だったんだ。

 

 ため息とともに始まる、香里のいない日常。

 

 

 

 買い物に行けば、果物が好きだったな、このお菓子が好きだったな。

 

 アレルギー性鼻炎だった香里がいなくなってから、ストックがたくさんあるティッシュが減らず、買うことがほとんど無くなった事さえも香里がいない事を物語る。

 

 服が好きな香里とよく行った、ウインドウショッピングも、美保とでは、なかなかかみ合わず。テレビを見ても、芸能ネタから、政治ネタまで、会話が弾んでいた香里はもういない。

 

 喪失感を、ぽっかりと穴が開いたようだというが、香里が一人いなくなっただけで、ぽっかりどころか、底なし沼のように、どこまでも深く、永遠に感じた。

 

 それは、5年経った今でも、私は、深い海の中を漂っている。

 

 油断すると、すぐ沈んでしまう。

 

 寂しくて寂しくてたまらない。

 

 それでも、時折、キラキラと光る水面を眺めている。

 

 

 

 事件や、災害などで、家族の安否も不明のままというニュースは、自分はまだマシと感じるようになった。

 

 娘が入った棺が、火葬炉に入る時の強烈な辛さも味わった。

 炉から出て、まだ熱がこもる台の上で、崩されて軽くなった娘の真っ白な骨も拾った。

 

 娘に死化粧を施すこともできた。娘の身体だった遺骨も墓の中に眠っている。


 

 だから、まだマシ。

 

 事件や事故で、ひどく傷つけられた姿なんて…。


 災害で、骨も見つからないなんて…。

 

 耐えられない…。

 

 そう、だから、まだ娘の遺骨がある自分は、まだ…マシなんだと言い聞かせている。

 

 そうやって、沈まないようにしている。

 

 

 後悔と懺悔の日々…。


 許して…香里…。



 私は、水面の向こうのキラキラした世界に戻ることが、まだできない。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=357363286&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ