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月は儚く。  作者: miyuz
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山吹の月。

5年前の9月9日

 

 仕事から帰り、自宅のアパート前。夜空には、大きな明るい月が。

 

 そうだったと、写真に撮ろうとスマホを取り出した。

 

 スマホを構えたとたん、その大きな月は、みるみる雲が隠してしまった。しばらく待っていたが、月は雲が隠したまま。

 

 諦めて、私は、一旦、自宅へ入った。

 

「お母さん、スマホ手に持って、どうしたの?」

 

「今日、スーパームーンだって。職場の子が教えてくれたし、写真撮ろうと思ったら、雲が邪魔しちゃって。」

 

 そう言って、窓から外を見てみたが、隣の建物で見えるわけも無く。

 

「やっぱ見えないか。雲、どうかな。香里も行く?」

 

「うん、私も行く。」

 

 香里と私は、自宅前から30mほど歩いた場所で、明るくなった空を見上げた。

 邪魔雲が消え、堂々とその姿を現した月は、いつもの満月より、何倍も明るく、黄色く、圧倒的に大きかった。

 

「すごいね。こんな大きいんや。あんまり、月なんてじっくり見てないし、スーパームーンなんて、初めて知ったわ。」

 

「あぁ、もう、いやんなっちゃう、ぼんやりにしか写らないよ。月、あんなに黄色く光って大きいのに、写真撮ったら、こんなに小さいわ。お母さんの方が、まだ、きれいに撮れてるね。いいな。いいなあ。」

 

「あとで、送ってあげるよ。」

 

 そんなやりとりをしながら、何枚も、二人で撮りまくった。

 

「う~さぎ、う~さぎ~何見て跳ねる~」

 

「お母さん、なに、その歌。子どもじゃないんだし。」

 

「いいでしょ。月観ると、歌いたくなるんだもの。」

 

「お母さん、可愛い。」

 

 そう言いながらも、香里は、私の声の重ねて、一緒に歌った。

 

『十五夜お月さん、見ては~ね~る。』

 

「ねえ、お母さん、ほんとに、ウサギがいるみたいに見えるね。昔の人は上手く言ったもんだね。」

 

「外国によって見え方違うみたいよ。インド発祥とか聞いたことがある。アジアはウサギが餅をついているってのが多いみたい。ヨーロッパはカニとか、おばあさんとかね。」

 

「ふーん、日本だけじゃないんだ。でも、日本の昔話で、かぐや姫が月に帰ったってあるじゃん。宇宙人かいって思ったけどね。あれはどうなんだろうね。」

 

「そんな事考えたことも無かったわ。あ、この前一緒に見た、かぐや姫の映画、あれ観たからでしょ。」

 

「そう、そう、月へ行く時って、みんな記憶が消えてしまうんだよね。なんか、怖いよね、あの話って。」

 

そう言った香里の声が、気のせいか、寂しく聞こえた。

 

 

 そんな香里とは、最近ギクシャクしていた。

 

 いきなり怒り出したり、口を利かなくなったり、とにかく機嫌が悪かったのである。

 

 悩み事、ストレスを抱えていたことはわかっていた。私に対しての不満もあることも、漠然とだが感じていた。

 

 それだけに、光り輝く山吹色の月を、香里とともに歓喜たこの時間は、特別な幸福感を私にもたらしてくれた。



 そう、特別な時間だった…。

 

 

 

 私には、美保という娘がもう一人いた。

 

 香里の2歳上の姉である。

 

 姉は高校生の時に、アスペルガー症候群を含む発達障害と診断を受けていた。

 人とのコミュニケーションが困難であり、妹の香里とも例外では無かった。

 のんびりで楽観的な姉と、心配性で、いつも不安とイライラを抱えていた妹。

 

 立場は、いつの頃からか、姉妹が逆転していた。見た目も、美保は童顔で、香里は面長でで大人ぽっく、他人からは、よく香里の方が姉と思われていた。妹が美保の服を選び、髪型を指示し、美保も抵抗もなく、受け入れていた。そんな姉妹であった。

 

 11日 夜11時

 

 そんな香里が苛ついた様子で、乱暴な足音をたてて、私の部屋へ入ってきた。


「自分ばっかり、洗い物して。美保、何もしないんよ。ひどいわ。私も仕事で疲れてるのに、お母さん、少しは怒ってよ。」

 

 私は、いつもの姉への愚痴と、軽く受け流し、視線も合わさず、パソコンに向かっていた。

 

 しかし、数時間後、このことを後悔をする時が来てしまったのである。

 

 悔やんでも、悔やみきれない時が…。

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