第七十四話 ドラゴン討伐とかって簡単にするものなの?
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俺たちは元実家の片づけを終えると、クラインさんの依頼を正式に受けるため、ミノーツの冒険者ギルドのギルドマスターであるフランさんに会いに来ていた。
「おう、フィナンシェ。しばらくゆっくりするらしいが、君らのパーティーにやって欲しい依頼がいくつもあるんだが」
冒険者ギルドに顔を出すと、俺の顔を見つけたフランさんがすぐに声をかけてきた。
「どうも、フランさん。アレックさんの依頼が終わったんで、清算に来たのと、実は新しい依頼を受けてしまったので……」
「フィナンシェが悪い病気を再発させてもうてな。また儲けの少ない依頼を受けとるんや。だから、ついでになんか儲け話はないんか?」
ササっと俺の前を横切り、ラビィさんが窓口の椅子に座ってフランさんから別の依頼を引き出そうとしていた。
「おや、そうなのですか? で、ラビィ殿、そろそろドラゴン狩りとかやってみませんか? ほら、ガーデンヒルズでは火の霊鳥様の雛を預かったと噂ですし。鉄を溶かすドラゴンブレスも防げるのでは?」
「ドラゴンかー。そろそろ、ワイもフィナンシェにドラゴンスレイヤーの称号を与えたいところやな。依頼料次第では考えてもええで」
「おぉ! そうですか! これでミノーツからもついにドラゴンスレイヤーが誕生しますな。とりあえず、今ある依頼だとハッケイ山脈に巣を作ってるというドラゴン討伐がありまして。前金だけでも三〇〇万ガルド。成功報酬は一〇〇〇万ガルドと素材売却代は品質次第で上乗せというのがありまして」
やたらと俺たちにドラゴン討伐をさせたがっていたフランさんが、ラビィさんの言葉を聞いて嬉々として依頼の説明をしていた。
ドラゴンスレイヤー……って、俺はまだパーティーのリーダーになって二つの依頼しかこなしてないんだけどなぁ。
たしかにヒナちゃんが炎を勝手に吸いそうな気もするけど……。
さすがにドラゴン討伐は……。
「あ、あのドラゴン討伐は――」
「ああ、そう言えば今回受けて頂いた古代遺跡の近くにドラゴンが巣を作ってるそうです」
ええ!? そんな話、聞いてませんけど!?
話を聞いていたクラインさんが、さりげなくとんでもない情報を呟いていた。
「ヒナちゃん、今度はドラゴン見えるみたいだよー。どんな、ドラゴンだろうねー。おっきいのかなー。ドラゴンの炎ってヒナちゃんにとっては美味しいご飯かもねー」
「ぴよー、ぴぴぴ」
ヒナちゃんを抱いていたコレットが、もうすでにドラゴン討伐をする気だし、ヒナちゃんもやたらとやる気を見せていた。
「そうですわね。若いドラゴンならわたくしたちでも倒せるわよ。ブレスも避けられそうだしね。飛んでたら、わたくしが叩き落しますし。あとはフィナンシェちゃんとラディナちゃんが簡単な仕事をすればドラゴンスレイヤー誕生ね」
エミリアさんも近くの席に腰を下ろすと自分の杖を磨き始めて、やる気を見せていた。
「フィナンシェ君、ドラゴンの鱗ってあたしの弓矢で貫けるかな? 鋼鉄の矢とかの方がいい? あれだったら高品質の矢を作ってもらってもいいかしら?」
そして、ラディナさんも自分の矢筒の中の矢を取り出し、ドラゴンの鱗を貫通できるか俺に聞いてきていた。
もちろん、ラディナさんもやる気に漲っていた。
え? みんなドラゴン討伐にもやる気を見せてる?
「ちょ? みんな?」
「みんなやる気のようやな。ちょうど、金にならん遺跡探索もせなあかんし、色々と装備のための金も入り用やからな」
「これは、受けてもらえるということだろうか? もし、受けてくれるなら、うちのギルドからサポート隊を出してもいいぞ」
ラビィさんもフランさんもやる気を見せている。
これは、もうやるというしかないよな……。
お金もこれから必要になるだろうし。
俺は嬉々とした顔で依頼の内容を書いた紙を出してきたフランさんを見た。
「ふぅ、仕方ないですね。いちおう受けますけど……失敗するかもしれませんよ」
「オレは冒険者の能力を過大に評価しないさ。フィナンシェたちなら、ドラゴン討伐を成し遂げれると思ってる。サポート隊はその古代遺跡の近くにキャンプを作らせればいいか? 飯と物資はそこに集められるぞ」
「この辺りに作って頂けると、遺跡の調査も捗りますし、ドラゴンの討伐もできそうですが」
話を聞いていたクラインさんが、懐から遺跡のある場所の詳細な地図を出してフランさんに見せていた。
随分と詳細な地図があるんだな……。
手つかずの遺跡という話だけど。
「そりゃあ、遺跡を見つけた連中が書いた地図やな。それだけ、手の込んだ地図を書ける連中が手つかずの遺跡を前にして捜索しないと思えんが……」
ラビィさんが地図を覗き込んで、その出来の良さに感心していた。
手書きしてあるが、正確に距離や地形などの情報も書き込んであり、この地図があれば秘境と言われるハッケイ山脈も迷わずに目的地まで到着できそうだった。
「これは、遺跡捜索に出た主の家臣が最後に伝書鳩で送ってきた地図でして……。その後の消息はまったくないのですが、おそらくは……」
「近くにいるドラゴンに食われたか焼かれたかのどっちかやな」
クラインさんが持つ地図を書いた人の末路をラビィさんが呟いていた。
「大丈夫ですわ。わたくしたちは『奇跡の冒険者』ですし、ドラゴンの一頭や十頭くらいは余裕で狩れますから」
「ぴよー、ぴぴぴ」
ヒナちゃんとエミリアさんが先ほどよりもさらにやる気を見せていた。
そんな二人の姿を見て、俺もドラゴンくらいは狩れるのではと思えてきた。
「よし、じゃあ。この辺にサポートキャンプをつくてもろて、いっちょかましたるか! なぁ、フィナンシェ!」
「あ、はい! 頑張ります!」
「よしよし、じゃあサポート隊の選抜はオレがするから一日だけ時間をくれ。すぐに招集する」
フランさんがそう言うと、すぐに窓口の受付嬢たちに指示を出して、ドラゴン討伐のサポート隊の募集が始まっていた。
「マジか! ドラゴン討伐みれるのかよっ! 荷物持ちでいいなら特等席で参加するぜ!」
「おい! フィナンシェがついにドラゴンを狩るらしいぞ! これは色々とあとで噂になるだろうし、見ておいて損はないな! オレは参加するぞ」
「アメデアの奴隷解放、ガーデンヒルズでの炎の霊鳥との取引、次は秘境の古代遺跡でドラゴン狩りだってよー! やべーなフィナンシェのやつ」
サポート隊の募集が始まったことで、それまでひっそりとしていた冒険者ギルドが一気に喧騒に包まれていた。
その後、フランさんがすぐに人選を始め、翌日にはラクサ村の子たちに事情を伝え、俺たちは一路ハッケイ山脈の古代遺跡に向かって出発することになった。