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第七十三話 新天地

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 老人はアイギスの家臣でクラインという名であった。


 そのクラインに椅子を勧めると、依頼の内容を聞くことにした。


「実は我が主のアイギス様が王より与えられたバトルメライの地は、オステンド王国でも僻地に近く……」


 そう言えば、俺はオステンド王国生まれだけどそんな名前の街があるなんて聞いたことないな。


 いつの間にそんな街ができたんだろうか。


 バトルメライなんて地名は聞いたことないんだが……。


 クラインさんの言う通り、ガーデンヒルズより相当僻地なんだろうな。


「ワイもオステンド王国のことはある程度調べたが、バトルメライなんて街は知らんで? どこにあるねん?」


「あたしもそんな街の名前聞いたことないわね」


「わたくしもありませんね」


「実は俺もないんですが……」


 みんなから場所を知らないと言われたクラインさんが『はぁ~』とため息を吐く。


「このミノーツから北に二週間ほど行ったところがバトルメライでして……」


「ミノーツから北ですか? えっと、街道とかないですよ。たしかハッケイ山脈が王都オステランと分断してますし……。アメデア経由でしか北には行けないはずですけど」


 俺は街の周辺の地図を頭に思い浮かべ、クラインが言った場所の位置を考えたが、どう考えても人が住んでいる街があるなんて記憶はなかった。


「実はフィナンシェ殿が言われた通りなのですが、そのハッケイ山脈の大半がバトルメライの地となっております。王がそのように決め、アイギス様に与えられたのです」


「はぁ?」


「ですから、ハッケイ山脈を含む広大な山岳地帯がバトルメライの地になっております」


 ハッケイ山脈はオステンド王国を南北に分ける広大な山岳地帯。


 それが全部バトルメライという領地になったということか……。


 領地としては広大だけど、ほとんどが険しい山岳地帯であり、街道すら通じていないし、人すらいない秘境であった。


「王様も景気よく弟に領地をくれてやったもんやな。しかも、領地だけ広くて街も何もないとなると、態のいい追放幽閉やろ」


 ラビィさんの言葉にクラインさんの顔色がサッと変わる。


「そのようなことはありません。王様からはバトルメライの地を豊かにせよと言われておりますし、アイギス様の移動の自由は許されておりますぞ」


「だが、そんな僻地を与えらえて豊かにしろと言われても打つ手がないやろが。実質、都落ちってことやろ?」


「お世継ぎができたから、争いになりそうな弟は早めに外に出したということかしら」


 ラビィさんとエミリアさんは歴戦の冒険者で、色々と各地を渡り歩いてきたこともあり、クラインさんの話を聞いてお家騒動の匂いを嗅ぎ取っている様子だった。


 そういう考え方もあるか……。


 王様も自分の子供に次代の王を継がせたいと思うだろうし。


 そうなると、王弟のアイギス様は日陰の身の上になるのか……。


 それはそれで可哀想な気もするよな。


 俺はラビィさんたちの話を聞いて、少しだけ王弟殿下のことを可哀想だなと感じていた。


「お二人の言われるようなことは絶対にありません。王は支援も確約されております!」


 クラインさんは都落ちと言われた主のことを守りたい一心で、ラビィさんに食ってかかりそうな勢いで否定していた。


「じゃあ、なんでワイらなんぞに依頼を回してくるんや? 王国の支援があれば街の一つくらい建てられるやろ? 実はその支援の話もうやむやにされたんちゃうんか?」


「うっ……」


 ラビィさんからの追求にクラインさんが言葉を詰まらせていた。


 どうやら図星だったらしい。


 確約された支援は履行してもらえなかったみたいだった。


「あー、これは完全に追放した上で困窮させて抹殺しようとしてますわねー。この国の王様も意外と腹黒い」


「そ、そうなんですか? 俺、王様って意外といい人だなって思ってたんですけど。たまに王家からの施しが街でもありましたし」


 借金で苦しんでいた時、街の教会では王家から提供された炊き出しにお世話になった身なので、王様には親近感を抱いていたのだが。


 アイギス様の件を聞いて、王様も色々な面を持っているのだと思ってしまった。


「そうね。開拓村には支援も少なかったけど、悪い王様という噂は聞いたことがなかった気がする」


 ラディナさんも俺と同じような感想を抱いていた。


「外と内の顔は違うっちゅーことやな」


 ラビィさんがエミリアさんの膝の上で腕を組んでウンウンと頷いていた。


「で、本題だが。ワイらに何をせいと?」


 意気消沈して首を垂れていたクラインさんが顔を上げていた。


「実は、バトルメライの地に新たに発見された遺跡を探索して欲しいのです。まだ、手付かずの遺跡でいくつかの冒険者パーティーにご依頼を出してるのですが、条件が折り合わず」


「手つかずの遺跡やと!?」


 クラインさんの話を聞いたラビィさんは身体を机の上に乗り出していた。


 手つかずの遺跡とかって、あんまりないって聞いたよな。


 見つかると争奪戦になるって聞いたけど、なんでみんな受けないんだろうか?


「じょ、条件は?」


「探索で発見した物は我が主の所有。そこから、成功報酬として一〇〇万ガルドという条件――」


「ど、どあほうっ!! んな、馬鹿な条件で受ける冒険者がおるかっ!!」


 提示された条件にキレたラビィさんがクラインさんの襟首を掴んでいた。


「まぁ、まぁ、ラビィさん落ち着いてくださいよ」


 俺は暴れるラビィさんをクラインさんから引き放す。


 とはいえ、さすがに俺も提示されている条件が悪すぎるのは理解している。


「クラインさん、悪いですけどそれはうちも受けられないですよ。さすがに条件が悪すぎる」


「で、では。バトルメライ領の一部を封土として与えるという条件では? これは主からも承諾を得ております」


 断られまいと必死にクラインさんが条件の追加を持ち出してきた。


「あほ、二束三文にもならん山なんかもらってもしょうがないやろ! むぐぅう」


「はいはい、ラビィちゃんあんまりヒートアップするとコレットが真似するから黙ってねー」


 エミリアさんにラビィさんを押し付けると、俺はクラインさんの肩に手を置く。


「すみませんが、やはり条件面が合わないので――」


「お願いします。あの遺跡から何かしらの出土品がでなければ、我が主は山の中の掘っ立て小屋で困窮し、誰にも知られぬまま死んだことにされてしまうのですっ! フィナンシェ様たちが起こしたアメデアやガーデンヒルズのでの奇跡を聞き、縋るつもりで参りました。お願いします。我が主をお救いください。報酬の件は私が責任をもって主に増額するように進言いたします。なにとぞ!」


 クラインさんが俺の足に縋りついたかと思うと、恥も外聞もなく助けて欲しいと言ってきた。


 心情的には助けてあげたいけど……。


 さすがにあの金額では……みんなのこともあるし、これからはお金もかかるし……。


 迷っていると背後から俺の袖が引かれた。


 振り返ると、袖を引くのはラディナさんとコレットだった。


『これだけ頼まれたらフィナンシェ君だと断りにくいよね? あたしは別にこの案件受けてもいいよ。遺跡とか行ってみたいかも』


 そう小声で耳打ちしてきた。


『コレットも遺跡探索してみたいなーとか思ってたんだー。ラビィパパもエミリアママも反対みたいだけど。ヒナちゃんは賛成みたいだよ』


「ぴよー」


 同じようにコレットも抱き抱えていたヒナちゃんと一緒に受けてもいいと言ってた。


 その様子を見ていたラビィさんとエミリアさんも半ばあきらめ気味の顔をしている。


 あの二人はコレットに甘いのだ。


 一応、みんな同意してくれるか……。


 はぁ、仕方ないな。死んじゃうかもとか言われたら助けないとなんか後味悪いし……。


 受けることにした俺は、足に縋りついたクラインさんを抱き起す。


「分かりました。うちで受けますよ。その代わり、アイギス様への報酬の増額はお願いしますよ」


「ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! 報酬の件はこの私の命に代えましてもかならず増額を進言いたします!」


 俺が受けると言うとクラインが号泣して崩れ落ちた。


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