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第七〇話 アレックへの提案

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 工房に入ると、中にはアレックさんが職人たちに混じって剣を打っていた。


 そんなアレックさんが俺たちに気付くと剣を打つ手を止め、作業場からでてきてくれた。


「どうやら無事に戻ってきたようだね。フィナンシェ君のガーデンヒルズでの活躍は、このミノーツに居ても聞こえてきてるよ。それと、ついに貴族入りしたそうで、まずはおめでとうと言うべきかな。できれば今後はうちを贔屓にしてくれるとありがたい」


「貴族って言わないでください。あれはガーデンヒルズの新しい領主になった人からもらった名誉称号みたいなものですし。俺は一介の冒険者でしかないですから」


「まぁ、万事において控えめなフィナンシェ君ならそう言うとは思ったけどね。オステンド王国内では、君らのパーティーである『奇跡の冒険者』の知名度はあがっていると思ってくれたまえ」


 終始にこやかにアレックさんは話してるけど、自分がリーダーを務めるパーティーが、そんなに有名なのか半信半疑だった。


「そんなに有名なんですかね。ラビィさんやエミリアさんは有名冒険者だけど、俺は駆け出しの冒険者でしかないんですが……」


「いやいや、頭に霊鳥を乗せた青年冒険者フィナンシェの名は王国中に鳴り響いているよ。アメデアの件もあるしね」


 あー、たしかにそういった意味では、頭にフェニックスの雛であるヒナちゃんが乗ってるのは目立つよな。


 普通、こんな場所に雛鳥を乗っけてる人なんていないだろうし。


「フィナンシェはワイが見込んだ男やからな。霊鳥の一匹くらいよゆーで飼い慣らしよる。それとこんな外見しとるが、こいつの中身は凶悪な珍獣やからな。ワイの立派な毛並みを焼きおった」


 ちょっとしたトラブルでピヨちゃんに焼かれたラビィさんが、自分の焦げてチリチリになった毛並みをアレックさんに見せていた。


「どれどれ、ほぅこれは……綺麗にチリチリになっているようで。霊鳥の吐く高熱の炎で鍛えた剣はさぞいい剣になるんでしょうな……」


 ラビィさんの焦げた毛をみて、アレックさんが見当違いの感想を述べていた。


「おっさん、感想がちがうやろ! ワイの立派な毛並みがーむぐぅう」


「はーい、ラビィちゃんは静かにー。焦げたところはわたくしがちゃんとお手入れしてあげますからねー」


「むぐぅ!」


 エミリアさんに捕獲されたラビィさんは、口を封じられていつもの定位置におさまっていた。


「ピヨ、ピヨ」


 その様子を見ていたと思われるピヨちゃんが、ラビィさんを煽るようにさえずっていた。


 毛を焼いた一件以来、二人の仲は緊張したものになっているのだ。


「ぶっはっ! こらぁ! そこの珍獣! 今、ワイのことを煽ったやろ!」 


「ピヨ? ピヨヨ」


「むきぃいい、あの珍獣いつかきっと売り飛ばしたるからなっ!! おぼえとけ」


 いつもの定位置から飛び出したが、小柄な体躯のラビィさんは、俺の頭上にいるヒナちゃんを掴まえようとぴょんぴょんとジャンプしているが、手が届かずにいた。


 まぁ、口ではああ言ってるけど、ラビィさんはなんだかんだでいい人なんで心配はしなくてもいいかな。


「コレット、ラビィパパの拘束をお願いねー」


「はーい、エミリアママ。ラビィパパ、ヒナちゃんを苛めたらもうパパと口きかないからね」


 コレットが『もう、口をきかない』と言った瞬間、ラビィさんの動きが固まった。


「コレット、あほやなー。ワイがピヨを苛めるわけないやろが。ヒナもかわいいやっちゃのぅー」


 さすがのラビィさんも娘に口をきいてもらえなくなるのは厳しいらしく、一気に態度を改めていた。


 そんな様子を見ていたヒナちゃんが、パタパタと短い羽根をはばたかせ、コレットに向かって飛んでいた。


 俺の頭以外だと、コレットに抱き抱えてもらうのが好きらしい。


「ヒナちゃんもラビィパパにボーって息を吐いちゃダメだよー」


「ピヨヨ」


 ヒナちゃんはコレットの言うことを理解したようだ。


「ぐぬぬっ! ヒナめ、ワイの娘にぃ!」


 ラビィさんが歯ぎしりをしてピヨちゃんを見てるけど、まぁ大丈夫だろう。


 俺はなりゆきを見守っていたアレックさんに頼まれていたものの納品をすることにした。


「なんかドタバタしててすみません。頼まれていた火炎岩の納品をしようと思ってたんですが、もう間に合っているようですね」


「ん? ああ、獣人たちが先に運んでくれて、この通り工房は再開してるんだが……。フィナンシェ君がせっかく持ち込んでくれる物だからありがたく買い取らせてもらうよ。それに依頼達成はちゃんとしてくれたから冒険者ギルドにも報告しておきたまえ。あと、うちはフィナンシェ君からの受注は格安最優先で受けさせてもらうからよろしく頼むよ」


 ニコニコ顔のアレックさんが、依頼の完了証明書を手渡してくれた。


 ようやくこれで二件目の依頼達成なんだよなぁ……依頼受けるたびに大事に巻き込まれてとんでもないことに発展してるけど、次こそは普通に依頼を達成したいな。


 それに目的だったアレックさんが作る高品質の武器を格安で供給してもらえるのもありがたい。


 伝説級にしたアレックさんの剣をスキルで何百本も合成させていけば、一振りでドラゴンも倒せる最強の剣ができる気がする。


「本当ですか! 助かります。さっそく、色々とアレックさんにお願いしたいことがあって……」


「なんだい? 私にできることなら協力は惜しまないよ」


「アレックさんに何振りか剣を打ってもらいたくて……あと防具とかもお願いできたらでいいんですが」


「そうか! いいだろう、フィナンシェ君には、私の最高傑作を打ってやりたい。少し時間をもらうがいいだろうか?」


 アレックさんは俺からの提案に非常にやる気を見せてくれていた。


「ええ、また依頼で外に出るかもしれませんが、作っていただけるなら前金をお支払いして――」


「いや、いい。大丈夫だ。フィナンシェ君たちが使ってくれるなら、材料費だけでいいぞ!」


 さすがに三桁くらいは合成に使う予定なんで、材料費だけは心苦しすぎる。


 それに上手く使い道もはぐらかさないと能力のことを怪しまれてしまいそうだし。


 俺はとっさに大量に制作依頼をする理由をひねり出した。


「あ、いや。ローリー・バートさんの交易品にしてもらったり、バイスさんにも献上しようかなとか思ってて、結構な数を注文させてもらうんでちゃんと対価はお支払いします」


「交易や献上品……大量に市場に流れるとなると、さすがに正規値段にしてもらわないと困るな……私の剣は一本一〇〇万ガルド以下では売り出さないし。正規価格の一割引きくらいでいいだろうか?」


「あ、いえ、これで利益を出そうとは思ってませんので……正規の価格で大丈夫です」


 打ってもらうアレックさんには申し訳ないけど、大半は合成による消費になっちゃうんで……。


「そ、そうなのか。本当にフィナンシェ君は変わってるな……交易品や献上品なら装着者指定の加護なしのがいいか。サイズは規格品になるがそれでもいいかい?」


「ええ、それで大丈夫です。とりあえず、剣一〇振りからお願いします。お金の方は滞在中に都合をつけるので」


 さすがに大きな金額になるから、金策も考えておかないといけないな。


 魔法を付与した伝説級の鉄の剣でも製作して販売してみようか。


 そのへんはローリー・バートさんに手紙出して相談してみよう。


「フィナンシェ君からの依頼なら前金なしでいいぞ。剣一〇振りの製作承った。お金はできたときで構わない」


 アレックさんは気前よく、俺からの依頼を前金なしで受けてくれていた。


 本当なら多額の前金を納めてからしか、製作してもらえない人なんで申し出はありがたかった。


「となると、ワイらはしばらく金策をせんとあかんな。ガーデンヒルズでは完全に足が出たからなー。まぁ、将来的には税収の数%が顧問料としてワイらに還元されるようにバイスとは話をつけてあるから安心せい」


「は? そんな話初耳ですけど!?」


 ラビィさんが俺の知らないところでバイスさんたちとそんな取り決めをしてたことに気付かなかった。


 税収から顧問料って、あの詐欺師と同じ行為だとおもうんだけど。


「安心せい、溜め込むつもりはないんやろ? もらった金は消費して街に還元すればええんや」


「そ、それはそうですけど……顧問料をもらえるようなことをしてませんけど」


 俺たちはなりゆきで街を助けただけで、貢献できたと言えるほどのことはしていない。


 それなのに顧問料をもらうとは心苦し過ぎる。


「その顧問料をもらう理由を今から作るんや。ところで、アレックのおっさんにワイから頼みがある」


「ラビィ殿からの頼みですか? できることと、できないことがありますが……」


「分かっとる。頼みたいことは若い鍛冶職人をガーデンヒルズに送り込んでくれんか。あそこでなら、霊鳥の吐いた炎による鍛冶場ができる。霊鳥たちもたまに炎を吐かないと色々とまずいらしい。あそこに住む条件として炎を吐く場所を指定してもらっているんや。そこでなら、霊鳥の吐いた炎の熱を利用できる」


「霊鳥の炎……それは本当ですかな?」


「ああ、フィナンシェが話をつけてるから問題なしや」


 たしかに霊鳥たちの話し合いでそんな話も出てた気もする。


「本当かね! フィナンシェ君!」


 それまでニコニコしていたアレックさんの顔が焦ったように変わっていた。


「え、ええ。ハイガーデンの指定場所に炎を吐くように取り決めはしました。おかげで山に降った雨が熱で温泉に変わってますし」


「任せたまえ! 私自身がそこにいこう! 職人も何人か連れて行く! なんなら、店ごと移してもいい! すぐに行くぞ」


 アレックさんの目の色が変わっていた。


「え? ええ!? 店ごとですか?」


「ああ、霊鳥の炎で武具が打てるなら店の移転くらいどうってことはない。ラビィ殿の提案は即受けさせてもらおう」


「じゃあ、契約成立やな。バイスにはワイから連絡しとくから、準備が整ったらガーデンヒルズに移転すればええ。そして、ワイらが顧問料で製作依頼して、アレック殿が街に納税すれば色々な問題も解決や」


「あ、え? あ、そうなりますかね……ミノーツの街から怒られませんかね?」


 俺は大きな商いをしているアレックさんがミノーツから移転することに一抹の不安を覚えた。


 彼の武具を買うために人が訪れるし、街ではそこから色々な商売が派生していたのだ。


「なに、あっちに新たな支店を出すだけだ。製作の依頼はここでも受けられるようにしておくし、販売も維持する」


「販売維持ですか……それなら……影響も少ないはず」


「ああ、問題ない。ちょうど、独立させたい職人もいたし、そいつにこっちを任せて、私自身はガーデンヒルズで製作に没頭したいのだ」


「アレックさんがそう言われるのなら……ラビィさんの提案を受けてもらえば幸いですが」


「是非、頼む。鍛冶職人として最高の鍛冶場を作りたいと思う」


「交渉成立やな。すぐにバイスには手紙送っておくからな」


 俺はアレックさんの差し出した手を握り返し、彼にガーデンヒルズに移ってもらうことにした。


こちらも連載再開します。こちらは毎週月曜日19時更新を予定しております。


2万pt突破いたしました。応援ありがとうございます。<m(__)m>

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