第六十九話 ミノーツ帰還
誤字脱字ありましたら誤字報告へ
ガーデンヒルズはラディナさんの家で見つかった資金と、南部のアメデアにいる大商人ロリー・バートさんからの物資の提供により復興速度が増していた。
荒廃が酷かったため、まだ再建途上であるが、再生への筋道はヨハンさんとラビィさんが話し合ってすでについていた。
まず街の守護を約束したフェニックスたちはハイガーデンの頂上に住むこととなり、彼らのまとう炎が頂上周辺に露出していた火炎岩を上質化させていたため、新たな輸出品として各地に出荷することになっていた。
さらにフェニックスが山頂に住むことで溜まった熱が山頂に降った雨を温泉化させ、廃棄された坑道から湧出していたのだ。
それを洞窟風呂として観光資源化して、ガーデンヒルズは観光都市化を目指していた。
再生への筋道がついたことで、アレックさんに頼まれていた火炎岩を採取し、依頼を達成するべくミノーツの街へ戻ることをバイスさんに伝えたところ、お礼という形でクレモア家独自の名誉騎士という爵位を贈ってくれていた。
騎士などという身分は俺みたいな庶民には大仰だと固辞したのだが、領民からも是非と懇願されたので代表者という形で受け取ることにしていた。
クレモア家から爵位を授けられたため、世間的には貴族という扱いになるらしい。
そんなことがありながらも、俺たちはグイン船長の船でミノーツまで戻ってきていた。
「ふぅ、やっと戻ってこれたね。アレックさんも火炎岩の到着を首を長くして待ってるだろう。早く持って行かないと」
「そうやな。それで高品質な装備を作ってもらわんと」
元々、高品質の武具を作ろうとしてアレックさんの工房に顔を出したのが、ガーデンヒルズに関わることになった原因だった。
「ピヨ」
その結果が俺の頭に霊鳥が住み、ガーデンヒルズでは領主交代の手助けをする羽目になっていたのだ。
本当にどうしてこうなったと言いたいところである。
馬車がアレックの工房に到着すると、先に連絡が行っていたのかアレックの工房で働いているルーシェが出迎えてくれていた。
「お帰り、フィナンシェ君やラディナさんたちの活躍は話題になってるわよ。その頭の子が例の霊鳥でしょ。可愛い」
「ピヨ」
出迎えたルーシェが俺の頭で丸まっていた霊鳥の雛を撫でていた。
ちなみにラディナさんとコレットの命名により、雛の名はヒナちゃんで決定したそうだ。
霊鳥の雛もその名に反応を示すので、その名で定着していた。
「遅くなったけどアレックさんの依頼品を持ってきたんで納品しようかと。工房にいる?」
「ああ、火炎岩ね。それなら、ロリー・バートさんのところの獣人の人が先に届けてくれたからアレックさん喜んでたわ。アメデアでの恩はこの程度では返せないけどとか言ってたけど」
「え? 獣人の人たちが?」
「ええ、アメデアへ戻るついでだからって置いてってくれたの」
アメデアのロリー・バートさんに雇ってもらった獣人たちは、ガーデンヒルズへ援助物資を持ってきてくれてたな。
帰り際にガーデンヒルズに来た理由を聞かれてたから、アレックさんの依頼だって答えたけど、帰り道で寄ってくれたのか。
今度アメデア行ったらお礼言っとかないと。
「そうだったのか。じゃあ、これは……不用かな?」
「いいえ、受注が山のように溜まってるからいくらあっても足りないくらいよ。それにフィナンシェ君からは高額で買い取るように言われてるし。それに訪ねてきたら工房へ通すように言われてるからね。どうぞ」
ルーシェが俺たちを工房の方へ案内しようとすると、ラディナさんが声をかけた。
「ルーシェ、実はガーデンヒルズに行ったついでにラクサ村も見てきたの。村はやっぱり壊滅してたわ。みんなの家も周って遺体は全員お墓に埋めてきた。遺品だけ持ってきたからみんなを集めてもらっていい?」
「……やっぱりそうだったの。ラクサ村はガーデンヒルズからは近いものね。覚悟はしてたけど……分かったみんなを呼んでくる。家でいいかな?」
「そうね。そうしてもらえるかしら、あたしは先に行ってるから」
「うん……じゃあ、みんなを呼んで行くわ」
ルーシェがそう言うと、他の子たちを呼びに駆け去っていった。
「フィナンシェ君、あたしはあの子たちに遺品を渡してるから、アレックさんにはフィナンシェ君たちだけで会ってくれる? これは、あたしが彼女たちに伝えるべきことだと思うから……」
ラディナさんの顔に寂しげな表情が浮かんでいたが、自分で伝えたいという彼女の意志を尊重することにした。
「分かりました。俺もあとで顔を出します」
「ありがとね、フィナンシェ君」
そう言ったラディナさんは、馬車から降りると遺品が入った袋を抱えて、俺の元実家の方へ歩いて行った。
俺はそのラディナさんの姿を見送ると、ラビィさんたちと一緒に工房へ入っていった。
新章開始です。よろしくお願いします。