閑話:バーリガルの憂鬱
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※三人称視点
天なる国の一角にある神たちが休養を行う庭園に一人の女神が小走りで入ってきた。
庭園に小走りに入ってきた女神はバーリガルであった。
手には書類を持ち、怒気を含んだ顔で一人の女神の前に立って指を突き付けた。
「一体何を考えてるの!! ドワイリス!! あの二人の元に霊獣の一つを与えるなんて!」
バーリガルに指を突き付けられた女神は、フィナンシェたちのいる世界を管理することを任された女神ドワイリスだった。
そのドワイリスは、庭園に置かれた長椅子に寝そべり、バーリガルの詰問に面倒くさそうな顔をしていた。
「なんだバーリガルか。私は今忙しいので、キーキー騒ぐのはやめてくれるとありがたいんだが」
「寝てるだけなのに忙しいとか言うんじゃないの!! そんなことよりも、なんで封印してあった霊獣をあの子たちが解いてるのよっ!!」
バーリガルは手にしていた書類をドワイリスに突き付けていた。
「なんでって、そっちの方が面白くなるからに決まっているじゃない。伝説の霊獣を解放することで、あの子たちもさらに強くなるだろうしね。世界の安定にはそちらの方がいいに決まっている」
突き付けられた書類を一瞥したドワイリスは、それだけ言うと瞑目した。
「ほ・う・こ・く・しょ!! 読めって言ってんでしょっ!!! この脳筋女神がぁっ!!」
「いや、あたしは字を見ると頭痛がする体質でね。無理」
半狂乱のバーリガルが、ドワイリスの顔に書類をグイグイと押し付けていた。
「貴方がやってることは、以前その世界を管理してた女神と同じことなのっ!! 試練という無茶ぶりを二人に与え続け、創造と破壊の力を作り出した霊獣もろとも殺されたって『ここ』に『ちゃんと』書いてあるでしょ!!!!」
「バーリガル、怒るとシワが増えるよ」
「いいから! ちゃんと話を聞けぇえええ!!! 創造と破壊の力を作り出した霊獣の亡骸から、霊鳥、霊亀、霊虎、霊龍が産まれ、力をそれぞれ受け継いでいるの! その中の霊鳥があの子たちの近くにいるのよっ!」
「ああ、私がそうなるように細工したからな」
「だからぁ! なんで、そんなことするの!! 死にたいの!!」
「だって、そうしないと私が暇でしょうがない。面白そうだから世界の管理を引き受けたが、こんなに暇なら異形生物の討伐隊に加わればよかったと思ってるところだ」
書類をグイグイとドワイリスに押し付けていたバーリガルがこめかみを自分の指で揉み始めた。
「あんたねぇ……管理世界が崩壊する可能性もあるのよ。分かってるの?」
「大丈夫だって、こっちの無茶ぶりに対して、あいつらが敵意をぶつけたら潰すだけだし。それにサザクライン様も色々と制約をかけてくれてるから大丈夫だって。あんたって本当に心配性ね。そんなのだとハゲるわよ」
ハゲると言われたバーリガルの額に青筋が浮かび上がる。
「サザクライン様といい、貴方といい、どうしてこう能天気なのかしらっ!! あの世界が崩壊する可能性があるのよ!」
「たかが管理世界の一つくらい壊れることなんて大したことでもないだろう。そう目くじらを立てるな」
「貴方、それでも管理女神なの!! 自分の管理する世界の危機を自分で招いてるんだからねっ!」
ヒートアップするバーリガルの姿を見かねた他の神が止めに入るが、それらを振り切ってドワイリスの顔面に彼女の拳がめり込んだ。
だが、拳は固く分厚いドワイリスの顔に痛撃を与えることはできずにいた。
「いたぁああああっ!! もう、これだから脳筋はっ!!!」
「顔も鍛えてるからな。貧弱な文官系女神の拳なんか痛くも痒くもない」
ドワイリスはポリポリと顔をかく仕草をするだけだった。
「顔を鍛える前に脳みそをもっと鍛えなさいよっ!! この脳筋バカ!!」
「バーリガル、話はそれだけ? 私はもう少し寝たいんだけどいい?」
「ああぁ……サザクライン様はなんでこんな脳筋バカにあの世界の管理を任せたのかしら……心配で夜も眠れない」
長椅子に横になったまま瞑目したドワイリスを見て、バーリガルが半泣きの表情をして立ち尽くしていた。
その彼女の様子を見ていた他の神たちも、バーリガルの様子を見てざわざわとしていた。
やがて、寝息をたて始めたドワイリスに対し、バーリガルも何を言ってもしょうがないと諦めたようで、トボトボと庭園の出口に消えていった。
これにて三章は終わって、次話からは四章です。
忘れてる人も多いかと思いますが、依頼を受けて火炎岩を取りに来てたので、いったんミノーツに納品です/)`;ω;´)