閑話 ラディナの里帰り
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フェニックスが新たに誕生すると、それを皮切りに街は復興に向けて動きだした。
そんな復興の喧騒の中で、俺たちはガーデンヒルズから更に北にあるラディナさんの故郷であるラクサ村に来ていた。
オークたちに捕らえられ、村の最後を見届けられなかったラディナさんが自ら申し出て里帰りをしている。
そんなラディナさんが、ジッと村があったと思われる廃墟を見て涙を堪えていた。
生まれ育った村の建物は火に焼かれて燃え落ちたり、扉が破られたものがいくつもあり、オークとゴブリンが村を荒らした形跡をそのまま残していた。
「ラディナさん、本当に大丈夫ですか? あの、辛かったら俺が代わりにやりますけど……」
村の廃墟には白骨化した遺体がいくつも転がっており、彼らをきちんと埋葬するために墓穴を掘ろうということになっていた。
「……大丈夫……大丈夫だから……ありがとね、フィナンシェ君」
「ラディナお姉ちゃん、コレットもちゃんとお手伝いするからね。今はいっぱい泣いててもいいと思うんだ」
「ぴー、ぴー」
コレットや俺の頭を住家にしたフェニックスの雛もラディナさんを慰めていた。
ラビィさんもエミリアさんも、黙ってその様子を見届ている。
「大丈夫よ。ラクサ村の子たちの分もあたしがきちんと埋葬してあげないといけないわ。でも、ちょっとだけ手伝ってもらっていい?」
溢れ出しかけた涙をぬぐったラディナさんが、無理に作った笑顔で俺たちに手助けを求めてきた。
「はいっ! お手伝いします」
「するよー!」
「ぴー、ぴー」
「しゃーないな。ワイも今回に限り肉体労働をしたるわ」
「じゃあ、スコップ出してみんなでお墓を掘りましょうか」
荷馬車から道具を取り出すと、村の廃墟の中で唯一荒らされずに残っている墓地に新たに墓穴を掘り始める
事前に遺体の数は数えておいたが、ラディナさんの言っていた村人の数から、助かった人はミノーツにいるあの五人とラディナさんだけであった。
手分けして墓穴を掘り終えると、散乱していた骨を丁重に拾い集めていた。
「フェルスおじいさんの家ね……。父がよく世話になっていた人だわ」
廃墟となった家の前で、一瞬立ちすくんだラディナさんの手を俺はギュッと握った。
その意味を理解してくれたのか、ラディナさんも手を握り返してくれた。
俺もずっと一緒に暮らしてきた祖母が亡くなった時は、すごくつらかったのを覚えている。
あの時は本当に涙が止まらなくて、辛くて、寂しかったことを思い出していた。
「ありがとね。フィナンシェ君……フィナンシェ君の手が温かいから涙を流さずにすんでる」
「いえ、俺にはこれくらいしかできないし……」
家の中に入ると、白骨化した骨が二体重なるように倒れていた。
「ラミンおばあさんも……」
「一緒に亡くなってますね……」
「隠れてたのを見つけられたのかも……」
「ちゃんと埋葬してあげましょう」
そう言うと、俺たちは二人分の遺骨を集めていった。
そうして村に散乱していた遺骨を一体ごとに籠に集め終えると、墓穴へラディナさんがそれぞれ家族ごとに納めていった。
「ヒナちゃんよろしくね」
ラディアさんが俺の頭に陣取ったフェニックスの雛の頭を撫でた。
「ぴー、ぴー」
最後、埋める前にフェニックスの雛が口から吐いた火で遺骨の入った籠に火を放つ。
この地では遺体は火葬にするのだそうだ。
寒冷の地であるため、遺体は腐りにくいため、別れの区切りを付けるために遺体は燃やして灰と骨にして墓に埋めるらしい。
「みんな、ありがとね。ラクサ村の住民に代わってお礼を言うわ」
燃えている籠から上がる煙を見ながら、ラディナさんがみんなにお礼を言っていた。
「ラディナお姉ちゃん、アリアンさんに聞いたんだけどね。フェニックスの吐く炎は浄化の炎って言うんだって。この炎で焼かれると綺麗な体になって次の人生はいいことがいっぱいあるらしいんだって! だから、このラクサ村の人たちは……きっと、きっとね」
コレットが墓穴から燃え上がる煙を見て、涙を流して声を詰まらせていた。
「きっとこの村の人たちは来世でいい人生を送れるはずですよ」
「ああ、そうやな。そうじゃなきゃ割に合わんと神さんに直談判せなあかんことになる」
やがて、籠が燃え尽きたところで、みんなで土を被せ、それぞれ墓標代わりの石を乗せた。
「後は、ミノーツにいるあの子たちへ遺品代わりになる品を持っていってあげようかしらね。それで、あの子たちも区切りを付けられるだろうし」
遺体の埋葬を終えたところでエミリアさんが、遺品探しをすることを提案してきた。
それもそうか……。
チラリとラディナさんの方を見る。
「そうですね。あの子たちもその方が気持ちの整理がつけられるだろうし。あたしがあの子たちの家を周って遺品になりそうなものを探してきます。みんなは帰る支度してて」
そう言ったラディナさんが、一人で行こうとしたので、俺も一緒について行くことにした。
「俺も手伝います。荷物持ちくらいできるので」
「ありがと」
「じゃあ、ワイらは帰る支度しとくから、終わったら声をかけてくれや」
「「はい」」
ラビィさんたちに帰りの支度を任せ、俺たちはラクサ村の子たちの家を周って彼女たちへ届ける遺品を集めていった。
そして、最後にラディナさんの家に寄る。
オークが襲来した時にはすでに父親を亡くして一人で暮らしていたそうだが、その家も屋根が焼け落ち、壁と床しか残っていなかった。
「酷いボロ屋だったけど、屋根はあったのよね……。こっちが父の部屋でこっちがあたしの部屋だったの」
ラディナさんが半泣きの顔をして自分の自宅を紹介してくれていた。
色々思い出が詰まった家だったようで、見ているこちらの胸が痛くなる。
「思い出になりそうな品は……地下に作った倉庫兼食糧庫にしかないかも」
家の中は家財も焼け落ち、ほとんどが黒焦げになってなっていた。
ラディナさんは床のホコリを払うと、地下への扉を開ける取っ手を手にして開けていた。
「!?」
扉を開けたラディナさんが、すぐに扉を閉めていた。
様子がおかしかったので、すぐに腰の剣を抜くと彼女の前に出る。
「あのね。フィナンシェ君……どうしてこうなったか分からないんだけど……すごいことになってたの?」
「はい? すごいことって?」
「実は……」
ラディナさんが、ゆっくりと地下への扉を開けていった。
地下に降りる階段があるかとも思ったら、そこには金塊がギッシリと置かれていた。
「ラディナさんって……すごいお金持ちだったんですね」
「そんなわけ!? あたしがフィナンシェ君と出会った時の格好を思い出してよ。ボロをツギハギして着てたでしょ。こんなお金逆立ちしても出てこないから」
「えっと、じゃあこれは?」
「分かんない? なんであたしの家の地下に金塊が詰め込まれてるのか分からない」
困惑顔のラディナさんなので、彼女のお金というわけではなさそうだった。
「とりあえず、どれだけあるか出して見ますか。何か手掛かりもあるかもしれませんし」
「そ、そうね。場合によっては届け出ないと犯罪者扱いされそうだし」
たしかに見える限りだけでも結構な量が敷き詰められているので、あらぬ嫌疑をかけられる可能性はぬぐい切れない。
俺たちは地下室に詰め込まれた金塊を一つずつ家の外に出していった。
「これは……」
だいたい半分くらい出したところで、金塊の出どころを示す情報が出てきた。
金塊の以外にも宝石の付いた首飾りや指輪なども出てきて、その中にクレモア家の紋章が入った指輪がいくつも混じっていたのだ。
「クレモア家が出どころですかね。もしかして、あの詐欺師が集めてたお金かも。金額的にもかなりのものですし」
まだ、半分だがそれでも換金すればかなりの金額になる貴金属類があった。
「きっと、そうだわ。バイスさんたちや街の人たちに返さないと」
「そうですね。そうしましょう! でも、全部乗るかなコレ……」
「多分無理ね。今出した分だけ積んで一旦街に帰って、もう一回こないと」
まだかなりの量が地下室にあると思われた。
その後、ラビィさんたちに事情を話し金塊や貴金属を積み込むと、大急ぎでラクサ村からガーデンヒルズに戻り、バイスさんやヨハンさんたちに事情を話して、金塊と貴金属を渡すと今度は全部の量が載るだけの馬車を連れてラクサ村にトンボ返りした。
こうしてラディナさんの里帰りは彼女の気持ちに区切りを付けることとともに、思わぬ副産物をガーデンヒルズの街へもたらすことになった。
ちなみに総額は二〇億ガルド近くにのぼり、やはり詐欺師が領主を使って街から巻き上げた金のようであった。
俺たちはそのお金を全てバイスさんとヨハンさんに返却した。
おかげでガーデンヒルズの街は多額の復興費用を自前で準備ができ、新たな街の再出発を素早く始められることとなり、ガーデンヒルズは建物を作り直す槌の音がそこかしこで聞こえることとなった。
ラディナさんの里帰りをしました。
もう一話神様パート入れたら、新章入りますので今後ともよろしくお願いします。