第六十八話 霊鳥再誕祭
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街の人の総意により、ガーデンヒルズの守護獣として迎えれられることになったフェニックスのつがいだった。
ただ一つだけ住民たちがフェニックスたちに突き付けた条件を達成するべく時を待っていた。
「いやー、この目で霊鳥の誕生する時を祝えるとは思いませんでしたな。これもフィナンシェ殿がフェニックス殿たちを説得してくれたおかげ。街の者たちも興味津々ですぞ」
バイスの後見役として街の切り盛りをすることになったヨハネさんが、卵が孵るのをジッと待っていた。
その背後からは街の人たちの声が聞こえてきた。
「うめぇええっ! ラビィさん、なんすかこの酒。美味すぎでしょ」
「お前、それはワイの秘蔵の酒やぞっ! バイスが全部食い物や酒は提供するとは言いおったが、ワイの酒はアカンっ! 返せ!」
ラビィさんがぴょんぴょんと跳ねながら、街の人に持って行かれた自分の酒を取り返そうとしている。
今、俺たちがいる領主の屋敷に作られていた墓地神殿には、街の人が集まりフェニックスの雛が孵るまで宴が開かれていた。
大半の人はフェニックスが温めている卵をジッと見ているが、一部の人はお祭りだと称して酒盛りを始めていた。
「んんっ! 神聖な祭りの最中に酒を飲んで過ごすのはいかがなものだと思うが」
ヨハネさんが酒盛りをしていた人たちを諫めると、アリアンさんとバイスさんの二人が止めに入った。
「父上、皆さんがせっかく楽しんでおられるのですから水を差さないようにしてください。このガーデンヒルズは長年、楽しみもなく日々生活をするので精いっぱいな人たちばかりだったのですから」
「ヨハネ叔父さんも固いね。フェニックス様の再誕の場に集うという楽しい祭りでしょ、飲んで騒いでお迎えした方が楽しいでしょう」
二人も結構酒が入っているようだ。
いつの間にか婚約することになっていたが、それを二人は素直に受け入れていた。
お互いがお互いを尊敬してるようで、見ているこちらが照れそうなほど、仲良くしている。
「あの二人、お似合いだよね。幼馴染ってやつでしょ。婚約して、落ち着いたら結婚だって」
ラディナさんもアリアンさんの喜んでいる顔を見ながら、そう俺に囁いてきた。
「たしかにお似合いの二人ですよね。若い領主とその夫人となりますけど、あの二人なら領民思いの指導者として頑張ってくれそうですよね」
「あたしもアリアンみたいにけ、結婚できるのか――」
「ラディナお姉ちゃん、フィナンシェお兄ちゃん! 卵にヒビが入ったよっ! そろそろ卵から孵るよ!」
ラディナさんが、何か言いかけた拍子に卵の前に陣取って、孵化までの記録を記載していたコレットに呼ばれた。
「あ、うん。今行く。ラディナさん、卵が孵るみたいですよ!」
「え? あ、うん。そうね。行こう」
俺はラディナさんの手を引くと、フェニックスのつがいがうずくまって炎を吹きかけている祭壇の方へいった。
祭壇に昇ると、卵にはところどころヒビが入っており、中から噴き出す炎の量は増えていた。
『フィナンシェ殿、もうじき孵ります』
『殻が……』
フェニックスたちがそう言うと、卵が割れ中から一羽の雛が孵っていた。
赤い羽毛をまとった小さ――くない雛がピーピーと鳴いている。
卵の大きさから小さくはないと思っていたが……けっこう大きくない?
「産まれた! 真っ赤な羽毛に覆われてるんだね。はぁ、かわいいよ。フェニックスの雛ちゃんかわいいよ」
間近で見ていたコレットが、ピーピーと鳴いてる雛の様子を手帳に書き写していた。
「随分と太っちょな鳥やな。丸焼きにすると美味そう――」
ツンツンと雛を突いていたラビィさんに、雛が気分を害したのか身体に比例して小さなくちばしの先から小さな炎を吹き出した。
炎はラビィさんの毛を少し焦がしていた。
「あちちちっ! 何すんねんっ! ワイの大事な毛が焦げてまうやろうが!」
「ぴー、ぴー」
「ラビィパパ。雛ちゃんは食べ物じゃないって言ってるみたいだよ」
コレットが雛の言葉を代弁していた。
たぶん俺も雛がそう言いたかったと思う。
「ラビィちゃん、今のはラビィちゃんが悪いわね。はい、ここで大人しくしとく」
「むぐぅうっ! ワイは被害者やぞ!」
毛が少し焦げたラビィさんが、定位置であるエミリアさんの胸の谷間におさまった。
そんなラビィさんを尻目に、フェニックスの雛は小さな羽根をパタパタと羽ばたかせると、俺の肩に止まった。
うぅ、重い。
予想以上に重いんだけども。
肩が抜けるかも。
「ぴー、ぴー」
甘えるように顔を擦り付けてくれるのはありがたいが、その位置はちょっと厳しいかも。
俺は肩に止まったフェニックスの雛を手で掴もうとすると、今度は俺の頭の上に飛んで移動してしまった。
『始祖様はそこが気に入られたようですね』
『少しばかりの間、フィナンシェ殿の頭の上は始祖様に占拠されると思いますが、成長するにつれて身体が大きくなっても重さは軽くなるのでご安心ください』
つがいのフェニックスたちが、俺の頭の上に陣取った子を見て頷いていた。
え? そういうことなの?
結構重たいんだけども……。
「ぴー、ぴー」
俺の頭の上を気に入った雛は丸まって眠ってしまっていた。
ただ、どういう原理か分からないが、俺が頭を振ってもずり落ちないようになっているらしい。
「はぁ、雛ちゃんが頭の上に乗ってる。いいなぁ、フィナンシェお兄ちゃん」
コレットが目をキラキラさせて、俺の頭の上の雛を見ていた。
「たしかにかわいいわね。もう、羽毛も乾いてモフモフしてるし抱き枕にはちょうどよさそうな感触だわ」
手袋をしたラディナさんが、俺の頭の上で丸まっている雛の頭を撫でていた。
だけど、俺からはその姿を見られないんだよね。
ふぅ、まぁ仕方ないか、養育者として預かるって約束しちゃったし。
「さて、フェニックスの新しい子も産まれたことですし、宴の続きを始めるとしましょう」
ヨハネさんも無事にフェニックスの子が産まれたことで、街をあげての祝いをする方に考え方を改めたようだ。
バイスさんが率先して、みんなに酒を配り、その夜俺たちは始祖フェニックスの再誕とガーデンヒルズの街の復興を祈りお祭り騒ぎをすることにした。
これにてガーデンヒルズ編完結となります。
フィナンシェの頭にフェニックスの雛が住み着くことになりましたが、首が折れることは多分ないはず。
次話は幕間ですが来週月曜日に更新させてもらいます。
今後ともRe:サイクルをよろしくおねがいします。