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第六十七話 フェニックスの養育者

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 霊鳥の炎による街への延焼は防がれた。


 けれど、同時に街は領主を失い指導者が不在となり混乱を極めていた。


 領主ザフィードから謀反人扱いされ、追われていたヨハンさんが暫定的に衛兵隊をまとめ、復旧作業に当たっているような始末だった。


「それにしても、霊鳥たちは寝ずにずっと炎を吐いてるとはな」


「ラビィパパ、エミリアママ、あの卵いつ生まれるのかな?」


「フィナンシェちゃんとラディナちゃんの話だと七日温めるって話だから、明日くらいには生まれるんじゃないのかしらね」


「フェニックスの赤ちゃんってどんな感じかなー。楽しみだなぁ。徐々に卵の中から出てる炎の色が変わってきてるんだよ。そろそろかなぁ」


 コレットが神像の前で卵を炎で温める霊鳥のつがいをジッと床に座って観察していた。


 この七日間、コレットも霊鳥の卵にとても興味があるらしく、ことあるごとに観察日記をつけているらしい。


 ラビィさん曰く、『うちの子は天才だから将来は大学者になる』と親バカ全開の発言も出ていた。


 いや、案外好奇心旺盛なコレットは学者になってるかもしれないな。


 そんなことを思いながら、霊鳥たちの様子を見ていた。



 俺たちは、あれから霊鳥の怒りで焼け落ちた屋敷の隣にある墓地神殿に寝床を移している。


 あの炎上騒動で、霊鳥たちは街の人から恐れられる存在となり、神殿を巣として使う七日間、俺たちに彼らの監視役兼伝達者をして欲しいと頼まれ。


 逆に霊鳥たちからは、自分たちの言葉が街の人たちに伝わらないのでこちらの意思を伝えて欲しいとも言われていたのだ。



「それにしても、やっぱり領主のザフィードは死んでたわね。ガレキに潰されて圧死とは憐れだとはいえ当然の報いね」


 隣に立っていたラディナさんが、天井に穴の開いた祭壇を見ていた。


 あそこでザフィードは全身の骨を砕かれ、圧死した状態ですでに発見されている。


 そのまま棺に納められ、同じく潰れていた息子の死体と共に領主一族の眠る墓地に埋葬されていたのだ。


「ええ、憐れな末路でした。詐欺師に振り回され、死んだ息子を生き返らせようとして狂った男。これが鉱山がなくなり傾きつつあった街を守り抜いた男に贈られた街の人からの評価だと思うとなんとも可哀想な気もします」


「フィナンシェ君、あたしが死んでもあたしを生き返らせようとしちゃダメよ」


 ラディナさんが俺の手をギュッと握ってそう呟いた。


 死は誰にでも訪れることだ。


 けど実際、自分の一番大事な人がそうなったら、ザフィードのようにならない保証は俺にもできない。


 ラディナさんを生き返らせることができる方法があれば、俺は迷わずその方法を使うだろう。


 幸いにして俺にはリサイクルという生物すらも再構成できる力がある。


 復活させられる力があって使わない誘惑には勝てそうになかった。


「無理かも……俺はラディナさんを復活させてしまうかもしれない……」


「リサイクルスキルで復活させるのは無理よ。あたしはあたしを解体できないもの。だから、あたしの死は死としてちゃんと受け入れてね。もちろん、フィナンシェ君とずっと一緒に暮らして図太く生きるつもりだけどさっ!」


 俺が深刻そうな顔をしていたのを気にして、ラディナさんが明るく背中を叩いてきた。


 死は誰にでも平等に訪れるんよな。


 俺は自分の与えられた力を過信しているのかもしれない……。


 今は一生懸命にラディナさんと暮らしていくことの方が大事ってことだな。


「分かりました。ラディナさんにはしっかりと図太く生き残ってもらいますからよろしくお願いしますね」


「うん、ずっと一緒だよ。フィナンシェ君」


 そう言ったラディナさんが、俺を抱きすくめる。


 俺もラディナさんをそっと抱きしめた。



「あー、ゲフン、ゲフン。二人でいちゃついとるところ悪いんやがな。子供の教育上よろしくないんで、そういうことはこっそりと裏でやってもらえへんかー」


 いつの間にか、抱き合っていた俺たちの間にラビィさんが入っていた。


 どうやら大事な娘の前でいちゃつくなと言いたいらしい。


「ラディパパ、エミリアママ、見えないよー。フィナンシェお兄ちゃんとラディナお姉ちゃんどうなったのー」


「まだ、コレットには早いわねー。あと五年したら見せてあげるわ」


 こちらを向いてバタバタしてるコレットの目をエミリアの手が覆って隠していた。


「あ、はい。すみません。気を付けます」


「ラビィは本当に変わったわねー。出会った時はうちの村の子たちを手籠め――」


「どあほうっ! ワイはそんなことする男やないぞ! 立派で誠実でモフモフのカワイイ生物なんやっ! 人をケダモノのように言うなや!」


 娘の前で色々と暴露されかけたラビィさんが、ラディナさんの口を必死で封じていた。


 そんな時、神殿の入り口から声をかけられた。


「あのヨハネ叔父さんが呼んでるんで、フィナンシェさんたちに来てもらっていいですか? そろそろ、街の人の意見も集約できたので」


 声の主は次期領主に就任予定のバイスだった。


 重臣だったヨハネの後見をうけ、彼の娘のアリアンと婚約し、新しいガーデンヒルズの領主として出発することがバタバタと決まっていた。


 衛兵隊からは反対意見も出たが、彼以外にクレモア家の血筋の者は残っておらず、ヨハンに継がせなければ王国に領地を召し上げられると言われ反対者も声を引っ込めていたのだ。


 そんな領主就任予定のバイスだが、当の本人はヨハンさんに政治向きのことは丸投げし、自分はアリアンと街の神殿で寝泊まりし、炊き出しを手伝ったり、街の復興作業を指揮していた。


「分かりました。霊鳥たちも街の人の意見は尊重すると言ってますので、バイスさんたちの決断をお聞きしましょう」


 霊鳥たちが炎で卵を温め始め、明日で七日ちょうどだった。


 これまでの間にヨハンさんが街の人から色々と意見を集約し、霊鳥を受け入れるか、退去してもらうかを話し合っていた。


 意見は割れに割れ色々と問題も起きているが、霊鳥を長年神として祭ってきた街なので、ハイガーデンに住み着いてもらい街の守護をしてもらうべきという意見が大勢を占めていた。



『フィナンシェ殿、わたしたちのことは気にせずに街の人たちのお気持ちを第一にお考えください』


『我らはそれだけの恐怖を与えましたので……仕方ありません』



 霊鳥たちは俺のことを卵泥棒ではなく、始祖再誕の使者と認め、丁重な言葉で喋ってくれていた。



「承知しました。どちらも納得いく形で話をまとめたいと思います。霊鳥様たちが荒れ狂っていた理由、そして謝罪の気持ちもできる限り向こうには伝えてあります」


『ありがとうございます。それと、フィナンシェ殿にはもう一つ頼みがあります。聞いてもらえるでしょうか?』



 雄の霊鳥が炎吐くのを止めると俺の前に進み出た。



「頼みですか? 俺にできることなら何でもしますが」


『ありがとうございます。頼みというのは、これから生まれる始祖様をフィナンシェ様のもとで養育して欲しいのです』


「はい? 俺が雛の養育者に?」


『急な話で申し訳ないのですが、始祖再誕には種火の使者が来ると言われており、その種火の使者に始祖様を預けよと一族に伝わっておりまして……。あてはまる人物はフィナンシェ様たちですので、是非、始祖様を養育していただきたく』



 雄の霊鳥がそう言うと、卵を温めていた雌の霊鳥も頷いていた。



 つまり、フェニックスの雛を俺が預かって育てるということかな……。


 それって結構、大変なことなんじゃ……。



 俺が困惑しているのを見た霊鳥が慌てて言葉を継ぎ足す。


『養育といっても、フェニックスは勝手に火を食べて育ちますし、手間はないかと。成鳥になるまでは赤い羽根を持つただの小鳥にしか見えませんし。是非、心優しきフィナンシェ殿の元で養育をしていただきたくお願い申し上げます』


 雄の霊鳥が床に這いつくばって頼み込んできた。


 とはいえ、霊鳥たちのリーダーの生まれ変わりである始祖鳥を養育するのは大役な気がするんだが……。


 それにみんなも……。


 ちらりとみんなの方を見ると、二名の目が光り輝いていた。


 コレットとラディナさんだ。


 『是非受けるべき』と言っているような気もする。


 ラビィさんとエミリアさんは『俺にお任せ』と言いたげにしていた。



 コレットとラディナさんのあの期待に満ちた目を見せられたら断れないか……。


 俺は二人の顔を見ると、霊鳥の雛を養育することを決めた。


「承知しました。大事な始祖様は俺たちが大切に養育させていただきます」


「やったあぁぁあああっ!! ラディナお姉ちゃん、フェニックスの雛と一緒だよっ!」


「どんな子か楽しみね。ああ、名前決めないと!」


 背後ではすでに名付け準備に入っているラディナさんとコレットがいた。


『ありがとう。そして、わたしたちの子供を頼みます』


「ちゃんと顔は見せに来るのでご安心してください」


 俺は丁重に頭を下げていた雄の霊鳥を助け起こす。


 これから生まれてくる卵は始祖の魂が宿るとはいえ、彼らの子供である。大切に養育していかねばならなかった。


「フィナンシェさんの口から、なんかよく分からない話が聞こえて来ましたけど……」


 内容がいまいち伝わっていなかったバイスが不思議そうな顔をしていた。


 俺とラディナさん以外に霊鳥の声が聞こえてないので、内容が掴めなかったらしい。


「ちょっと、これから生まれるフェニックスの雛の養育者に選ばれたみたいです」


「ええ!? フェニックスの養育者ですか!? なにしてんすかフィナンシェさん!!」



 いや、今回は本当に何もしてないんだけど……。


 街を救おうとはしたけどさ。


 フェニックスの養育者になるなんて、俺ですら思ってなかったよ。


「どうやらそう言うことになったみたいで……」


「はぁああ……すごいですね……さすがフィナンシェさんだ」


 バイスが感心したような声を出していた。


 こうして、俺はフェニックスの養育者になり、ガーデンヒルズの街はフェニックスのつがいの守護を受け入れ、バイスを領主にして復興の道を目指し動き始めることとなった。


ガーデンヒルズ編はあと一話で完結です。

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[一言] トラブルの悪k…予感w
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