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第六十二話 燃える街

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 坑道から逃げ出すことに成功した俺たちは日が落ちるのを待って、グイン船長たちが船を止めて待っている漁村へと歩き出そうとしていた。


 その矢先――街の上の方に作られた領主の屋敷付近からまぶしい光とともに炎が吹き上がっているのが見えた。


「おい、フィナンシェ。なんか領主の屋敷が燃えとるでぇ! どうなっとんのや!」


 俺と一緒に最後尾を走っていたラビィさんも、いきなり吹き上がった炎にビックリした顔をしていた。


「そんなの俺にも分かりませんよ。また、炎が!?」


「鳥? 鳥みたいなのが飛んでるのが見えるけど。ああ、口から火の玉を吐いてるみたい」


 ラディナさんが、炎が吹き上がる屋敷の方を見て眼を細めていた。


 火を吐く鳥? まさか、霊鳥とかじゃないよね?


「たぶんつがいで飛んでる。赤い羽根の大きな鳥が屋敷を焼いてるっぽい」


「火を噴く赤い羽根の大きな鳥……。ハイガーデンに営巣している霊鳥のフェニックス様……なぜ、領主の屋敷を」


 アリアンさんが火を噴きあげている領主の屋敷を見て、不安そうな顔をしていた。


「ザフィード様とミドリルが霊鳥様の怒りに触れる何かをしたのか……」


 ヨハネさんも目を細め、燃える屋敷の様子を見ていた。


 その顔には自分の主君だった人物を心配する様子と、その主君を狂わせた男への憎しみが入り混じった表情が見て取れた。


「おい、あのままにしとくと街の方まで火が回るんじゃないか?」


「たしかにあの火勢だと木を伝って下にまで飛び火はするかもしれないわね」


 バイスさんもエミリアさんも屋敷が炎上する様子をみて、下に広がる街への延焼を危惧し始めていた。


 たしかに言ったとおり、あのままあの場所で火の手が燃え上がっていると、風向き次第でガーデンヒルズの街まで延焼する可能性もあるかも。


「えらいこっちゃやで。街ごと焼け落ちる可能性もあるっちゅーことか」


「そんなのみんなが焼け出されちゃうよ。なんとかできないのかな。ラビィパパ、エミリアママ何かいい方法はないの?」


 コレットが燃え上がる屋敷を見て、不安そうな顔で周囲の大人たちを見ている。


 ハイガーデンで大人しく過ごしていた霊鳥が、急に屋敷を襲うなんて本当に何があったのだろうか。


 嫌な予感しかしないが……。


 俺は燃え上がる屋敷を見て、このまま街を離れてはいけないような気がしていた。


「霊鳥をどうにかできれば、エミリアの魔法で火の延焼はどうかできそうやがな……あの炎を吐く鳥を相手にするのは死ににいくようなもんや。それにワイらは今はお尋ね者やぞ」


「でも、街のみんなが……」


「コレット……」


 ラビィさんもエミリアさんもコレットの懇願に対し、口をつむぐことしかできなかった。


 今戻れば衛兵に捕らえられるのは間違いない状態なのだ。


 そうこうしている間にも、つがいの霊鳥が放つ火の玉は、時間を追うごとに火災の範囲を広げていた。


 衛兵に追われている以上、俺たちは逃げなければならない身なのは分かる。


 だが、かといってあのまま街を放置すれば、俺たちを助けてくれた住民たちは本当の廃墟に住むはめになりそうだ。


 領主からの重税に苦しめられ、やっとの思いで生活している街の人たちが、領主の屋敷からのもらい火で住処まで追われるなんて……。


 彼らは何ら悪いことをしていたわけでもないのに、なんでそんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。


 そう思うと、俺は街を去ることができなくなった。


「すみません! 俺は戻って街への延焼を防ぎます! みんなは早く漁村に向かってください」


 そう言った俺の袖を引いたのはラディナさんだった。


「フィナンシェ君、あたしはどこでもついて行くって言ったよね。置いてくなんて言わないわよね? あたしの力は火除け地を作るのに最適だよ」


 すでにラディナさんも戻って街を救う気だった。


 危険な場所に彼女を連れて行くのは気が引けたが、二人でならやれることはいっぱい増える。


「ごめん、ラディナさん。俺のわがままにまた巻き込むのを許して」


「なんで謝るの? あたしはそういう優しいフィナンシェ君が大好きだから気にしてないよ。さぁ、街の人たちを早く助けよう! 街はあたしとフィナンシェ君に任せて、ヨハネさんたちは早く逃げてください」


 ラディナさんが俺の手を引くと、街の城門へ向けて歩き出していた。


「そういうことなんで、ラビィさんあとの護衛は任せます」


「あほかっ! リーダーが率先して仕事放棄とかないわ! 街を助けにいくんやったら、ワイを倒し――ぶふぉ」


 魔法で口を拘束されたラビィさんが、エミリアさんによって抱え上げられていた。


「フィナンシェお兄ちゃん、コレットも行く。何もできないかもしれないけど、お水くらいは運べるもん」


「わたくしの力をもってすれば、あの程度の火は朝飯前で消せますわ。さぁ、ラビィちゃんも行くわよ」


「むふうううっ!!」


 そんな俺たちを見ていたヨハネさんたちが、街に向かおうとする俺たちの前に進み出た。


「フィナンシェさんたちだけにやらせるわけにはいかない。オレもあの街を助けに戻る」


「私もです」


「わしも戻るとしよう。捕らえられるかもしれんが、そっちの方が街が焼け落ちたという報告を他の街で聞くよりは一〇〇倍もマシだ」


 護衛を依頼してきた三人ともが街に戻ると言い出していた。


 戻れば衛兵隊が俺たちを捕らえに来るのは確実なのに、彼らは俺たちと一緒に戻ると言っていた。


「それじゃあ逃げ出した意味がなくなってしまいますよ。バイスさんたちは街を復興させるのに必要な人材ですから、この場は逃げて下さい」


「フィナンシェさん、オレは街の連中を見捨てられない。それにフィナンシェさんは縁もゆかりもない癖に助けに戻って行こうとしてるじゃないですか。オレはヨハン叔父さんの言葉が本当なら先代領主の息子なんで、街の連中を命を張って助けなければならない使命があるんです」


「バイスの言う通りです。わしらはこの街を守る義務がある。だから戻るそれだけです」


 バイスさんもヨハネさんも、あの状況の街を見てこのまま逃げ出す気は毛頭ないと意思表示していた。


「ヨハネさん……バイスさん……分かりました。一緒に街を救いましょう。衛兵隊は俺たちがなんとかします」


「むふううう、ぶはぁ! エミリア、ワイを殺す気か! 呼吸できずに逝くとこやったぞ!」


 エミリアさんの魔法によって口を拘束されていたラビィさんが口を開いて息を吸っていた。


「あらー、ごめんなさい。ちょっとだけ覆う範囲が広かったわね。ラビィちゃんはこっちの方が良かったわね」


 そう言ってエミリアさんはラビィさんを摘まみ上げると、自らの胸の間に挟む。


「まいど、これで誤魔化しおってからに! まぁええわ。それにしても、お前らもあほの集まりやな。まぁ、ワイもあほうになるとするかの。バイス、お前領主にしたるから、ワイらの罪は全部チャラにせいよ」


「分かってる。街の恩人を犯罪者にはさせねえよ」


「おっしゃ、次期領主様からのお墨付きもろたからには、エミリアは全力出してええぞ。邪魔する衛兵は吹き飛ばしたれや」


「おっけー、領主の衛兵隊相手に派手に一戦しますわよ」


 エミリアさんが本気出すとアメデアの時の一件もあるんで、やりすぎそうな気もするけど……。


 今はそんなことを言ってる時じゃないな。


「もう一度だけ聞きますけど、皆さん、街に戻るということで大丈夫ですね?」


 俺の問いに全員から承諾の頷きが返ってきた。


 そして、俺たちは火の手が迫る街へ戻ることにした。


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