第六十話 ラビィの復興計画(仮)
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アリアンさんの後について城壁の近くまで来ると、壁際の茂みの奥にかなり巧妙に偽装された穴が開けられていた。
大きさは大人がかがんでやっと通れるくらいで、アリアンさんの情報によればハイガーデンの山に縦横無尽に掘り抜かれた坑道につながっているそうだ。
「えらい、薄暗い穴やな」
「衛兵たちの目をかいくぐって外で物資を調達するために作られた穴ですから。狭いかと思いますが距離はそこまでありませんので我慢してください」
先導するアリアンさんは小さなランタン一つだけを灯し、穴の中に入っていく。
「さぁ、わたしの後ろをついてきてください」
「フィナンシェさん、前方はオレたちのパーティーに任せてください。みんなもヨハネ叔父さんの護衛を引き受けてくれました」
バイスさんが仲間たちとヨハネさんを担いで先行すると申し出てくれていた。
バイスさんとその仲間は本当に仲が良いらしく、彼の巻き込まれた騒動にも嫌な顔一つせずに行動を共にしてくれていたのだ。
「分かりました。アリアンさんとヨハネさんを連れて先に行ってください。俺たちはエミリアさんの魔法の光もあるし、後ろを守ります。中は暗そうですから何かあったら叫んでください」
「承知した。アリアン、みんな行くぞ。ヨハネ叔父さんも脱出までは我慢してくれ」
バイスたちがヨハネさんを担ぐと、先に穴の中に消えていった。
そして、俺たちもエミリアさん、ラディナさん、コレットを先に行かせ、外には俺とラビィさんが残って追手の様子を窺っていた。
「どうやら、追手はワイらを見失ったようやな。それしても、ミノーツまで帰るとなると、グイン船長の船を止めた村まで歩きで戻らなあかんな……。この穴がどこに通じてるかは知らんがけっこうな距離、身を潜めて動かなあかんぞ」
「分かってます。幸いもうすぐ日が落ちますから、追手も俺たちを見つけにくくなると思います。その間に距離を稼ぐしかないですね」
「絶対的な権力を持つ領主と喧嘩なんてアホのすることやが、今回は領主がドアホなやつなんで行くとこまで行くしかないやろな。今度の件を上手く立ち回れば銅像だけでなく爵位もらって貴族入りも夢やないで」
「仮に貴族入りってなっても、堅苦しいだけですからご辞退させてもらいますし。俺は街の人が普通に暮らせるようになるだけで十分なんですけどね。そのための協力なら惜しみませんよ」
「ほんま、お前は無欲なやっちゃなー。冒険者として依頼に命を賭ける代償分は報酬としてもらっておかなあかん。いつもそう言っとるやろ」
ラビィさんが呆れた顔で俺を見てきた。
言いたいことは重々承知している。
冒険者は義理や情でなく報酬で動くのが鉄則。
ラビィさんとパーティーを組んで旅するようになってからずっと言われてきてることだった。
自身が何度も義理や情で依頼を受け、苦労したという話はエミリアさんからも聞いていたので、俺には同じ苦労を味合わせまいと口を酸っぱくして報酬で動けと言ってくれていた。
「分かってます。ヨハネさんやバイスさんとの報酬の交渉はラビィさんがやってくれるんですよね?」
俺がそう言うと、ラビィさんが肩を竦めた。
「ふー、しゃーないのー。あの街の連中から報酬をもらうわけにはいかんし、バイスを領主に据えてもらうもんとして候補はワイらの指定した業者の入市税永久無料権くらいやな。ロリー・バート殿を巻き込んで格安物資を放出してガーデンヒルズだけでなく、辺境開拓村も牛耳るちゅー手もありか。ワイらの取り分は売り上げの2%くらいでええやろ」
「それって、俺たちが今の領主と結託してる商人になるってことじゃ……」
「あほか、ワイらは南で余っとる廃棄予定の格安物資を放出するんや。目先の利益なんぞ船代くらいにしかならんわい。それよりか、人は豊かになれば消費する生きもんや。そうなってからが儲け時やぞ。順番を間違ごうたらあかん」
「ラビィさんそれって……復興計画じゃないんですか?」
「ん? ワイらの報酬を多くするための方策やぞ。金のないバイスやヨハネ殿だけじゃ、仮に領主を打倒しても早晩この街は潰れよるからな。報酬をとりっぱぐれないよう、稼がせてやらなあかん」
ラビィさんは俺たちが領主と敵対すると決めた時から、すでにその後を考えてくれていた。
やっぱり色々な修羅場をくぐり抜けてきているラビィさんの頭の回転は速かった。
「あとはこの街になんの産業を興すかやが……金鉱山は鉱脈が尽きとるし、街はこんなんやしなぁ」
生活するのがやっとであるガーデンヒルズで、産業として興せそうなものは現状なさそうであった。
「それはバイスさんたちに任せておくしかないんじゃないですかね。俺たちは復興までお手伝いするというところで止めた方がいいと思います」
「まぁ、それもそうやな。産業については住民たちとバイスたちが考えるところやな。ワイらは物資の調達を後押しするくらいしかできんやろうし」
「そうですね。でも、ラビィさんがそこまで考えてくれてたと思うと、安心してバイスさんたちを助けられます。勢いで助けちゃったけど、あとのこと何にも考えてなかったんで」
「うちのリーダーはそういうやつちゅーのは、ワイが一番よう知っとる。リーダーが困らんようにするのがメンバーの務めや」
そう言ったラビィさんはやっぱりかっこよかった。
困った時に助けてくれる仲間がいるから、俺も無茶なことをやれてきていた。
「ラビィさん、ありがとうございます」
「大冒険者エルンハルト・デルモンテ・ラバンダピノ・エクスポート・バンビーノ・フォン・ラビィの相方は、同じく大冒険者になってもらわなあかんからな。いいってことや」
俺はラビィさんにお礼を言うと、周囲の気配に気を付けつつ、穴の中に入っていった。