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第五十六話 炊き出し

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「調子に乗ってちょっと作り過ぎちゃったかしら……」


「かもしれませんね。神殿にならんでる人の一〇倍分の食糧はありますよ」


 神殿の裏にはうず高く積み上がった野菜や干し肉、そしてパンがあった。


 出来上がったものを細かくして再構成しまくってたら、必要以上に作り過ぎちゃった気がする。


「でも作っちゃったからにはみんなに食べてもらわないともったいないしね」


「ですね。神殿まで来るときもみんなお腹を空かせてたみたいですし、お腹が満たされたら落ち着きを取り戻してくれると思いますしね。さっそく、アリアンさんたちに言って炊き出しの量を増やしてもらいましょうか」


「うん、運ぶのも一苦労だし、バイスさんたちにも手伝ってもらおうか」


 俺とラディナさんは神殿の裏に積み上がった食糧を運び出してもらうため皆を呼びにいった。



「すみません、ちょっと問題が発生しまして……」


 ならんでいる炊き出し待ちの人たちを青い顔で見ていたアリアンさんに話しかける。


「も、問題ですか……?」


「ええ、大問題かもしれません」


「だ、大問題ですか?」


 大問題と聞いたアリアンさんの顔色がいっそう青くなる。


 しまったそういう意味の『大問題』じゃなかったんだけど……逆に心配させちゃったかも。


「ああ、違うんです。実は大量の食糧が手に入りまして……多分、あそこにならんでる人たちじゃ食べきれないかもって話でして」


「た、大量の食糧ですか!? そんなものをどこから……この街に潤沢な食糧がある場所なんて……」


 しまった……そうだよね……この街は食糧もこと欠く人がいっぱいいるのに大量の食糧が手に入るとかおかしいよね。


 でも、アリアンさんもバイスさんたちも俺の力のことは知ってるから、クズから大量生産ができたって言っても大丈夫だよな。


 ちらりとラビィさんに視線を送ると、俺たちが食糧を大量生産した理由に見当がついてるようで『喋ってもいい』とでも言うようにうなずいていた。


「え、えっと、俺とラディナさんの例の力で大量の食糧を再構成してまして……それがちょっと作り過ぎてしまいまして……」


「え!? え!? フィナンシェ様たちの力は食糧にも影響するのですか!?」


「えっと、みたいです。神殿の裏に積み上がっているんでみんなに移動を手伝ってもらいたくて……」


「ほ、本当ですか!?」


「フィナンシェさん、本当ですか!? そういうことなら、オレたちがすぐに運びますよ」


「コレットもお手伝いする」


 バイスさんたちも話を聞いていたようで、驚いた顔をしてすぐに神殿裏へ駆けだしていった。


 しばらくすると、神殿の裏からバイスさんとアリアンさんとコレットの驚きの声が響いてくる。


 すみません、頑張り過ぎちゃいました……。


「やっぱりちょっと頑張り過ぎちゃったわね」


「ですね」


 俺とラディナさんは顔を見合わせるとお互いに苦笑いをしていた。


 それから、炊き出しの準備は順調に進み、ならんでいた人の数も人が人を呼び三〇〇人を超えてきたが、作り出した食糧はゆうに一〇〇〇人分を超えているので問題はなかった。


 俺も出来上がった具沢山スープを器によそおってあげると、パンも一緒に手渡していく。


「お腹いっぱい食べて下さいね。まだ、たくさんありますから」


「ありがたや、ありがたや、早いところくたばりたいと思ってたがこんなおいしい食事ができるならもうちょっとだけ生きたいねぇ」


 二回目の炊き出しを手にした老婆が、俺の顔を見ると手を合わせて拝んできた。


 炊き出しの材料を俺たちが出したことは、アリアンさんたちには伏せておいてもらった。


 なので、今回の炊き出しは火の霊鳥の神殿が独自で行っている炊き出しとなっている。


 領主が領主なのでラビィさんとエミリアさんには、この街では特に目立つなと言われているため、神殿の名前を借りているのだ。


「おばあさんもいっぱい食べて元気になってくださいね」


「おいしいご飯をたべたいから、もう少しだけ頑張ってみようかね」


 老婆が炊き出しを受け取ると、頭を下げて去っていく。


「おばあちゃんが喜んでる。よかった、よかったよ。フィナンシェお兄ちゃん」


 炊き出しを手伝っていたコレットが滂沱の涙を流して喜んでいた。


「コレット、鼻水も出てるから。ほら、これで拭くよ」


 俺はポーチからハンカチを出すと、涙と鼻水でべしょべしょになったコレットの顔を拭いてあげた。


「ありがどう、フィナンジェおにいじゃん」


「コレットは感受性が豊かな子ね。さすがわたくしの娘ですわ。善行を積むと自分にもいいことが舞い戻ってくるからドンドンやりますわよ」


 その様子を見ていたエミリアさんが、コレットの頭を優しく撫でていた。


「ワイの娘やから、世界一の幸せ者になるのはもはや確定しとるがな」


 はい、ラビィさんが親バカになったのは知ってますから。


 コレットが嫁に行く人は、面倒な父親を説得する苦労で倒れないか今から心配でしょうがないですけどね。


 しばらくすると、列にならんでいた人たちのお腹も満たされたようで、炊き出しは終わりを告げた。


 残っていた食材は自分たちが食べる分と、また再構成する分を除いて、すべてを街の人に分配して持ち帰ってもらっていた。


「ふぅ、あれだけ山積みだった食材もあっという間になくなったわね。でも、あたしとフィナンシェ君がいれば、いつでも食糧は作り出せるから食べ物は何とかなるけど」


「ありがとうございます。フィナンシェ様とラディナ様たちにはなんとお礼を申し上げればいいか……」


 炊き出しの道具を洗い終えたアリアンさんが、深々と頭を下げてお礼を言っていた。


「いえ、自分たちにできることをしたまでですし……それに明日からはもっと多くの人が炊き出しにならぶと思うんですが……どうしましょうか」


「その件ですが……厚かましいお願いですが……しばらく、ご協力を頂けないでしょうか……さして、差し上げられる対価もありませんが……」


 やっぱりそうなるよね。


 このまま、放置すればアリアンさんも困るだろうし、食糧を増やすことができるのが判明したからには、街の人がある程度落ち着くくらいまで炊き出しのお手伝いをさせてもらうのもありかな。


「フィナンシェさん、オレからも頼む。生まれ故郷がこんな状況なのにオレには何もしてやれない。報酬がいるって言うんならオレがフィナンシェさんの下僕になってもいい。だから、虫のいい話なのは承知で頼む、街の連中を救ってくれ!」


 バイスさんもアリアンさんと一緒に頭を下げていた。


 今回は火炎岩をとりにハイガーデンに来ただけのつもりだったけど、予想以上にガーデンヒルズの様子が酷すぎて何かできないかなと思っていたところだった。


 ちらりとみんなの顔を見る。


 ラビィさんもエミリアさんもコレットも、そしてラディナさんも俺が『人助け』をするだろうという顔をしていた。


 すみません、そのとおりです。


 乗りかかった船ですし、せめて街の人が生きる気力を取り戻せるくらいにはお手伝いをさせてもらいたい。


「分かりました。しばらく、神殿に逗留させてもらってお手伝いさせてもらいます」


「あ、ありがとうございます。これぞ、霊鳥様のお導きですね!」


 アリアンさんが俺たちを伏し拝むようにして喜んでいた。


 それから俺たちは毎日神殿が行う炊き出しの手伝いをするようになり、一週間ほどが経過すると、鬼気迫る表情をしていた街の人の顔に余裕と活気が戻り始めていた。


 そして、また炊き出しの準備をしていると事件は起こった。


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