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第五十三話 惨状の街

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 城門をくぐり抜け、街の中に入るとガーデンヒルズの中はまさに廃墟とでも言うべき街並みであった。


 壁が壊れていても修繕されず放置され、木の窓は外れてぶら下がっていても直されず、屋根が崩れ落ちそうになっている民家もたくさん並んでいた。


 明らかに俺の実家のボロ家よりも格段にボロい家々が街の中心部に並んでいるのである。


 城壁だけは立派にできてるんだけどなぁ……それに比べると街並みが酷すぎる……。


「えらい、ボロい街やのぉー。あれだけ入市税をガメた領主のおる街とは思えん小汚い街並みやで」


 口と鼻を俺の手が塞いで失神寸前だったラビィさんにはさっきまで散々怒りを解くため謝り倒していた。


 わざとではないのだが、俺の手の大きさがちょうどラビィさんの口と鼻を覆ってしまっていたようで、「真っ白い世界で綺麗なねーちゃんともう少ししっぽりやれるとこだったのに」と無垢そうな赤い瞳で言われた時には心が痛んだ。


「それとも、ワイがまだあの世とこの世の境目におるからこないな風に見えとるだけかいのー」


 ラビィさんは荷馬車を運転しながら、首を左右に振ってゴキゴキ鳴らしていた。


 すみません、ラビィさんを亡き者にする気は全くなかったんです。事故です、事故ですから。


「もう、ラビィもそんなイジワル言わないの。フィナンシェ君があの場でお金払わなかったら、あたしたちも犯罪者扱いされてたんだからね」


「ですわね。ラビィちゃんが牢屋入りしたいなら、わたくしも前までなら一緒に入るのはやぶさかではないのだけども、今はうちの箱入り娘であるコレットに犯罪歴を付ける訳にいきませんわ」


「ラビィパパ、犯罪者になると街で住めなくなるってエミリアママから聞いたけどホントなの?」


 隣に座るコレットからの無垢な瞳に見据えられた質問にラビィさんの顔色が青く変わった。


「ば、馬鹿やな。コレット、ワイらは冒険者であって犯罪者ちゃうからちゃんと街に住める身分やで。パパはさっき交渉しようとしただけやねん。それにパパは犯罪歴なんぞもってへんから大丈夫やし、コレットもまっさらで綺麗なもんやでー。ハハハ」


 どうやら、さしものラビィさんも娘から「犯罪者なの?」と聞かれるのは辛いらしい。


 脂汗を大量に流しながら、衛兵と喧嘩する気満々だったさっきのことをなんとか言い繕っていた。


「すみません、護衛主さんたちまで喧嘩に巻き込んでしまって……オレたち、この街に着くまでに金を使い果たしちまって文無しで……」


 喧嘩をしていた冒険者たちのパーティーも護衛依頼をしているという名目で一緒に付いて来ていた。


 あのまま、街中で放り出すと金がないので問題を起こしかねないとラビィさんが言って、そのまま護衛として付いてきてもらっていたのだ。


「すみません、俺たちがこの街のことをもっとよく調べてから依頼すればよかったんですけど、ご迷惑かけてしまったようで……こちらでの逗留費は俺たちが持ちますから安心してください。えーっと……すみません、名前ド忘れしました」


 ラビィさんのスキルの影響で俺たちが護衛を依頼したと思っているし、名前聞いてないのはおかしい話だけど、実際あそこで会ったのが初めてで俺は名前を知らないんだよな。


「バイスだ。『猫の手冒険隊』ってパーティーを仕切っている。ってフィナンシェさんにご紹介した記憶がないな。あれ?」


 ラビィさんのスキルによる記憶の補正量はある程度までしかされないようで、バイスと名乗った二〇代後半の青年も少しだけ訝しんでこちらを見ていた。


「ああ! そう、バイスさん。バイスさんでした。こんな護衛依頼に巻き込んで本当にすみませんでした」


「いいえ、オレがこの街出身だということで護衛依頼を受けてたはず。こっちこそ、こんな面倒なことに巻き込んですみません。オレが住んでた時は街道に関所なんてなかったし、街もこんなに荒れ果ててなかったんだが……霊鳥の飛来があったと聞いて、フィナンシェさんたちの護衛依頼がてら里帰りを兼ねて顔を出そうと来てみれば、二〇年も経つと変わってしまうものだな……」


 パーティーのリーダーだと名乗ったバイスさんって、黙って立ってれば、冒険者って言うより、貴族の息子って感じがする人だよな。


 金髪碧眼の人、全てが貴族ってわけじゃないのは知ってるけど、この国の貴族に多い容姿ではあるし。


 それにバイスさんはこの街の出身者だったようだ……かなり昔に住んでたみたいだけども。


 それはそうとラビィさんのスキルである程度は整合性を保っているけど、今後は話をある程度合わせないと、色々と面倒なことになりかねないから、バイスさんの話に乗っかっておくことにしよう。


「バイスさんの里帰りだと聞いて、道中の道案内を兼ねて護衛依頼を出したものの、こんな状況とは……。街はこれで機能してるんですかね……」


「さぁな。オレも久しぶり過ぎて分らんというのが正直なところだよ。確か、この辺りが宿屋街だったと思うんだが」


 歩いて先導してくれていたバイスさんの指さす先には、多少マシな造りをした宿屋らしき店が何軒か並んでいるのが見える。


 ただ、ミノーツで俺が泊まっていた簡易宿よりも劣悪そうな環境な宿屋であった。


 荷馬車の音が聞こえたのか、その今にも倒れそうな宿屋から一斉に客引きをしようと店の人たちが現れてあっという間に俺たちを囲んでいた。


「お泊りですか? うちがこのガーデンヒルズで一番の宿ですよ。清潔なベッドと温かい食事を提供できます! どうですか坊ちゃん」


「うちの方がそっちの宿よりも上質なサービスを提供できますよ。あそこのベッドは洗濯してないんで、ダニの温床になってまさぁ」


「いやいや、両店ともうちにはかないませんから。うちはこのガーデンヒルズで一番の老舗。サービスも料金も勉強させてもらいます」


 客引きたちは様々に自分の店を売り込んできてるけど、どの店もそれほどの差があるようには見えないんだよね。


 これなら荷馬車に寝袋を広げて寝た方がよさそうな気もするけど……。


 それにしても、街の住民を初めて見たけど、みんな心なしか痩せて見えるのは気のせいだろうか。


 服もけっこうボロを着てるし……本当にこの街はちゃんと領主が治めてる街なんだろうか疑問に思っちゃうよね……。


 ただ衛兵の人たちは身だしなみも装備も整ってたけどさ。


 客引きが騒ぎ始めたことで、それまで鳴りをひそめていた街の人が廃墟と思しき家の中からワッと現れて、様々な物を俺たちに売りつけようと殺到し、街中は一気に騒がしくなった。


「フィナンシェさん、これはちょっと危ない気がする。この先にオレが知ってる神殿があったはずだからひとまずそこで今夜の宿を借りた方が良さそうだ」


 物を売りつけようと荷馬車に殺到した街の人たちもやはり痩せており、着ている物はツギハギが目立つボロボロの服ばかりであった。


「フィナンシェ、バイスの言葉に従った方がええと思う。こりゃあ、危ないで……。一つ間違えば暴動になりかねん騒ぎや。おい、どいてくれやっ! 轢いてまうで!」


 人が殺到する中をかき分けて荷馬車を運転しているラビィさんからも、この場を去った方がいいと忠告された。


 コレットやラディナさんもいるし、こんな状況じゃ落ち着けないだろう。


「分かりました。バイスさんたち先導を頼みます」


「承知した。みんな、馬車を囲んで街の連中を近づけるな。このまま突っ切るぞ」


 メンバーに指示を出したバイスが「こっちに来い」と言いたげに手招きをする。


「みんな、馬車が動くから離れて! 離れてください! 怪我しますよ」


 俺の馬車から降りると、殺到する街の人が近づいてこないように制止して、ラビィさんたちが素早く動けるように手助けした。


 やがて街の人たちは物を売るのを諦めると徐々に馬車から離れると元居た廃墟に戻っていった。


 そして、しばらく進むと石造りのしっかりとした神殿の姿が見えてきていた。


 神殿は火を司る大きな鳥の像が屋根の上に設置され、古くはあるがしっかりとした造りをしていた。


 外観はしっかりとしてるけど、やはりガラスとか入り口のドアとかは壊れてるか……。


 でも、石造りで天井がしっかりしてる分、さっきの宿屋よりはマシな寝床にはなりそうだけど。


「その顔はバイス様!? もしかして、貴方はバイス様ですか!?」


 神殿の前で何やら作業をしていた神官服姿の女性が、俺たちの荷馬車を先導していたバイスを見つけると駆け寄ってきていた。


「ああ、オレはバイスだが……って!! お前、アリアンか!? 大きくなったなぁ! いや、見違えたぞ」


「バイス様も確かわたしと同じ年だったはずですが」


 どうやら二人は顔見知りのようだ。


 冒険者のバイスさんと、アリアンと呼ばれた神官の女性が懐かしそうな顔をして握手をしていた。


 懐かしい再会を果たした二人がしばらく話し込んでいたので、その間にラビィさんが荷馬車を神殿に横付けしてくれている。


「んんっ、ワイらの紹介もしてくれると助かるんやがな」


「ラビィさん、そんな慌てなくても。バイスさんも二〇年振りに里帰りされたようですし」


 中々、思い出話が尽きない二人に痺れを切らしたラビィさんが咳ばらいをしていた。


「ああ、すまない。紹介が遅れた。今、オレは冒険者をやっててな。こちらの一行は今回、護衛依頼を受けているフィナンシェさんだ。今日、宿を取ろうとしたんだが街の方で騒ぎになってしまってな」


「それは、それは……バイス様のご依頼人でしたか……ようこそ、ガーデンヒルズへ。わたしはこの神殿の助祭を務めているアリアンと申します。ここに来られるまでにさぞ苦労されたことでしょう。なにもおもてなしできないかもしれませんが、ごゆるりとしていってくださいませ」


 頭からすっぽりと被る形の貫頭衣のような神官服を着たアリアンが俺たちに頭を下げる。


 どうやら、アリアンさんは神殿の責任者ではないようだけどある程度の権限は持ってる人ってとこか。


 いちおう宿代としてお布施を少しくらい包んだ方がいいか、あとでエミリアさんとかに聞いておこう。神様の怒りは買いたくないし。


「約束もなく突然に訪問して、一夜の宿をお借りする無礼のほどお許しください」


「いえ、火の霊鳥神殿は全ての人に対し開かれておりますので、お気兼ねなくお使いください。と言ってもドアも窓も修繕はおぼつかないあばら家なのですがね……」


 アリアンさんが憂鬱そうな顔をして神殿を見上げていた。


 確かにしっかりと手入れすれば、さぞ立派な神殿になるんだろうけど、今のままだとかなり寂れている印象しかない。


 ガーデンヒルズは神殿だけでなく、街全体がかなり寂れて廃墟化が進んでるようだ。


 街の人は痩せてボロを着ており、商売の活気もなく、街は廃墟化が進んでいる。


 普通に領主が統治していれば、こんな状況に陥る前に何かしらの救済策を打ち出すと思うんだけど……。


 街の様子が気になった俺は、この街の住民であるアリアンさんに街のことを尋ねていた。


「そのことですが……失礼ですけどこの街の様子を見ると、かなり厳しい税の取り立てによって生活に困窮されている方が多数見えられるようで……道中の村でも税の滞納をしているところもあるようでしたし」


「お恥ずかしい話ですが……霊鳥様がハイガーデンに来られるまでは税の支払いこそ多かったものの、生活ができないほどではなかったのです。それが――」


 アリアンさんは何か言いにくそうに口ごもっているようだ。


 さすがに密告が飛び交う街で初対面の人に領主の悪口は言いにくいということだろうか。


「アリアン、オレもフィナンシェさんの質問したことが気になっているんだ。子供の時の記憶ではこの街はこんなに寂れてなかったはずだが……どうして、こんなことになってるんだ」


 バイスさんも街の変わりようが気になったようで、アリアンさんに理由を問いただしていた。


「はい……実は……父が仕えるご領主様の嫡男が二年ほど前に亡くなりまして……。それに乗じて方々から怪しげな魔術師の方が館に出入りするそうになったそうで……」


 なんかヤバそうな話の気配がするんだけども……。


 聞かない方がもしかして良かったかも……。


 でも、聞いちゃったのは俺だしな。いちおう最後まで聞かないと。


「それ以降、領主様が魔術師たちの言うがままに金を払うようになり、足りなくなったら税を上げてきており、そしてこの霊鳥騒ぎ……。館に出入りしてる魔術師たちは嫡男様の復活を蘇生を司る炎を操る霊鳥が祝していると理由を付け、更なる金を要求しているそうで……」


 ああ……これ、絶対に領主が魔術師たちに騙されてるやつでしょ。


 世間知らずとラビィさんたちに言われる俺でも、さすがにこれくらいのことは分かる。


 死者は復活しない……傷を癒す魔法はあっても、魂が抜けた肉体を復活させる魔法はないって聞いている。


「それで高額な税がまかり通っていると……」


「はい、おかげで街は嫡男様が亡くなってから二年で一気に寂れました。外から入る物資の値段も昔に比べ今は数倍……食事にすら事欠くありさまの人はかなりの数に上ってます。霊鳥様はこの街の最後を見取りにきたのかもしれませんね」


 アリアンさんの目に薄っすらと涙が浮かんでいる……。


 俺が考える以上に辛い日々をこのガーデンヒルズで暮らしてきたのだろう。


 はて……困った……これは、絶対に放置するべき案件じゃないよな……。


 チラリと荷馬車の方を見ると、ラディナさんとコレットがすでに持ち込んだ食料を運び出しているのが見えた。


 その様子をエミリアさんもラビィさんも肩を竦めて「しょうがない」とでも言いたげにしている。


 何だかんだでラビィさんも、エミリアさんもいい人だしやっぱり助ける気満々ですよね。


 俺も今の話を聞いたら、首を突っ込まないわけにはいかなくなったように思えていたし。


 俺の力がこの街の人の役に立つことがあるだろうし、まずは……何からしようか……神殿の壊れた窓やドアを直すくらいのところから始めようか。


 その前にアリアンさんの許可と、力のことに関してのバイスさんやその仲間の人たちも含め色々な人に口止めをしとかないといけないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] なる程、金が欲しい理由が少しわかりましたねぇ。 でも、やってることは明確な悪ですから、とっちめます。
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