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第五十一話 ガーデンヒルズの惨状

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 ラグランジュ号は順調に北への船旅を続け、三日後にはガーデンヒルズにほど近い漁村の波止場に到着していた。


「随分としけた漁村やなぁ。網もボロボロ、船もボロボロ、家もボロボロやんけ。グイン船長、ここは廃村の間違いちゃうか?」


「いや、こんなもんですぞ。この漁村は交易路でもないし、近海で細々と魚を採ってるだけですし。それにほら、ここもガーデンヒルズの領主が治める領地の中ですしね」


 岩を積み上げて作られた簡素な波止場にラグランジュ号の係留作業を始めていたグイン船長に、ラビィさんが村の様子を尋ねているのが聞こえてきた。


 確かに俺の元実家よりもボロい家がいっぱいあるし、船もボロボロなやつがほとんどだ。


 キョロキョロと辺りを見渡していると、一軒の家からシワだらけの老人がヨロヨロと俺たちの前に出てきた。


「どちら様か存じ上げませんが、我が村に船を係留されるならば、領主様より規定の係留税を徴収せよと仰せつかっております。お支払いいただけない場合は街へ通報し、衛兵にお越しになってもらうハメになりますが……」


 老人はどこか申し訳なさそうに頭を下げ、係留するための税金を支払えと俺たちに通達してきた。


 ラディナさんたちが事前に言っていたとおり、この近辺では領主による税の取り立てが厳しいようだ。


「俺たちは『奇跡の冒険者』っていう冒険者パーティーで、俺がリーダーのフィナンシェです。依頼を受けてガーデンヒルズに行く予定なんですが……。その……係留税とかっていくらになりますかね? お支払いできる額なら払おうと思っているんですが……」


 支払うつもりがあるのを示すと、頭を下げていた老人が俺の手を取って顔を上げて叫んでいた。


「は、払ってくれるんですか!? おおぉ、そんな心の広い方が冒険者におられるとは……」


「はぁ? その……俺も衛兵とはイザコザを起こしたくないですし、お金で済むなら支払った方が無難かなって思いまして。で、係留税は一日でいくらになりますかね?」


「おぉ! たいがいはゴネて衛兵と喧嘩になる御仁がほとんどなのに……お金で済ます冒険者がおられるとは……。ああ、失礼しました。領主様より言い渡されている係留税はこのところの霊鳥騒動で跳ねあがり一日で三万ガルドとなっております」


「ブフッ!!!」


 後ろで休息のため水を飲んでいたラビィさんが盛大に吹き出していた。


 確かに船を波止場に一日係留するだけで一日三万ガルドとかって、ミノーツの高級宿よりも高いから高いよね。


 聞いてたとはいえ、初っ端からドン引きする税徴収額だったよ。


「高すぎるやろ! そんなぼったくりみたいな値段をふっかけられてキレない冒険者なんぞおるかっ!! せいぜい三〇〇ガルドがええとこの値段やろがっ!」


「で、ですよね。以前は三〇〇ガルドだったのですが……例の霊鳥騒動で人の往来が増えまして、領主様より新たにそういうお達しが出ておりまして……無断係留させていると、我が村がその税を肩代わりさせられるハメになるのです……」


 俺たちからの支払いがないと見た老人が、シュンとしたようにうつむいて地面を見る。


 係留者が滞納した税の肩代わり!?


 どう見てもゴミ拾いだった俺と同じくらいド貧乏を絵に描いた村のなのに、冒険者が踏み倒した税を肩代わりするなんて無理でしょ。


 手元にはアメデアのロリー・バートさんと結んだ『奇跡の冒険者』への冒険への出資金として二〇〇〇万ガルドほど出してもらっているため支払う能力はあった。


 ロリー・バートさんはこの金を俺たちのパーティーで自由に使ってくれと言ってくれた金だけど……。


 やっぱ、こういう時に使うべきお金なんだろうな。


 支払う同意を取るべきか、チラリとみんなの顔を見るが、みんなも老人の様子を見て支払うべきだと判断している様子だった。


「だ、大丈夫です。お支払いいたします。とりあえず、一〇日分。三〇万ガルドはお預けしておきますので、追加が必要になりましたらこのグイン船長さんに申し出てくださればお支払いいたします。これで、俺たちは係留しても大丈夫ですよね?」


 老人の手に三〇万ガルド分の金貨を入れた革袋を手渡す。


 けれど、革袋を受けとった老人の顔色がすぐれないままであったのが気になった。


「もしかして足りませんでしょうか?」


「い、いいえ! 滅相もない! 係留税は十分に頂きました。ですが、一つ問題がありまして……船の乗員の方が村に残られるとなると、宿泊税。水を補給されるなら取水税、食料を補給されるとなると食料消費税と現物の売買代金とは別として様々に徴収せよと申し渡されておりまして……」


 そ、そんなにいっぱい税をかけられてるの!?


 水や食料を売買するのにも税金とかっていったいどれだけ取れば気がすむんだろうか……。


 俺はもらった革袋を返そうか迷っている老人に憐れみを感じていた。


 フィガロへの賠償金による借金がかさんで、返済のことで頭がいっぱいだった時の俺も、目の前の老人のように日々を鬱々と暮らしていたのを思い出していたからだ。


「分かりました。すべて、お支払いします。グイン船長さんにお金を預けておきますので、言っていただければその都度支払いますのでご安心ください」


「フィナンシェ、ほんまにええんか? おもいっきりぼったくりの値段やぞ」


 お金に厳しいラビィさんが本当に支払うのかと聞いてきた。


 船旅の間中、食事の席で何度となく有名なパーティーになるまでに、相当なお金の苦労をしたと言い聞かされてきていたけど……。


 赤貧に喘ぎ、借金地獄に恐怖している人の気持ちは痛いほど理解できてしまうので、ここは惜しみなく金を使うべき時だと判断していた。


「はい、かまいません。お金も使わないと色んな人に巡っていかないですからね。俺がここでお金を使うことで誰かが救われるなら使うべきときだと判断します」


「ふぅ、そんなキラっキラの笑顔でそないなこと言われたら、ワイにはもう言えることないやろが。まぁ、ええ。リーダーはフィナンシェや。フィナンシェの決めたことには従うで安心せい」


 ラビィさんも俺の決意が固いと見ると、ふぅとため息を吐き、折れてくれていた。


 ここでしっかり自分の意見を言いつつ、最後は俺に折れてくれるラビィさんはやっぱり大人だな……。


「あ、ありがとうございますっ! 我が村に来られたのがフィナンシェ様のパーティーで本当に良かった……。ありがとうございます……これで、娘たちを領主に売らずにすみました……」


 様々な税の支払いを確約したことで老人がとても喜んでいた。


 だが、その中にポロリと不穏な言葉が混じっているのを聞き逃さなかった。


 娘を売るってどういうことだろうか……。


 まさか、借金のかたにってこと?


 気になってしまったので、思わず老人に聞いてしまった。


「あ、あの今娘を売るとか言ってましたけど、それって――」


「は、はい。冒険者たちが踏み倒し徴収できなかった税があると、衛兵が各村々に押しかけてきて村人たちへ肩代わり要求し、支払うべき物がないと年ごろの娘を連れて行くのですよ。我が村もすでに何名かの村人の娘が連れていかれております」


「娘さんたちは売り物として連れて行かれたと?」


「ええ、領主が気に入った子は館に残されるそうですが、残りは街の娼館に売り渡されるそうです……」


 やっぱりそういうことか……。


 それにしても領主は冒険者が踏み倒した税をどうやって知ってるんだろうか?


 それこそ、街だけでなく方々で売買や宿泊なんて発生してそうだし、全部を把握するなんて無理だとおもうんだけどなぁ。


「ですけど、領主様はどうやって踏み倒された税を把握されてるんです?」


 俺の問いかけに老人は声を潜めて耳打ちしてきた。


『密告です……税を取り立てるべき相手に取り立てずにいた者を密告すると領主より褒賞金がもらえるため、税の取り立てに苦しむ人々が疑心暗鬼となってお互いに密告しあうようになってしまったのですよ。だから、密告されないよう必死でみんな取り立てるし、取り立てを見逃した者がいないか目を皿のようにして相互監視してるんです。それでも、何とか生活はできてましたが、今の霊鳥騒ぎによって税が引き上げられたことで領内では餓死者や破産する者が激増してまして、なんとかもってたガーデンヒルズの街も終わりだと思っております』


 老人の告白を聞いて、ガーデンヒルズは聞いていた以上に地獄の様相を呈していた。


 霊鳥騒動で上げられた税金で生活が成り立たなくなる人がいっぱい発生してたなんて、ミノーツまで聞こえてこなかったけど。


「ご老人は、この領内から退去して新たな生活を始めるという選択肢はないのですか?」


「二〇年前、ご領主様が代わられた時に資産があった者はいち早く逃げ出しました。けれど、資産も伝手もない者はこの領内にとどまって苦しくとも生活していくしかないのですよ。この領内に希望などはなく絶望しか待っていないですからな」


 老人は全てを諦めた目で俺たちを見ていた。


 外で生活を再建するのもお金がかかるというのは、ラクサ村の子たちを見てて知ってた。


 だが、この領内に居ても辛うじて生きていけるかどうかの瀬戸際なような気もする。


「あ、あの――」


 思わず老人に声をかけようとした俺の肩にラビィさんとエミリアさんが手をかけて止めていた。


 そして、首を軽く横にふっている。


 これ以上は深入りするなと言いたげであった。


 ベテラン冒険者の二人が止めるってことは冒険者として本当に関わっていけない領域の話に及ぶってことだよね。


 ラディナさんもコレットもその様子を神妙な顔付きで見ていた。


「いいんです。これは村人全員が選択したことですので、フィナンシェ様たちはお気になさらずご依頼を果たされるがよろしい。ガーデンヒルズでは更に用心されることをお勧めいたしますぞ」


 老人は力なく笑っているが、その顔を見るのが辛い。


 二人には止められたが、俺は老人のために冒険者としてできる最大限のことを伝えておくことにした。


「あの、本当に困った事態になったら俺に依頼を出してください。冒険者として依頼されたことはどんなことをしてもキッチリと果たしますんで」


「承知しました。もう本当にどうしようないと思ったら、心優しい冒険者であるフィナンシェ様たちにご依頼を出してみることにいたしましょう。そう思えば、この爺もまだまだ頑張れるはずです」


 少しだけ明るくなった老人の顔を見て、依頼されたら絶対に誰が相手だとしても救おうと心に決めた。


 それから、グイン船長に後のことを任せて、一定額のお金を預けると、俺たちは荷馬車に乗り問題の渦中にあるガーデンヒルズの街へと向かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは面倒なことになりましたねぇ……。ではではどうやって解決するか……だ
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