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第四十九話 アレックさんからの緊急依頼

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 翌日、俺とラディナさんが泊まった元実家から、ラビィさんたちが宿をとった高級宿の白金亭に歩いて行くと、ミノーツの街に違和感を感じていた。


 おかしいな……いつもなら、この時間冒険者たちが冒険者ギルドに向かって歩いてるはずなんだけど。


 ほとんど誰ともすれ違わないぞ。


 そういえば、昨日冒険者ギルドに寄ったときも昼過ぎだったとはいえ、冒険者の数は少なかったよな。


「フィナンシェ君、どうしたの? 何か変なことでもあった?」


 俺がキョロキョロと辺りを見ながら歩いていたのをラディナさんが不思議がって話しかけてきた。


「いや、みんな居ないなって思ってさ。いつもなら、この時間に冒険者のみんなとすれ違うんだけども。誰もいないしさ」


「そういえばフィナンシェ君の言う通り、装備を着けた冒険者とすれ違わなかったわね」


 二人で辺りを見回していると、背後から声をかけられた。


「よう、これはこれはアメデアの英雄フィナンシェ君じゃないか」


 声の主はアメデアで別れた定期輸送隊のヨームさんだった。


「あ、おはようございます。あ、あの、そのアメデアの英雄ってやめてくださいよ。おかげですごい勘違いされて困ってるんですけど……」


「私はアメデアの連中が言ってた真実しか話してないぞ。アメデアの住民はフィナンシェ君の行動を称えて奴隷市が行われてた場所に銅像を建立しようって話も出てるらしいし」


 はぁ!? 銅像を立てるなんてそんな話はロリー・バートさんからも聞いてませんけど!?


 奴隷市が行われてた場所って、あんな目立つ場所に俺の銅像とかって恥ずかしすぎる。


「ヨームさん、それって、本当ですか!? フィナンシェ君の銅像が建立されるって!?」


「ああ、住民たちが金を出し合って作るらしいぞ。昨日、アメデアから帰ってきた連中がそう言ってたし」


「完成したら見に行かないと……」


 ラディナさん、なんでそんなに目をキラキラさせて喜んでるんですかね?


 ほら、俺の銅像なんて見栄えもしないしさ。


「それはいいな。そんときはまたうちの輸送隊の護衛してくれると助かるよ。フィナンシェ君たちが一緒なら色々と面白いことになりそうだしな」


「いや、毎回あんなことにはなりませんからね。前回はたまたまですから」


「そうか、そういうことにしておくか。それはそうと、フィナンシェ君たちはこれから依頼を探しに行くところかい?」


「今日はアレックさんの所に行こうと思ってまして、ラビィさんたちを迎えに行く途中なんですけど……。今日って冒険者のみなさんってもう出かけられてるんですか? 誰一人会わないんですけど……」


 ヨームさんが周囲を一瞥して、豪快に笑いだした。


「ハハハ! そうか、フィナンシェ君たちは霊鳥騒ぎを知らないのか。ミノーツの冒険者たちは、ほとんどみんなガーデンヒルズに行ってしまってるよ。三〇〇億ガルドの卵に釣られてね」


 あ、昨日アステリアさんがそんなこと言ってたっけ……。


 それにしてもほとんどの冒険者が出払ってるとは思わなかった。


「そ、そうだったんですね。昨日、冒険者ギルドの子に聞いてたんですけど、そんなに大勢の冒険者がガーデンヒルズに行ってるんですか」


「ああ、だから冒険者ギルドも閑古鳥が鳴いてるし、私らの輸送隊の護衛を請け負ってくれる冒険者もいなくて護衛なしの輸送をしてるわけだ」


「へえ、護衛業務まで請け負う冒険者がいないんですか……霊鳥騒動ってすごいことになっているんですね」


「さすがに三〇〇億ガルドだからな。一攫千金を狙う冒険者だけでなく、一般人も殺到してるらしいが、霊鳥の存在自体がうさん臭いのに、その卵なんてもっとうさん臭いと思うぞ」


 ヨームさんも霊鳥の卵に関しては俺と同じ考えをしていた。


 不老不死ってのが怪しすぎるんだよね。


「ですよね……。でも、みんなお金は欲しいってことですか……」


「まぁ、そういうことだな。フィナンシェ君たちはそういう気もなさそうに見えるけどな」


「そんなことはないんですけどね。ガーデンヒルズの噂を色々と耳にしてて、足が遠のいているんですよ」


 ヨームさんがガーデンヒルズの噂と聞いて、『ああ、なるほど』といった顔をしていた。


 やはり色々と良くない噂は本当の話のようだ。


「そうだな、あそこは色々と面倒だから近づかない方がいいと思うぞ。それはそうと、しばらく街にいるなら今度酒でも一緒に飲もう。この前の木材のお礼もしないといけないしな」


 ヨームさんには力のことは言っていないが、あの道中で薄々俺の力に勘付いているかもしれない。


 まぁ、悪い人でもないし、ミノーツやアメデアでの顔は広い人なので、徒に俺の力を吹聴しない限りはお付き合いを続けていくつもりでいる。


「そうですね。ラビィさんも呼んでみんなで一緒に飲みましょうか」


「ああ、その時を楽しみにしてるよ。じゃあ、私はこれからアメデアへの輸送品の検品作業なんで失礼するよ」


 そう言うと、ヨームさんは俺たちに手を振って別の道を歩いて行った。


「フィナンシェ君の銅像か……んふっ、んふ」


 ラディナさんはまだ俺の銅像のことを想像してニヤニヤと笑っていた。


「あ、あのラディナさん、ラビィさんたち迎えに行きますよ」


「え? あっ!? うん! 行きます! フィナンシェ君の銅像を見に行きます!」


 えっと、違いますから。


 ラビィさんたちを迎えに行くんですから、しっかりしてください。


 俺は無言でラディナさんの手を引くと、ラビィさんたちの待つ白金亭に向かった。



「ハハハっ! フィナンシェの銅像がアメデアに建つんか!! これはおもろい話やな!!」


「フィナンシェお兄ちゃんの銅像かー。コレットも見てみたいー。ラディナお姉ちゃん、フィナンシェお兄ちゃんの銅像が建ったらグイン船長さんに頼んでアメデアまで行こう」


「いいわね。船なら荷馬車で行くよりも速いしね」


 そこの二人、勝手にグイン船長さんに頼んでアメデア行っちゃダメだからね。


「フィナンシェちゃんはアメデアで一躍名を上げたからしょうがないですわよ。有名税ってやつですわ」


 エミリアさんもニヤニヤと笑って俺の顔を見ていた。


 やっぱり今後は色々と考えて行動するようにしよう。


「もう、俺の銅像の話はいいですから。ほら、もうアレックさんの鍛冶屋に着きますよ」


 ワイワイガヤガヤと喋りながら歩いていたが、今日の目的地であるアレックさんの鍛冶屋の前にきていた。


 ルーシェさんがアレックさんから頼まれ事があると言ってたので、新しい武器を調達しがてら店を訪れていたのだ。


「フィナンシェ君、アレックさんが待ってるわよー。奥の工房に入って」


 先に家を出ていたルーシェさんが店先で待っていてくれた。


 ルーシェさんの手招きに応じて、俺たちはアレックの待つ工房の方へ入っていった。



 あれ? 前に来た時は炉の熱でとっても暑かったけど今日は全然暑くない気がする……。


 工房に入った瞬間、前の時に感じた暑さを感じなかったので身構えていた俺は拍子抜けをしていた。


「おお、フィナンシェ君よく来てくれたね。ルーシェ君は実に真面目でよく働く子だから助かってるよ。あの子目当てで来る輩も増えてきたことだし、変な虫がつかないよう私がしっかりと監視してるから安心してくれたまえ」


 ルーシェも雇い主のアレックさんに気に入られてるようでよかった。


 ラディナさんも含め、ラクサ村の子たちはゴブリンたちの集団に村を襲われ色々と失っていて、それを隠すため無理に明るく振る舞っているようなところが見られたから、本当に大事にしてもらえてそうでよかった。


「アレックさんにはご無理を言ってしまい、こっちの方が感謝してます」


「いやいや、こちらの方こそきちんとお礼を言わないといけないと思っててね。本当に紹介してくれてありがとう」


 アレックさんは本当に感謝してくれているようで、深々と俺たちに頭をさげてくれていた。


「それより、今日はアレックさんの頼みごとを聞くついでに装備の新調をしたいなって思ってきたんですけど……炉の火が落ちてる気がするんですが、どうかしたんですか?」


「ワイもそれが気になっとったんや。アレックの工房は受注が溜まるくらいの人気工房やろ、それなのに炉に火を入れてないのはおかしいやろ」


 ラビィさんも工房の様子が気になったようで、アレックさんとの話に入りこんできた。


「なんだ口悪兎野郎も一緒だったか」


「おっさんっ!! ワイをまた口悪兎とか言いよったなっ! 許さへんで!」


 前回と同じ流れで、ラビィさんがアレックさんにつっかかっていく。


 だが、やはり前回と同じく頭を押さえられたラビィさんの攻撃はアレックさんには届いていなかった。


「ラビィパパー。頑張ってー! コレットが応援してるからー」


「フレー、フレー、ラビィちゃん。頑張れ」


 コレットもエミリアさんもラビィさんを応援してるけど、あれは絶対に見て楽しんでるよね。


 俺も癒されるからいいんだけども。


 ラビィさんを手玉に取っているアレックさんだが、顔色はあまり優れないように見えた。


「いやー、そうなんだよ。非常に困っているんだ……。実は私が石炭と一緒に炉の温度を上げる燃焼剤として使っている火炎岩の在庫が切れててね……いつもなら、冒険者に頼んでガーデンヒルズのハイガーデンに採取に行ってもらってるんだが。ほら、今は霊鳥騒ぎのまっただ中だろ。おかげでうちから冒険者ギルドに出した依頼を誰も受けてくれなくて、ついに炉の火を落とさざるをえない事態に陥ってるんだよ。火炎岩はオステンド王国内だとハイガーデンでしか採取できないし、外国の物を輸入しようとすれば半年以上休業に追い込まれてしまうから困っているんだ」


 アレックさんのところまで霊鳥騒ぎの余波が影響してるのか……。


 本当にほとんどの冒険者がこのミノーツから出払っているんだな……。


「そうなんですか……もしかして、武器とかの在庫って――」


「王国に納める数打ちの武器ならあるが、オーダーメードの特殊なのは、今は受注を受けられない状況なんだ」


 アレックさん、仕事ができなくてとても困ってそうだな。


 なんとかしてあげられるといいんだけども。


 場所が、場所だしな。


「それにフィナンシェ君たちにはギルマスのフランからも、冒険者ギルドが代金を立て替えるから、いい装備を提供するようにってお達しがきてるんで作ってやりたいんだが……火炎岩がないと特殊な鋼鉄が作れなくてね」


「え!? ギルドマスターのフランさんの装備代の立て替えの件は何も聞いてなかったんですが……」


「ああ、その話は私もびっくりしてる。あのケチ臭いフランが冒険者の装備代を立て替えてもいいとか言うなんて、明日地震でも起きないか不安過ぎるぞ。まぁ、でもアメデアでの一件だけでもフィナンシェ君らのパーティーを支援しておいて損はなさそうだし。そういうところには抜け目のない男だからな」


 ああ、そういうことか……。


 でも、フランさんには色々とこれからもお世話になるだろうし、支援はありがたくしてもらった方がいいのかもしれない。


 そんな風に俺が考えていると、背後から袖を引いてくる人がいた。


 振り返ると、コレットが俺に耳打ちをしてくる。


『フィナンシェお兄ちゃん。アレックさんって人、お仕事できなくてとっても困ってるみたいだよ。みんなでハイガーデンに行ってその火炎岩を取ってくることにしない?』


 どこかウキウキした様子で耳打ちしてきたコレットだけど、絶対に霊鳥に会いに行ける口実ができたとか思ってるよね?


 そして、反対側の袖も引かれた。


『わたくし、ハイガーデンに行ってもよろしくてよ。本来なら鉱石採取なんて肉体労働の依頼はお受けしない主義だけど今回は特別に我慢いたしましょう』


 エミリアさんもなんかいつもと様子が違うように思えるんですが気のせいですかね?


 そして、最後にラディナさんが俺の前に出てきた。


「あ、あのね。アレックさんの武器を手に入れるためには火炎岩が必要だから……ハイガーデンに行ってみるべきだと思うんだけど……。いや、そのフィナンシェ君が嫌なら別に行かなくてもいいんだけどね」


 ラディナさんも遠慮がちながら、霊鳥が見たい気持ちを抑えられなさそうであった。


 はぁ、やっぱりみんな見てみたいんだよな。


 実のところ俺もやっぱり二〇〇年に一度しか見れない鳥なら見てみたいと思ってたところだった。


 でも、パーティーリーダーとして、自分の興味のむくままに物見遊山をするわけにはいかないって思ってたんだよな。


 みんなが行きたいなら、ガーデンヒルズのことは目をつぶってでもアレックさんの依頼を受けるべきか。


「うぎぎぎぃ、ワイはこのおっさんのためになんぞ――むぐう」


「はーい、ラビィちゃん。今日の運動はここまでねー。よくできましたー」


 アレックさんに突進していたラビィさんの口を速攻でエミリアさんが塞いでいた。


 モガモガと何か言いたそうにしてるが、エミリアさんに口と鼻を押さえられ、しばらくすると動かなくなっていた。


 ラ、ラビィさん大丈夫かな……。


 まさか、死んでないよね?


「ぷはぁっ!! エミリア、ワイの鼻と口を押えたら死ぬっちゅーねん!! ちょっとの間、真っ白な空間で綺麗なねーちゃんが見えとったわ!!」


「ごめんね、ラビィちゃん。これは謝罪の品ね」


 エミリアさんはそう言うと、ラビィさんをいつもの定位置である胸の谷間にはさんで抱えていた。


「むぐぅ、ワイはこんな謝罪の品で騙されへんで! 大体――むぐぅ」


「はいはい、ラビィちゃんは大きな男の子だから小さなことで怒らないの」


 良かった……死んでなかった。


 完全にラビィさんはエミリアさんに弄ばれてる気がする。


 というか、ラディナさんも『あたしもした方がいいのかな』って顔をしないでいいですからね。


「フィナンシェ君らのパーティーは実に仲がいいね。見ててこっちが楽しくなるよ。大概の冒険者パーティーだと、新人冒険者はベテラン冒険者の付き人みたいな扱いになるのが常だけど君らを見てるとどっちも対等の付き合いをしてるみたいだね。実に素晴らしいことだよ」


 アレックさんが俺たちのパーティーを見て褒めてくれていた。


 俺からしてみればラビィさんやエミリアさんは、雲の上の実績を持つSランク冒険者で本当なら相手にもしてもらえない存在なんだろうけど、二人は俺を対等な仲間として遇してくれてる。


 それにラディナさんやコレットもリーダーとして俺を盛り立ててくれるから仲良くやれているんだよね。


 みんなには感謝しかないや。


「それで、私の依頼を受けてくれるのだろうか? もし、受けてくれるなら依頼達成時にはフィナンシェ君たちの装備を最優先で制作するという条件も追加しよう。もちろん、いくらでも好きなだけ受注は受けるぞ」


「分かりました。アレックさんのご依頼は『奇跡の冒険者』がお受けいたします。みんなも、それでいいよね?」


「「「やったぁ! 霊鳥を見れるっ!」」」


 エミリアさんもコレットもラディナさんもそっちが目的だよねー。


 でも、まぁお仕事のついでに拝んでおくのもありかな。


 それにこのままだと目的だったアレックさんの武器も手に入らないし。


 その後、俺たちはフランさんのところでアレックさんの依頼を受けると、慌ただしく旅の準備を整えてグイン船長の元に戻り、海路でオステンド王国の北部にあるガーデンヒルズへと向かうことになった。

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