第四十八話 霊鳥ってなに?
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「ということで、俺が一人でアメデアの人身売買をしてた人たちをぶちのめしたわけじゃないんですから。ちなみに船を燃やしたのはエミリアさんですからね」
夕食の食卓に勢ぞろいしたラクサ村の子たちにアメデアでの一件を詳しく話し終えた。
「……無自覚の善人無双」
「はぁ、普通は全員奴隷を買うなんて絶対に言わないし……」
「海賊たちもフィナンシェ君に出会ったのが運の尽きだったわね……」
「エミリアお姉様が船を燃やすところを見たかったのにぃ……」
「コレットちゃんたちが無事でよかったから、今回のことは特に問題視しませんけど……」
ラクサ村の子たちはアメデアで俺が行ったことを聞いて、盛大なため息を吐いていた。
ちゃんとやり過ぎたことは反省してます。
次回、同じ場面に遭遇したらきちんと考えてから行動しますって。
「でも、そういう無茶苦茶なところがあたしの好きなフィナンシェ君かな……って思うの」
ラディナさんが顔を赤らめて、俺の方をチラチラと見ていた。
無茶苦茶って言うよりか、色々と知らないことが多いだけなんだけどね。
「はいはい、ごちそうさまね。それはそうと、フィナンシェ君たちの大活躍も噂になってるけど……。それよりも大きな話題になっているのが、ミノーツの北にある翼竜や鳥たちの営巣地ハイガーデンに霊鳥が飛来したって話題なのよ。霊鳥は滅多に人前に姿を現さないそうだし」
冒険者ギルドで働いているアステリアさんは、ラディナさんに言わせれば噂好きの女性だそうで、ラクサ村に居た時も情報通であったそうだ。
霊鳥ってなんだ……。
鳥の種類なんだろうけども初めて聞いた言葉だな。
「マジかぁ、ワイも見たことない霊鳥が人前に姿を現したちゅーことは、そのハイガーデンってとこに繁殖しに来とるんやなぁ。卵狙いの冒険者がわんさか集まって来とるやろ」
「前回は二〇〇年ほど前に姿を現したって話だったようなことを聞いたことがありますわね。なんでも卵を食せば不老不死になれるとか言ってましたわね」
ベテラン冒険者のラビィさんとエミリアさんは霊鳥のことを知っていそうであった。
卵を食べたら不老不死って絶対にそんなことになるわけないよ……。
しょせん卵だしさ。
そんな胡散臭い卵のために冒険者のみんなが必死になるわけが――
「霊鳥の卵一個で三〇〇億ガルドって懸賞金を付けた国王や皇帝も居たらしいで。まぁ、どれもパチモンばっかやったらしいが」
「ブゥウウウっ!! ゲホゲホっ!!」
俺は飲んでいたお茶を盛大に吹き出してしまった。
「きゃあ、フィナンシェお兄ちゃんいきなり汚いよー。むせちゃったの?」
コレットがお茶を吹き出した俺の顔をハンカチでそっと拭いてくれていたが……。
むせた、むせたよ。
胡散臭い卵一個が三〇〇億ガルドって、なにその法外な値段!!
「ラビィさん、そんな卵が本当に三〇〇億ガルドになるんですか!?」
「ああ、なるで。ワイが見つけたなら一〇〇〇億ガルドくらいは国王や皇帝からせしめたるがな。世の権力者たちが望む不老不死ってのはそれだけ需要が高いちゅーことや」
「一〇〇〇億ガルド……」
一〇〇〇億ガルドって街っていうか小国くらいなら買えちゃう値段なのではないだろうか。
「へぇー、一〇〇〇億ガルドの卵を産む霊鳥かぁ。一度くらいはどんな姿をしてるか見てみたいわね。ハイガーデンって言うと、うちのラクサ村に近いガーデンヒルズの街に隣接した山の上にあったはず」
「そうそう、だからミノーツの冒険者ギルドでも卵の入手依頼が殺到しててね。ガーデンヒルズの街は冒険者で溢れかえってるらしいわよ。でも、あそこは領主がアレだしね」
「あー、そういえばそうだったわね。アレだった」
ラディナさんとアステリアさんが何か視線でやり取りしてる。
ガーデンヒルズの領主って、なにかトンデモない人なんだろうか……。
二〇〇年に一度しか姿を現さない霊鳥とか気になるから、卵の入手は論外だけど、そっち方面の依頼があったら受けようかなって思ってたところなんだけどなぁ。
「あの、ラディナさんガーデンヒルズの領主って何か問題でも?」
「ん? あ、ええ。山間にあるラクサ村から一番近い街だったから、みんなでよく生活雑貨や食料の買い出しに出かけたんだけど――」
ラディナさんが喋ろうとする前に、何か怒りを思い出したように目を吊り上げたアステリアさんがまくしたてるように喋り出した。
「とにかくあの街は何をしても税金がかかるのよ。街に入るのはもちろん、出る時も取られるし、中で買い物するにもお金がかかるし、宿に泊まるのも税金上乗せされるし、水や食事をするのも税金をかけられてるし、挙句の果てにはトイレを使うだけで税金とられるのよっ!」
ものすごいところまで税金をかけてる領主さんかぁ……。
でも、そんな莫大な税金をかけてたらみんな街には寄り付かないだろうし、街の人も逃げ出すんじゃないかと思うんだが。
「そんな税金かけてたら、街が成り立たないと思うんですけど……」
「ガーデンヒルズはオステンド王国の東側を南北に繋ぐ街道の終着点だから。あそこより北にあったラクサ村や周りの開拓の村々は足りないものをガーデンヒルズで買うしかできないのよ。ガーデンヒルズより大きい街ってなると、このミノーツの街まで来ることになるだろうし、あたしたちはそんな街があるのも知らなかったからね」
ラディナさんたちが居たラクサ村はオステンド王国の北の方だったとは聞いてたけど。
なんか、そういう話を聞くと行きにくいかも。
「税金かけまくる領主か。おもろそうな話やな。事前情報なくフィナンシェが行けば、街の人が困ってるの見て、バチコンって領主の首を挙げとったかもしれんで」
ラビィさんの言葉でその場にいたみんなの視線が俺にジッと集中する。
そして、ラディナさん以外みんなが頷いていた。
なんで納得!?
いや、さすがに俺も領主に手を出して無事でいられないことくらいは理解してますから!
「そ、そんなことしませんよ。領主に手を出したら、手枷をつけられて衛兵に引っ立てられるじゃないですか」
「そうよ。さすがにフィナンシェ君もそれくらいはちゃんと理解してるわ」
「でも、フィナンシェちゃんなら街の人が困ってたら絶対に領主の首を挙げる方に一〇〇万ガルドですわね」
「コレットもそう思うなぁ。フィナンシェお兄ちゃんは絶対に困ってる人を助けてくれるはずだし」
「……確かに善人だし」
「女の子が絡めば絶対にですね」
「ラビィさんやエミリアお姉様もいますし」
なんでか俺に対するみんなの期待値が高い気がする。
確かに困ってる人がいたら、スキルの力を使って助けようとは思うけど、さすがに国からその地を任せられた人を退治するわけにはいかない。
下手すればラビィさんやエミリアさん、コレットやラディナさんにまで罪が及ぶしね。
俺もそこまでの危険を冒せるかは即断できない。
「しませんってば! 時間があれば依頼のついでに霊鳥を見に行こうかなって思いましたけど、ガーデンヒルズがそんな街ならやっぱなしにしときます」
「えー、フィナンシェ君ならって期待してたのになぁ……」
「アステリア、あたしのフィナンシェ君に危険なことをさせないでよ」
「ああ、そう言えば依頼で思い出しましたけど、私がお世話になっている鍛冶屋のアレックさんがフィナンシェ君に頼みたいことがあるみたいなんですが。明日お時間あったら寄ってもらえます?」
俺がガーデンヒルズの領主を討つってことで話が盛り上がっていたところで、鍛冶屋に勤めているルーシェがアレックさんから依頼があると切り出していた。
アレックさんからの直接指名の依頼かぁ。
俺、まだゴミ拾い以外だと、護衛依頼を一度こなしただけの駆け出し冒険者なんだけどな。
もしかしたらまた廃品整理かもしれないけど。
お世話になった人だし、それにアメデアのゴタゴタの時に伝説品質の魔法剣なくしちゃったから新しく鉄の剣も欲しいし顔を出してみるか。
「ああ、分った。明日、時間を見て顔を出してみるよ」
「ロリー・バート殿からも奴隷解放以外の別口で謝礼金もらったことやし、アレックところで武具を買いまくって、伝説の名工の魔法剣でも作ってみよか」
「わたくし、全属性魔法使えるからフィナンシェちゃんが好きな属性を付与してあげるわよ」
「ま、魔法剣? フィナンシェ君は魔法剣を作れるの? それってリサイクルスキルの力だよね?」
二人の話を聞いていたルーシェさんが目をパチクリさせて驚いていた。
そう言えば、ラクサ村の子たちにはまだ話してなかった。
「え? ああ、はい。そうですね。作れるようになりました」
「ええぇ! 魔法剣って絶大な魔力を持つ魔術師が膨大な儀式をして製造するからほとんど流通してない剣だよ! アレックさんも作れないし……それをフィナンシェ君はつくれるって……」
真面目そうなルーシェさんは鍛冶屋で勤めることになって色々と勉強をしていたようで、魔法剣があまり出回らない貴重な武器だと知っていた。
「なんか作れるようになってまして……はい、すみません」
「わたくしの炎の魔法を吸収して炎属性の魔法剣になってましたわね。アメデアでの一件で行方知れずになったけど、一本一〇〇〇万ガルドの価値があった品だったのに惜しいことをしましたわ」
「一〇〇〇万ガルドの魔法剣……」
ルーシェさん始め、ラクサ村の子たちの喉がグビリと鳴った。
確かに価値としては大金ですけど、元手は鉄剣一本とクズ魔結晶八個とエミリアさんの魔法だけですからね。
ゴミみたいな物から作った魔法剣が早々簡単に売れるとは思えないんだよなぁ……。
「無くしちゃったから、新しく剣を新調しようかなって思ってるし」
「で、話を戻しますけど属性はどうするのかしら?」
エミリアさんが、新調する剣の属性を何にするか再度聞き直してきた。
道中でエミリアさんから魔法のことをざっくりと聞いてたけど、聞いてた話からすると光と闇属性を付けたら、ほぼどの属性にもある程度対抗できるんだよな。
二刀流って憧れるけど、盾が持てないから二本差しで相手に合わせて剣を選ぶって感じがいいかな。
「光と闇で二本作ろうかと思ってまして……エミリアさん的には大丈夫ですか?」
「まぁ、わたくしは一発分の魔力しか消費しませんから大丈夫ですわよ。光と闇の魔法剣、きっとフィナンシェちゃんが伝説を打ち立てたら勇者の剣とか言われるようになる武器ですわね」
エミリアさんの冗談にみんなが反応して一斉に俺の方を向いた。
いやいや、俺はちょっとだけ特殊なスキルを持ってるだけで勇者とかじゃないですからっ!
なんかアメデアの件で、俺に対する盛大な見当違いが発生してる気がするんだが……。
期待に満ちた眼で俺を見ているみんなの視線が辛い。
次回更新は木曜日12時となります。