第四十七話 元実家の改修
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冒険者ギルドを退散した俺たちは、ラクサ村の子たちにお土産を配りに元実家にきていた。
まだみんな仕事中なのか家には誰もいないな。
鍵はラディナさんが預かってるから入れるけど、夜にならないともどってこないか。
「ここがフィナンシェお兄ちゃんが生まれた家かー。随分とボロボロなんだね」
一番先に荷馬車から飛び降りたコレットが物珍しそうに俺の実家を見ていた。
そう言えば彼女たちの家として提供してから高品質化してあげてなかったよな。
待ち時間とかもありそうだし、ここは人通りも少ないからラディナさんに手伝ってもらって家の高品質化でも始めるか。
大型の構造物はグイン船長さんの船で試してみたから、多分家も同じように再構成されるはずだ。
「コレットの言う通り、ちょっとボロボロすぎるよな。ラディナさん、この家をちょっと高品質化したいので手伝ってもらえますか?」
「それはいい考えね。あの子たちもすき間風が無くなると喜ぶだろうし。すぐに解体するわ。コレットちゃん、危ないから下がっててね」
「はーい!」
家を見回っていたコレットが荷馬車の方へ戻るのを確認すると、ラディナさんが倉庫から引っ張り出してきたはしごをかけ、屋根を解体し始めていた。
やると決めるとラディナさんの行動は迅速だよね。
俺はすぐにはしごを昇ってラディナさんが解体した屋根を再構成することにした。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:38
経験値:1080/4740
対象物:☆木製屋根(分解品)
>木製屋根(普通):100%
>木製屋根(中品質):100%
>木製屋根(高品質):100%
>木製屋根(最高品質):77%
>木製屋根(伝説品質):67%
―――――――――――
>木製屋根(高品質)に再構成に成功しました。
>木製屋根(高品質)
資産価値:一五万ガルド
合成レシピ:コールタール×木材
再構成したら、腐りかけてボロボロな木材や、ところどころ剥げていたコールタールの黒色が綺麗に復活していた。
「木材のお家ってあたしの村ではあんまり見なかったから、再構成するととっても綺麗な黒色に戻るのね」
次の屋根の解体に進んでいたラディナさんが、新品に再構成された屋根をまじまじと眺めて感心していた。
確かに俺が子供の時は屋根もこんな色してたかも。
「ラディナさん次いきますよ」
「あ、うん」
屋根は六回ほどの再構成で全面がすべて綺麗で高品質な新品の屋根に変わっていた。
「屋根はよしっと。次は外壁をやっちゃいましょう」
「フィナンシェお兄ちゃんとラディナお姉ちゃんの力のことは聞いてたけど、本当にすごい力なんだね。びっくりしたー」
コレットがリサイクルスキルで新品に再構成された屋根を見て眼を丸くしていた。
そう言えば、コレットには力のことは話してたけど、使ったところを見せたのは初めてだったな。
頭のいい子だから、ラビィさんに口止めされてることをみんなに言いふらすことはないとは思うけど。
やっぱり初めて見るとびっくりするよね。
「コレット、この力のことはくれぐれも内緒で頼むよ」
「うん、分かってるー」
「ワイの娘は賢い子やから安心せいやー」
はいはい、ラビィさんが娘に甘々なのは分かってますよ。
俺とラディナさんはそのまま地上に降りると、屋根と同じくらいボロい外壁を直すことにした。
「フィナンシェ君、外壁って解体しても壊れないわよね? 船の時も壊れなかったし」
「ラディナさんが解体しても数十秒くらいは素材が消失した空間を保持してましたし大丈夫だと思います」
塩を作るため海水を解体してた時、ラディナさんが張り切り過ぎて俺のリサイクルスキルが間に合わずに消失したのがそれくらいの時間だった。
あの時何度か確認してるから、解体スキルが発動した後の消失時間はほぼ把握できるてる。
「万が一、壊してもフィナンシェちゃんの実家だし、あの子たちに新しいお家を買ってあげればすむことだから、気にせずにパッとすませればいいですわよ」
「そうやな。バーンといったれや、バーンと! ぶっ壊したらまたワイが金を稼いだるで安心せい」
二人とも自分たちのことじゃないから、結構無責任に言ってくれるなぁ。
でも、そう言ってもらえるとこっちとしてもやり易くなるんだけどね。
「ラビィが責任を取ってみんなに怒られてくれるならバーンっていきましょうか。バーンっと! リサイクルよろしくね。フィナンシェ君」
ラディナさんも建物を支えてる外壁が失敗した時のことが少し気になってたようで、ラビィさんが金を稼いでくれると聞いた瞬間、解体をすぐに始めていた。
やはり家の外壁も、海水や大型構造物である船の外装板を直した時と同じように解体され廃品化されても崩壊せず淡い光を発して空間を保持してる。
「家もやっぱり崩壊しないね。時間切れないうちに再構成します」
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:38
経験値:1086/4740
対象物:☆木製外壁(分解品)
>木製外壁(普通):100%
>木製外壁(中品質):100%
>木製外壁(高品質):100%
>木製外壁(最高品質):77%
>木製外壁(伝説品質):67%
―――――――――――
>木製外壁(高品質)に再構成に成功しました。
>木製外壁(高品質)
資産価値:一三万ガルド
合成レシピ:コールタール×木材
長年の風雨によって木材が腐食していた箇所や、タールが剥げていた場所も復活して薄い色だった外壁が綺麗に黒くなっていた。
「あとは窓と玄関扉やな。中身は弄るとあいつらに怒られそうやで、外身だけにしとこか」
「分かりました。後直すのは窓と玄関扉だけにしますね。ラディナさんよろしくです」
「おっけー。すぐに解体するわよ」
ラディナさんが残った木窓と玄関扉を解体してくれた。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:38
経験値:1095/4740
対象物:☆木製玄関扉(分解品)
>木製玄関扉(普通):100%
>木製玄関扉(中品質):100%
>木製玄関扉(高品質):100%
>木製玄関扉(最高品質):77%
>木製玄関扉(伝説品質):67%
―――――――――――
>木製玄関扉(高品質)に再構成に成功しました。
>木製玄関扉(高品質)
資産価値:八万ガルド
合成レシピ:コールタール×木材
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リサイクルスキル
LV:38
経験値:1102/4740
対象物:☆木製窓(分解品)
>木製窓(普通):100%
>木製窓(中品質):100%
>木製窓(高品質):100%
>木製窓(最高品質):77%
>木製窓(伝説品質):67%
―――――――――――
>木製窓(高品質)に再構成に成功しました。
>木製窓(高品質)
資産価値:一〇万ガルド
合成レシピ:コールタール×木材
すき間が開いていた玄関扉や木窓の扉部分もすき間なくぴったりと埋まっていた。
「すっかり綺麗になっちゃった。それに作りも元よりしっかりしたみたいだよー」
外観が綺麗になった家を見てコレットが感嘆していた。
予想よりも随分と綺麗に直ったよな。
新品同様、いや高品質化したからもはや別の住宅とか言えるかもしれない。
ミノーツの街はずれとはいえ、一〇〇万ガルドで買った家には見えないよな。
これだけしっかりしてれば、嵐とかでもそうそう簡単に倒壊することもなさそうだ。
再構成された家の出来栄えに感心していた俺たちの背後から声をかける人がいた。
「あーっ! フィナンシェ君! 戻ってきたんだぁ!」
「ラビィさん、エミリアお姉様っ! お帰りなさいませ!」
アステリアさんとセーナか。
振り向くと手に網かごを持ったアステリアさんが驚いた顔で立っていた。
セーナはすでにラビィさんとエミリアさんに向かって飛び込んでいる。
「ただいま帰りました。冒険者ギルドの方にも顔を出したんだけど、入れ違いだったかもしれないね」
「ハナやティラン、ルーシェたちは?」
アステリアさんを見つけたラディナさんが、他の子たちのことを聞いていた。
「もう少ししたら戻ってくるわよ。一緒にお買い物してたし」
「そっか、よかった。それで、このミノーツの街の生活はどう? 慣れた?」
「うん、ミノーツの街の人はフィナンシェ君の知り合いってことでわたしたちに良くしてくれてるわ。村にいたときより快適に暮らせてるかも」
旅立つ前にフランさんたちに、くれぐれもラクサ村の子たちを頼みますって念を押しておいたのがよかったみたいだ。
「アステリアさんはフィガロになにかされなかった?」
「大丈夫、大丈夫。なんかフィナンシェ君に一方的にやられて自信喪失したのか、冒険者をやめちゃったみたいよ。実家に引き籠ってるって」
俺に恥をかかされたフィガロが、女の子たちに嫌がらせしないか気になってたけど、それもなかったみたいだし。
フィガロは実家に引き籠っちゃったか……ちょっとわるいことしたかな。
「ざまぁないわ、あの金髪馬鹿。あたしのフィナンシェ君に喧嘩を売った天罰よ」
「もう、相変わらずのイチャイチャ、ご馳走様です」
ラディナさんとアステリアさんは幼馴染でもあるので話が弾んでいた。
「……お土産」
二人を見ていたら、背後からそっと袖が引かれたのに気付く。
そこにはハナちゃんとティランさん、そしてルーシェさんが戻ってきていた。
「あのラディナさんの艶々した顔、これは……何かあったはず」
「ラディナさん、道中でフィナンシェ君を押し倒してないでしょうね。婚約者とはいえエッチなのはいけないと思います!」
「だ、大丈夫よ! あたしフィナンシェ君とは清い関係を維持――」
「あらー、そうだったかしらねー。『きわどい水着でフィナンシェ君を悩殺しちゃいます』ってアメデアで水着買ってた時に言ってましたわよね」
ラディナさんたちの話を耳にしたエミリアさんが、ティランさんの血圧が上がる更に燃料を投下していた。
「エ、エッチなのはダメェエエ!!」
「違うからっ! あたし、ちゃんと我慢してたから! エミリアさ~ん、それは言わないって言ったじゃないですか」
ちょっと混沌とした状況にコレットが首を傾げてるけど、みんなと久し振りに再会して元気な顔を見られてよかった。
アメデアでは色々と後始末のため二週間以上滞在していたので、ミノーツの街に戻ってきたのは一か月ぶりくらいになるか。
ラディナさんも久し振りにみんなに会って喜んでるみたいだ。
「コレットはこないな小うるさい女どもになったらあかんで。ワイの娘なら淑やかな令嬢をめざすんやー」
「あら、わたくしの娘ならもうすでに淑やかな令嬢になってますわよ」
「む、むすめ? こ、この子はラビィさんとエミリアお姉様の娘なんです?」
「はい、コレットって言います。えーっと……名前が……」
「セーナです……コレットちゃん……、貴方ラビィさんとエミリアお姉様のむすめって……本当?」
あ、あの目……。
初めて冒険者ギルドでエミリアさんを見た時の目だ。
となるとセーナの奴は絶対にコレットのことを勘違いしてるはず……。
まずい、止めないと。
「うん、養女に――」
「セーナ、これには事情があって――」
「かわいーっ!! コレットちゃん、かわいいわ! さすが、ラビィさんとエミリアお姉様の子供ー」
「セーナお姉ちゃんくすぐったいよー」
え? あれ? コレットのこと勘違いしてる流れだったのは気のせいです?
セーナを止めようとした俺が状況を把握できず固まっていると、ラビィさんとエミリアさんが笑いを噛み殺していた。
「フィナンシェ、安心せいや。コレットはワイの娘だから人に好かれるやつやで」
「そうよ。わたくしとラビィちゃんの愛の結晶ですもの。その愛を知るセーナもコレットにメロメロなのは明白だわ」
「んもう、二人ともこんなかわいい子をどこから手に入れてきたんですかぁ」
セーナはコレットを気に入ったのか、ほっぺをぷにぷにしたり、犬耳を触って大喜びしている。
ふぅ、大事ならなくてよかったけどさ。
普通、あの反応見せたら止めるよね。
その後、再会したみんなには新品同様になった家のことを感謝され、頼まれていたアメデアのお土産を配り、夕食を共にすると街で広がっているアメデアでの冒険話を聞かれたので懇切丁寧に話すことにした。