第四十四話 一網打尽
誤字脱字ありましたら誤字報告へ
「おまえぇええ! 戦闘中に女といちゃついてこのバイデン様を舐めるんじゃねぇええ!」
手に刺さった矢を抜いたバイデンが短剣を大きく振りかぶって攻撃してきた。
フィガロの配下たちと戦闘したことで、戦いの経験を積めてこれくらいのことじゃ動じなくなってるや。
冷静に短剣の先を盾で受け止める。
「なんだとっ!? くそ、囲め! 囲め!」
盾で短剣を受け止められて態勢を崩してるから、わき腹ががら空きになってるぞ。
「囲まれるのも嫌だし、うるさいからちょっと黙っておいてもらいますね」
短剣を柄に持ち変えると、バイデンのがら空きの脇腹へ叩きつけた。
「がはっ!」
「バ、バイデン様!?」
囲んでいた男たちもいきなりバイデンが俺に攻撃され倒れ込んだことに驚いていた。
そんなに驚くことかな……。
普通に反撃しただけだと思うんだけど。
相手は数はいっぱいいるけど、フィガロの配下たちよりももしかして弱いとか。
そういうことなんだろうか。
「よくもバイデン様をやりやがったな!」
「ガキだと思って油断したぜ!」
男たちがいきり立ち、手にした武器で次々と襲いかかってきた。
囲んで人数的にも有利なのに、なんでそんなに腰が引けた攻撃しか仕掛けてこないんだろう。
一人ずつ襲いかかってくる男たちを盾でいなし、短剣の柄で気絶させていく。
「や、やべえ……こいつ、めちゃくちゃ強くねえか……」
「大勢で囲んでるのになんでこいつビビらねえんだよ。普通、委縮して動けなくなるだろ。こいつ、達人か戦闘狂か……」
酷いいわれようだ。
装備の安心感とエミリアさんの矢避けの魔法があるから臆せず戦っているだけなのに戦闘狂とか言われるなんて。
「でも、皆さん俺だけに構ってていいんですか? うちのエミリアさんが放った火球で船が盛大に燃えてますけど?」
リーダーのバイデンを倒されたことで、俺にかかりきりだった男たちに船が燃えていることを伝えてあげた。
エミリアさん、楽しそうに船を燃やしてるけど……。
船倉には火が回ってないけど、甲板上は酷い有様だ。
傍から見ると大惨事だよな……。
男たちが我に返って視線を船に向けると慌て始めていた。
「うわぁああっ!! 火! 火を消せ! 船が沈んじまう!」
「あの火勢じゃ、消せねえよっ!」
「黒髭商会の船がっ! だ、誰か助けてくれ! 消すのを手伝って」
男たちは船の様子を見ると、てんでバラバラな行動を始め混乱をしていた。
「悪いけど自業自得と言わせてもらいますよっ!」
「がはっ……おれたちは悪くねぇ。おまえら……船まで燃やしたらうちの親分が――」
俺は船の火災で油断を見せた男たちを短剣の柄で叩き伏せ気絶させた。
「ふぅ、いちおう片付いたか……」
周りでは俺を襲って返り討ちにあい気絶した男たちが十数人ほど転がっている。
エミリアさんたちの方もほぼ襲った連中は魔法の餌食となって地面に転がっていた。
それにしても、船燃やすのはやりすぎでしょ……
あ! さすがにエミリアさんもやり過ぎたとか思ったのか、水の魔法で消火し始めたぞ。
いやでもそれもやりすぎでしょ、今度は水が入って船が沈没しかけてますけど。
でも、港だから沈没するほど深くなさそうだけどさ。
そんな感じで奴隷商人たちがほぼ抵抗しなくなった頃、ロリー・バートさんに言われていた衛兵隊からの突入合図である火矢がけたたましい音とともに上がっていた。
「少しやり過ぎたかしらね。あらー今頃衛兵隊の突入合図が上がったようよ。もう、あらかた片付いたのにね」
「でも、あいつらは悪いことしてたからちょうどいいくらいですって。あたしの大事なフィナンシェ君のことも馬鹿にしてたし、いい気味です」
「なんか、これって奴隷商人たちを俺たちだけで退治しちゃった感じですよね」
戦闘で付いたホコリを払っていたエミリアさんと、気絶している男たちを縛り上げていた二人に駆け寄ると、完全武装の衛兵隊が次々に港に入り込んできていた。
「黒髭商会の連中は抵抗するな! 貴様らは全員捕縛せよと王国の代官より厳命が下っておる! って、フィナンシェ殿……これはあなた方が行ったのですか?」
「あ!? え? あ、はい。ちょっとそういう感じになっちゃいましたけど……」
ラディナさんによって縛り上げられた黒髭商会の男たちはまだ気絶してるし、エミリアさんによって魔法攻撃にさらされた奴隷船は黒焦げになって煙をもくもくとあげてるし、リーダー格のバイデンも気絶して地面に転がっているんだよね。
襲われたら自衛戦闘だけして逃げ出すつもりだったけど……。
相手が弱すぎて全滅させちゃったみたいな感じになってましたとか言えない気がする。
「すごい……あの黒髭商会の連中に喧嘩を売って全滅させるだなんて……まさか、フィナンシェ殿たちがそれほどまですごい冒険者だったとは思いもしませんでした。奴隷売買の実態解明した勇気といい、黒髭商会の連中を一網打尽にしてまう戦闘力といい、あなた方は素晴らしい冒険者だ!」
衛兵隊長が俺たちの行為を褒め称えてくれていた。
でも俺は駆け出しの冒険者に過ぎないんだけど……なぁ。
「いや俺はそんなすごい冒険者とかじゃなくて……大半はエミリアさんが倒しましたし」
「あらー、フィナンシェちゃんも十数人は気絶させてたわよ。優し気な顔に見合わず案外、度胸はある方ね」
「フィナンシェ君はすごい冒険者だもん! これくらいは朝飯前ってところでこなしちゃうんですよ!」
ラ、ラディナさん、なんかそう言ってもらえるのはありがたいんですけど、衛兵の人たちの俺を見る目が何か変わってるように見えるんだけど。
「この件は国王へきちんと報告させてもらう。黒髭商会の一斉摘発に多大なる貢献を頂いたことは栄誉に浴するに値すると思いますので!」
な、なんか国王へ報告とか更に大事になってきてる気がする。
で、でも助けるための方便として三億ガルド払ってコレットたち買ってるし……怒られたりとかしないかな。
「い、いいえ。俺のことは気にせずに衛兵隊長さんの手柄にしてくださって結構ですからっ!」
「そ、それは困ります! そんなことをしたらタダでさえロリー・バート殿の不興を買っている私の立場が無くなりますから! この件をしっかりと報告させてもらいます」
色々と衛兵の不祥事で追い込まれていて、名誉挽回にかけている衛兵隊長が額から大粒の汗を流して俺の申し出を断っていた。
意外と真面目な人か。
部下の不祥事をエミリアさんとラビィさんとロリー・バートさんに突き上げられて困ってるんだろうなぁ。
「ということで、お前ら黒髭商会は人身売買の法に触れるとして逮捕状が王国より出されている。ちなみに人の売買をした者は最低で縛り首、最高で縛り首。どのみち縛り首と決まっているから諦めろ」
意外と職務に真面目だった衛兵隊長は気絶から回復した黒髭商会の男たちに向け、逮捕容疑の書かれた羊皮紙を見せつけていた。
「馬鹿な! 人の売買などしてな――」
「いや、俺が黒髭商会からコレットたちを買ったのは間違いないです。売買代金として三億ガルドを支払いましたし、人身売買の証言が必要なら俺がしますよ」
「ちょ!? お前! そんなことすればお前も一緒に捕ま――」
バイデンが俺の言葉に血相を変えていた。
「捕まってもいいです。それで黒髭商会がこのアメデアから一掃されるなら、俺は衛兵隊に逮捕されてもかまいません」
これで人身売買の確実な証拠を突き付けられたバイデンを始めとした奴隷商人たちも法の裁きを受けることになるはずだ。
この日、アメデアの港に居た黒髭商会の連中は衛兵隊の隊員たちによって逮捕され、全員が引っ立てられていくことになった。
そして、俺も黒髭商会から人を買ったという事実を衛兵隊に隠さず全てを話すことにした。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、下にある評価ボタンをクリックして応援していただけると嬉しいです!
皆様の評価が励みになりますので、どうかよろしくお願いします!