第三十五話 ご褒美はデートで
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ガタガタと荷馬車が音を立てて、街の中央の広場に入っていく。
俺たちはグイン船長と別れたあと、ヨームさんの護衛を続け、アメデアの街に到着していた。
「ここが、アメデアの街ですか。みんな、白っぽい壁の家ですね」
「おお、あれは砂が固まってできた砂岩を切り出して作っとる家やな。このへんの建材は砂岩くらいしかとれへんからなぁ。木材も他の街から輸入しとるし」
「へぇー、ミノーツは北部から木材が運ばれてくるから木の建材が一般的でしたけど、アメデアは石造りなんですね。勉強になるなぁ」
「ちなみに、このアメデアの街はフィナンシェちゃんの生まれたミノーツを含むオステンド王国の領地ですわよ。その中で最大の港街。外国船の寄港地にもなっている港ね」
エミリアさんの言う通り、街の奥には巨大な港が整備され、外洋を航行するような巨大な船も岸壁に係留されていた。
「すごい、港って初めて見たけどでかいんですねぇ」
でっかい船だ……グイン船長さん船の数十倍くらいあるのも見えるなぁ。
それに港の近くには大きな市場が立っているようだ。
何か面白そうなものとか売ってるのかなぁ。
お仕事終えたら、ラディナさんと一緒にお買い物とかするのもいいかも。
定期輸送隊の護衛は目的地である倉庫街までで、そこまで行けば依頼達成の割印と報酬がもらえるって話だし。
俺は揺れる荷馬車の上で、仕事を終えた後のことを考えていた。
「フィナンシェ君、新しい街ってなんだかとってもドキドキするね。お仕事終わったら一緒に散策してもらっても……いいかな?」
「あ、はい! 俺もそう思ってました。どうせ、今日はアメデアで宿を取りますしね。宿が決まったら一緒にいきましょうか」
途端にラディナさんの顔がパッと明るくなった。
一緒に散策することをよ、喜んでもらえてるよね。
「あー、お二人さんはアツアツやのー。ワイは仕事終わったらかわい子ちゃん探しに酒場に繰り出すでぇ」
「ラビィちゃんは、わたくしと一緒にお風呂ですわよ」
「あほかっ! なんでワイがお前と風呂に入らなあかんのや! 絶対に入らへんからなぁ!」
「そんなこと言って嬉しい癖に」
「そんなわけあるかっ!」
なんだかんだでラビィさんはエミリアさんの押しに弱いので、きっと今日の夜は一緒にお風呂に入ってそうな気はするけど。
そうやって和気あいあいとおしゃべりしながらヨームさんの定期輸送隊の後をついて走っているとついに目的地の倉庫街に到着した。
荷物として運んできた木材は、グイン船長たちの救出するため予定変更させた損害分として、前日の夜にこっそりと高品質化しておいた。
だいたい、一本当たり三〇〇〇ガルド分の資産価値の上乗せをしておいた。
運んできた分は五〇本ほどあったので十五万ガルドほどは儲けが増えてくれると思う。
先頭が停車してしばらくすると、ヨームさんが俺たちの馬車に来てくれた。
「お疲れさん。あんたらの護衛はここで終了だ。これは、割印付きの依頼達成証明書と報酬な」
ヨームさんが四人分の護衛依頼料と証明書を差し出してくる。
「これ契約よりかなり多いですよ!」
ただ、依頼料の方は結構上乗せされているのか、提示されていたよりも多かった。
「ああ、それは今後ともよろしくってな感じのお近づきの心づけってやつだ。あんたらの実力だと街道護衛なんてもう受けないだろうけども、何かの時は相談に乗ってもらいたいしな。その金で英気を養ってくれ」
「すまんなぁ。ありがたくもろうとく。フィナンシェ、その金は今夜の軍資金やぁ! 飲むでぇ!」
ラビィさんが依頼料の入った革袋を狙って、地面からぴょこぴょこと飛んでいる。
ちょっとだけ届かないように上の方に持つとしよ。
「ラビィちゃん、今日はお外に出たらお仕置きですわよー」
「知るかいな。ワイは自由な男やでぇ。今日は外で飲むんやぁー!」
ぴょこ、ぴょこ飛んで革袋を狙っていたラビィさんが、エミリアさんに捕獲された。
残念だけど外飲みは無理そう。
「ヨームさん、ありがとうございます。俺も色々と勉強になりましたし、まだまだ駆け出しの冒険者なんでまたご依頼がありましたら指名とかしてください」
俺はヨームさんに感謝の握手を申し出た。
初めての護衛依頼中に勝手な行動をした俺を許して手伝ってくれたことには感謝しか感じていない。
あの時の俺の行動は、一つ間違えば護衛放棄とみなされて、依頼不達成とされてもおかしくないと後からラビィさんに聞かされてからは、全く怒らずに手助けしてくれたヨームさんの器の大きさに感激していた。
なので、ヨームさんの頼みなら進んで引き受けようと心に誓ってもいる。
「フィナンシェ君、君はいい冒険者になると思うぞ。これでも私は人を見る目だけは人一倍あると自負してるからね。君の成長を楽しみにしているぞ」
握手を握り返してくれたヨームさんがニコリと笑って、俺の肩をたたいてくれていた。
いい冒険者かぁ……でも、まだ俺ってFランクなんだけどなぁ。
ラビィさんたちみたいなSランク冒険者になれるよう頑張らないと。
「さって、お仕事も終わったことですし、今宵の宿を探しに参りましょう。臨時収入もあったようですし、こういう場合は少し宿の質を上げる方が仲間のやる気を引き出せますわよ。フィナンシェリーダーちゃん」
「あ、はい。ちょっと高級な宿を探しましょう。それからは自由時間で大丈夫です」
「フィナンシェ君、倉庫街に来る途中に、いい感じの宿があったんだけど、そことかどうかな? エミリアさんたちも気に入ると思うし」
ラディナさんは、街中を荷馬車で走っている間、宿探しをしてくれていたようだ。
そういった細かい気配りができるラディナさんは、とてもいいお嫁さんになれると思う。
「じゃあ、まずはそこに行ってみましょう!」
「この道を戻って行ってくれれば行けるわ。ラビィ、運転よろしくね」
「はーい、ラビィちゃん手綱ねー。道を間違わないようにわたくしがお手伝いして差し上げますわ」
「ワイは飲みに行くんやぁあああああああああああっ!!」
ラビィさんの絶叫が響き渡る中、俺たちは馬車でもと来た道を戻っていった。
ラディナさんが見つけていた宿は、真っ白な外壁をした二階建ての白鷺亭というちょっとお高めの宿であった。
一泊、お一人様三〇〇〇ガルドでミノーツの高級宿よりはお安めの値段だけど、安宿に比べたら宿泊客専用の厩舎や個室風呂など設備は十分に整っている宿だ。
「さすがラディナちゃんね。いい趣味のお宿だと思うわ。さぁ、ラビィちゃん、早いところ荷馬車を停めてお部屋に行きましょうねー。お風呂はそのあとのお楽しみですわ」
「ワイは入らんでぇー。フィナンシェと酒場に繰り出すんやぁー! なぁ、フィナンシェ! そういう約束やったな」
エミリアさんによって逃げられないよう手綱ごと手を握られたラビィさんが助けを求めてきた。
す、すみません……俺もラディナさんと用事があるんで……そっちを優先したい……かな。
「ラビィ、フィナンシェ君はあたしとこのあとお買い物行くのよ。諦めてエミリアさんに奥さん孝行してなさいねー。さぁ、行こうっかフィナンシェ君」
ラディナさんが俺の手を握ると、厩舎に停まった荷馬車から飛び降りて、街へと駆け出していった。
「フィ、フィナンシェーーーっ!! 待ってくれやぁあああああっ!! ワイを置いて行くんやないぃいい!!」
す、すみません、すみません。
ラビィさん、今回はラディナさんとデートしたいです。
「ラディナちゃん、フィナンシェちゃん、夕飯までには帰ってきなさいねぇー」
「はーい! じゃあ、行ってきまーす」
「すみません、ラビィさん。この埋め合わせは今度しますから」
俺たちは絶叫するラビィさんを置いて、アメデアの街を散策することにした。