第三十四話 力の使い道
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「と、言うわけでいちおう直せた感じですけど……。あとは、定期輸送隊の皆さんと力を合わせて船を転がして海に戻せば復帰できるんじゃないかと思うんですが……どうでしょう」
ラビィさんたちや定期輸送隊の人たちと身体を温めるため、街道の脇で野営してワインを飲んでいた船長たちを呼びに来ていた。
「直っただって!? それは本当か!? あれだけの穴をこの短時間で見事に塞いだって言うのか……伝説の技術とかって言ってたがいったいどんな力なんだ……」
「グイン船長、その話は内緒で頼むって話やったやろ。フィナンシェの持つ技術は門外不出なんや。使ったのがバレたら色々とマズいことになる力やから、追求はごめんやで」
「あ、ああ。すまん、すまん。そういう約束だったな。ただ、本当に直っているのか不安でな」
グイン船長さんの不安も分かるよな。
よく分からない技術で直された船に乗らなきゃならないんだし。
一通り自分でチェックしたけど、船には詳しくないんで大ポカしてるかもしれない。
早いところグイン船長さんに確認してもらった方が安心できるよ。
「水漏れはなくなりましたし、船倉の海水も抜けてますから」
「本当にか!! すぐに確認させてもらう! 野郎ども、船の修復確認作業をするぞ!」
「「「へ、へい」」」
グイン船長さんが船員たちを連れて、海岸に座礁している船に戻っていった。
「こ、こりゃあいったい……どんな技術を……船が……オレたちのラグランジュ号が船腹だけ新品に……いや新品以上になっていやがるぞ」
「グイン船長! 船倉に水漏れは発見できません! ですが、それとは別に置いてある木箱に大量の塩があるんですが!!」
「はぁ!? なんで塩なんかあるんだよっ!!」
グイン船長と船員たちがびっくりしてる……。
やっぱちょっとやりすぎたかな……。
塩の件はグイン船長さんに話しておいた方がいいよね。
隣にいるラディナさんの顔をチラリと見ると、彼女も俺と同じ考えのようであった。
「あ、あの。実はその塩は修復の際の副産物で大量にできてしまって……できれば、グイン船長たちに引き取ってもらえるとありがたいのですけど……」
「は? はいぃいい? 塩を引き取って欲しいだって? いやいや、修理してもらった上に塩をもらうなんてことはできないぞ!!」
「グイン船長も律儀なやっちゃなぁ。うちのフィナンシェがもらって欲しいって言うんやから、もろうとけばええやんか。どのみち、今回の座礁で荷物は全部流れてしもうたんやろ。そうなりゃ、船員たちの給料も払ってやれんやろうし」
「そうですわよ。うちのフィナンシェちゃんは結構気前のいい子だから、遠慮せずにもらったら?」
後を追ってきたラビィさんたちが、遠慮を見せるグイン船長に塩を引き取るように迫っていた。
「だ、だがな……タダで船を直してもらったうえに大量の塩までもらってしまっては……こちらとしては心苦しいんだが……そうだ! あんたらもアメデアに来るんだったな。だったら、そこでなんらかのお礼はさせてもらう。絶対に」
別にお礼はいらないんだけどなぁ。
でも、こっちがあんまり遠慮すると何か裏があるのかもって思われても困るし。
相手の誠意を受けとるという形で話を納めた方がよさそうだ。
「分かりました。では、アメデアでお会いした際には、色々とお世話になると思いますのでよろしくお願いします」
俺はお礼の承諾を意味する握手をグイン船長に求めた。
「ああ、任せておいてくれ!」
満面の笑みでグイン船長は、俺の手を握り返してくれていた。
できれば、ラディナさんと一緒に船に乗って旅してみたいけど、さすがに交易船の船長さんにそれは言いにくいよな。
「じゃあ、修理も完璧に終わっているようだし、ヨーム殿の定期輸送隊の馬と人員を借りて、ラグランジュ号を海へ復帰させるとしよう」
「困ったときはお互い様だからな。すぐにうちの連中を連れてきてやる」
ヨームさんも俺が船を助けることに反対をせず、色々と予定があるのを変更して手伝ってくれていた。
本当ならヨームさんにもお礼を言わないといけないけど……。
そうだ! あとでラディナさんと一緒に荷物の木材をこっそりと高品質に再構成しとこう。
いい木材とか高値で売れるって聞いたことあるし。
輸送が遅れた損失の補填分くらいにはなってくれるだろう。
「ヨームさんも俺のわがままに付き合ってくれてありがとうございます。旅の遅れはあとで挽回しますので」
「ああ、いいってことよ。旅では色々と困ったことが起きるのが当たり前だからな。フィナンシェ君が助けてなかったら、私が助けていたさ。それにラビィ殿たちには口止めされているが、いい物を見せてもらえたしな。ああ、もちろん口外はしないさ。『赤眼のラビィ』と『爆炎魔術師エミリア』に睨まれるのはお断りしたいからな」
ヨームさんも何かしら、俺たちの能力に気が付いたようだが、ラビィさんたちに口止めされたようだ。
リサイクルスキルが万能スキルだって知られると、結構大変なことになるってラビィさんが常々言ってるからなぁ。
知られるのは避けたいけど、自分の力で助けられそうな困ってる人を助けないのも心苦しいし。
できればラディナさんに嫌われないよう、力は自分のためじゃなくって、人のために使っていきたいよね。
俺は隣で塩を運び出している船員さんたちと談笑しているラディナさんの顔をチラリと見ていた。
その後、荷馬車から外された馬一〇頭を使い、岩場に座礁した船のしたに丸太を敷き詰め、帆柱に巻き付けた縄をみんなで引き、無事にラグランジュ号は海へ復帰することができた。
そして、グイン船長は俺たちに別れの挨拶をすると、一足先にアメデアの街に向かって帆を張り、出航していった。
グイン船長たちを送り出した俺たちも、その後を追うように海岸沿いの街道を南下し、翌日の昼過ぎに目的地であるアメデアの街に到着していた。







