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第二十六話 ラビィの正妻

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「フィナンシェ君、君はラディナさんには釣り合わないと何度も言っているだろう。その席は私に譲り給え」


 振り返ると、そこに配下を従えたフィガロがいた。


 フィガロも結構めげない男だな。


 あれだけ女の子からボロカスに言われたら、俺には耐えられないよ。


「フィナンシェ君! どかないというなら、君に猶予を与えている借金の件はいますぐここで返して――」


「あ、はい。これ、借金の三〇〇万ガルドです。用意できたので、お持ちしようとしていたのですが」


 さっきフランさんに買い取ってもらった魔結晶の代金を、そのままフィガロに手渡した。


 なんか、肩の荷がおりてすっきりとしたなぁ。


 今までずっと、この借金のせいで色々と他のことを考えられる状況じゃなかったし。


 これで、俺は晴れて自由な冒険者に戻れるってことだ。


「え? おい? 嘘だろ?」


「ちゃんと数えなさいよ、金髪馬鹿。さぁ、フィナンシェ君はこっち向いて、アーンして」


「あのラディナさん、フィガロさんが見てますから」


「フィナンシェ君! ラディナさんから離れたまえ! 三〇〇万ガルドは君が私にした借金の金利に過ぎないのだよ! まだ君の借金は三〇〇万ガルド丸々残っているのだっ!!」


 え? 借金の金利……。


 あの三〇〇万ガルドが?


 そんなに金利って付くの?


「え、えっとフィガロさん、さっきのが借金の金利っていったいどういうことでしょうか?」


「言った通りのことだ! 君はまだ私に借金が残っているのだよ! 借用書をよく見せてやれ」


 フィガロが背後に控えていた配下に指示を出す。


 すると、一枚の借用書が提示された。


「どれどれ、年率100%の金利ってちっこく書いてあるなぁ。ちっこすぎて見えへんがな。それにしたって、年100%なんて利率はフィナンシェの収入からしてみたら永遠に返済できへん契約やな。奴隷にでもする気か」


 俺が借用書にサインした時には、そんな記述なんてなかった気がしたんだけど……。


「フィナンシェ君がサインした借用書に書いてある以上、さっきのは金利分ということだ。諦めたまえ」


「そ、そんなぁ」


「さぁ、ラディナさん、そんな借金まみれの男とは別れて私と食事に参りましょう」


 俺をさげすんだ目で見たフィガロが、ラディナさんの手に触れようとする。


「ふーん、金髪馬鹿は死にたいのかしら? フィナンシェ君以外が、あたしに触れると確実に死ぬわよ」


「ちょっと、ラディナさん! 手袋! 手袋外しちゃまずいですって!」


「何を言っているんだ、フィナンシェ君は……麗しいラディナさんの綺麗な手を私に触れさせない気か」


 俺が必死でフィガロの手を押し留めていると、背後から女性の声がした。


「あらー、この借用書。金利の部分だけインクの質が違う気がするわね。まさか、後から書き足したとかないわよね。あと、確かオステンドの国法で年率30%以上の利子は違法だと定められてたわよね。違法者は縛り首だったかしら」


 二〇代くらいの赤い眼と赤い髪をした色白な女性冒険者だけど、この辺じゃあまり見たことない人だな。


 衣装もちょっと目のやり場に困る感じのやつだし、杖を持っているのを見ると魔術師の人かな。


「何を勝手なことを言ってる。これはフィナンシェ君が納得してサインしたものだし、違約金の支払いを立て替えているから国法の範囲外だぞ!」


「じゃあ、出るところに出てみる? わたくしの魔術でだったら、借用書のインクの種類まで判別できるわよ。もし、あとで書き加えているのがバレるともっと重罪だけど。どう? 金髪君」


 冒険者ギルドに残っていた冒険者たちの視線が、フィガロに一斉に注がれた。


「おい、フィガロのやつってまさか金貸し業をモグリでやっているのかよ」


「金持ちの息子だからって、そりゃあマズいだろ」


「この前も闇で金貸ししてた奴が衛兵に捕まって縛り首にされてたよな……関わりたくねぇな」


 俺の書いた違約金の返済の借用書も、金貸し行為ってことになるのかな。


 やっぱ色々と知識を知らないと、冒険者としてやっていくのは大変そうだ。


「ぐぬぬっ! くそっ! もういい、フィナンシェ君の借金は私の大慈悲によってチャラにしてやろうっ! ほら、受け取れ!」


 フィガロは俺に借用書を叩きつけると、わき目もふらずに冒険者ギルドから逃げ出すように去っていた。


「どなたか知りませんが、助けて頂けたようで感謝――」


「ラビィちゃんー! こんなところにいたのねっ! わたくし、方々を探しましたのよ」


 女性冒険者に名指しされたラビィさんは、いつの間にかテーブルの下に隠れて震えていた。


「知らんがな。人違いとちゃうか。ワイはラビィなんて男やないでぇ……ほんま、ちゃうで」


「あらー、わたくしは『栄光の剣ソード・オブ・グローリー』の大魔術師だったエミリアよ。ラビィちゃんは正妻の名前を忘れちゃったのかしら?」


 エミリアと名乗った女性魔術師は、テーブルの下に隠れていたラビィさんの耳を掴むと引き摺り出していた。


 ああ、ラビィさんが捕まった! そ、その持ち方だとラビィさんの耳が千切れちゃいそう。


 彼女はラビィさんがリーダーを務めていた『栄光の剣ソード・オブ・グローリー』の関係者らしいけど。


 しかも、正妻って言ってるけど結婚してるってことかな?


「放せ! 放さんかい! エミリア、お前はいつもいつもワイの身体を弄びおってからにっ! そやからワイはあのパーティーを解散したんや!」


「いやーん、ラビィちゃん、かわいいー。はいはい、いつもの定位置におさまりましょうね」


「やめーや! むぐぅ! あぐぅう」


 エミリアさんって、ラビィさんの言うこと全く聞かない人っぽい気が。


 というか、ラビィさんの定位置ってエミリアさんの胸の間なの?


「ラビィさん! その痴女は何? 何なの?」


「違うんや! これには訳があってやな! エミリアとはただの冒険者仲間だっただけ――」


「わたくし、エルンハルト・デルモンテ・ラバンダピノ・エクスポート・バンビーノ・フォン・ラビィの妻でエミリアと申します。皆様には主人がお世話になったようでお礼を申し上げねばなりませんね」


「違うんやー! この女にはめられただけなんやー! ワイは一人の女に縛られる気はない! 放せ! むぐぅうう」


 ラクサ村の子でラビィさんを好いていたセーナと、エミリアさんの視線が交差して空気が重くなったかも。


 これって、修羅場というやつだろうか……。


 でも、ラビィさんの言ってることと、エミリアさんの言い分が違う気が……


『フィナンシェ君、なんかラビィとエミリアさんの言い分が食い違ってる気がするんだけど』


『ラディナさんもそう思いましたか? エミリアさんには助けてもらったけど……あのラビィさんの嫌がりようは尋常じゃないですよね』


『だよね。エミリアって人が、ラビィに何かしたのかしら……』


 俺たちがヒソヒソと話していると、騒ぎを聞きつけたフランさんが戻ってきていた。


「『赤眼のラビィ』殿だけでなく、『爆炎魔術師のエミリア』殿までこの冒険者ギルドを訪れてくれるとは……。『栄光の剣ソード・オブ・グローリー』の再結成でもしていただけるのですかな? そうであれば、先ほど以上に援助は惜しみませんよ」


「あほかっ! この露出狂女とまたパーティー組むなんて自殺行為なんかするかいなっ! ワイは自由になったんや! ワイの新しいパーティー仲間はフィナンシェやっちゅーねん!」


「あらあら、ラビィちゃんはそっちの若い子と新しく組んだの? だったら、わたくしも仲間に入れてもらわないと」


「断る! っていうか、今度のパーティーリーダーはワイやない! フィナンシェや! フィナンシェはお前みたいな露出狂女のパーティー入りは認めへんでぇ!」


 え? 俺がパーティーリーダーだったの!? そんなの初耳だよ。


 ラビィさんがリーダーだと思ってたのに。


「あらあら、そっちの世間知らずのお子様がリーダーなの? フィナンシェちゃんとか言ったわね。わたくしがパーティー入れば、攻撃魔法に関してはほぼ全属性網羅できますわよ。その中でも炎属性はとっても得意よ」


「は、はぁ……」


 魔法ってフィガロのパーティーにいた魔術師の人が言ってたけど、属性を全て極めるには『魔法の極み』がいるとか。


 そうなると、エミリアさんってものすごい魔術師ってことだよね。


 その……衣装からはそんな気配が微塵も感じられないけど。


「ラビィさんは私とラブラブなんですからねっ! ラビィさんを放しなさいよ!」


「や、やめいや! エミリアに関わるんやない! はよ、逃げいや」


 エミリアさんの胸に囚われたラビィさんが必死になって、セーナを逃がそうとしていた。


「あらあら、こっちのお子ちゃまもよく見ればかわいい子ね。ラビィちゃんの正妻としては、二号さんにも愛の口づけをお届けしないと」


「あかん! 逃げるんや!」


「え!?」


 あっ!! ちょっと! エミリアさん!?


 じょ、女性同士の口づけって!?


 ああ、ラビィさんが間に挟まれて潰れそう!


「フィナンシェ君、見ちゃダメ!!」


 俺の視界はラディナさんによって塞がれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なる程、ガールズラブ要素はそういうことやったやな。 にしてもエミリア、割と剛の者やな。ソッチの意味で。
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