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「チェックメイト、だ」
ビリーにそう告げ、俺はトリガーに指を掛ける。
「畜生が、やっぱりな」
ビリーが何かに気付き、悔しそうに言う。
乾いた音と共に撃ち出される弾丸、鮮血を上げるビリーの身体。
その様を悲しげに見ているクリス。
既に物言わぬ骸となったメアリー。
地獄。
まるで地獄。
共に戦ってきたはずの者達が殺し合う凄惨な光景。
暫しの間、静寂が場を包む。
「ごめん、ビリー」
クリスが呟く。
こんな所でぼーっとしている余裕は無い、さっさと終わらせよう。
そう言って俺はクリスを立ち上がらせる。
想定外だった、だが結果としてはこれで良かったのだ。
皆と旅をしていく中で気付いた事があった。
何故俺はあんな苛烈な戦場にいたのか、兵士だから?
否。
彼らとここまで来る道中、何度も他のレジスタンスメンバー達に助けられた。
彼らは皆俺達を英雄のように扱い、手厚い待遇をしてくれた。
何故か?
それはきっと俺達がよくある物語で言う勇者一行のようなものだからなのだろう。
だがそれではビリーが俺を知らなかったのは辻褄が合わぬ。
恐らく一人だけ後から合流する予定だったのではないか?
俺はそいつを殺し、装備を奪い、そいつに成り済ましていたのだ。
思えばポケットにずっと入れてあるこのメダルもそうだ。
軍の高官達が持っている勲章と同じ物。
つまり、俺は軍のスパイとして派遣されていたのではないだろうか。
だからこそビリーは俺を知らず、戦場にも関わらずぼーっと突っ立っていた俺をどこか訝しんでいたのだろう。
まぁいい。
何はともあれ後はクリスを始末すれば任務は達成されるだろう。
俺はこの戦争を終わらせた英雄となるのだ。
さぁ、行こう。
本部の扉を前に俺は小さく呟いた。
扉を開け、堂々と中に入る。
そこには軍の総司令官であり国のトップでもある男がいた。
「よくやった、ジャック」
「さぁ、最後の一匹にとどめを」
男は嬉しそうにそう言った。
「…どういう事?」
驚愕した表情でクリスが言う。
こういう事だ。
そう言って俺はクリスへと銃口を向け、トリガーへ指を掛ける。
「…畜生が」
それが、彼女の最後の言葉だった。
任務は無事終えました。
報酬を頂きたい。
俺は言うが早いか総司令へ銃口を向ける。
「…なんのつもりだ?」
彼は驚きを隠せない顔で呟いた。
俺は、この国を救う英雄なんて小さい器には収まる気は無い。
争いの種を潰し、全ての者から讃えられる真の英雄となるのだ。
その為に貴様には死んでもらう。
そう言って俺は引鉄を引いた。
すると突然、視界が歪み光に包まれ、俺は意識を失った。
薄れゆく意識の中、俺は満ち足りた気分でいっぱいだった。