2
あれから一体どれだけの修羅場を潜り抜けて来たのだろうか。
いつしか彼らと共にいる事が誇りとなり、生きる糧となってきていた、そんな頃の事だったか。
もう敵本部は目前、道中何度も死にそうになり、何度も困難に行き当たった。
が、それでも俺達はなんとか戦い抜き、時には泥水を啜るような事もあったが生き抜いてきた。
皆お互いを信頼し、背中を任せ合い、同じ志を持って戦っていた、そう思っていたのだが。
「こんな時にこんな話をするべきじゃあないかもしれんが」
男、名前を言っていなかったな。
ビリー。
それが彼の名前だ。
彼が何か決心したような面持ちでふっ、と漏らしたその言葉。
「俺は英雄になりたかったんだ」
「誰もが崇め讃え、後世まで語り継がれる」
「そんな英雄になりたかったんだ」
そう言うとビリーは悲しそうに、しかし微笑みながら此方に銃を向けた。
「すまない、共に戦った戦友をこんな形で裏切ってしまって」
「お前らは勇敢に戦い、そして散っていった」
「その意思を継ぎ、俺は戦い抜き、平和を取り戻した」
「物語を完結させる為にお前らにはここで死んでもらう、すまない」
「ビリー、何故?」
悲しげに呟いたのはビリーの恋人、クリスだった。
クリスはあまり多くを語りたがらぬ寡黙な女だった。
戦災孤児で、彼女を引き取って育ててくれた夫妻を殺した軍への復讐の為、レジスタンスへと参加したようである。
そんな彼女を優しく受け入れたのはビリーだけであったようだ。
クリスがビリーを説得するもビリーは構えを解かない。
ビリーが銃を握る手に力を込める。
銃器の手入れは彼がしている為此方に武器は無い。
トリガーが引かれる。
刹那。
俺の眼前に何者かが立ち塞がる。
メアリーだ。
メアリーは27歳の兵士だ。
元々は軍の諜報部に所属していたらしい。
とても聡明で美しく、常に笑顔を絶やさぬ皆のムードメーカーであった。
彼女の夫は軍の機密部隊に属していたそうだ。
在らぬ疑いを掛けられ処刑されてしまったらしい。
彼女は夫の仇討ちの為、何故夫が殺されたのかを知る為にレジスタンスへと参加した。
そんな彼女が今、俺の眼前で横たわっている。
共に戦ってきた仲間を撃ち殺したというのにビリーは顔色一つ変えずに此方に銃を構え続けている。
「悪運が強いな、ジャック」
ビリーが微笑む。
どうするか、いや、考えたところで策など無い。
一か八か、突っ込むしか無い。
そう考え構えた時、クリスがビリーの隙を突きタックルをかました。
よろめくビリー、怒号を上げるクリス。
「今だ、やれ!」
クリスに感謝しつつ俺はビリーから銃を奪い取った。
「チェックメイト、だ」
冷徹にビリーを見下ろし、俺は冷たくそう告げた。