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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第2章 文化祭
7/32

お祭りがやってくる

まちづくりを学ぶ。


そう、決意して初めての中間テストが終了した。

意気込んで臨んだけれど、結局は3位に終わった。やはり、上2人は手強い。


しかし、手応えも感じていた。


前回より点差が縮まっていた。


トップの背中が見えてきた。





今まで、順位表は理系の分しか見てこなかったが、今回、何となく3年生の文系の順位表を覗いた。

いや、何となくではない。


桜木先輩が気になったからだ。


同じ大学を目指すということは。


先輩も成績優秀者のはず。



我が校ではトップ30までが貼り出されるシステムであるから、順位表の前に人だかりが出来ることはあまりない。



簡単に、目的の順位表の前に辿り着いた。


先輩の名前を探していて、ある1点を見つめ固まってしまった。


順位表の前で口をポカンと開ける私。





ふいに後ろから久しく聞いていない声に喋りかけられた。


「奈美ちゃん?どうしたの?

ここ、3年生の順位表だよ?」


桜木先輩の手が頭に乗っかる。


依然、言葉を発しない私を疑問に思ったのか、わしゃわしゃと髪を乱された。


「せ、先輩!!先輩が1位だなんて聞いてない!」



突然、勢いよく先輩を振り返り、大きな声で告げた私を見て先輩はあははと、笑った。


「だって、聞かれてないもん。てか、奈美ちゃん。俺もさっき、奈美ちゃんの順位気になって見てきちゃった。3位凄いね。」


驚きで先輩に乱された髪を整える余裕のなかった私。その乱された髪を先輩が整えながら、顔を覗きこまれる。


ちょっと口を尖らせて先輩に文句を言う。


「学年1位様に言われても嬉しくないもん。」


今度はぽんぽんと頭を優しく叩いて、小さい子をあやすように笑いかけられた。


「1位も3位もそんな変わんないよ。たまたまね。それに、奈美ちゃんはまだ伸び代あるでしょ?

やりたいことが見えたら、もっと頑張れるよ!絶対!!」


そこで、はっとした。


「あ、先輩!私、その。伝えたいことがあって。」


そこまで告げて、そろそろ予鈴の時間が近づいていることに気付いた。


「聞いてあげたいけど、時間ないや。昼休み資料室で待ってるね。」



先輩はひらひらと手を振って、廊下に消えていった。






やばい。心臓がばくばくしている。


やっぱ、かっこいい。

しかも、沢山頭撫でられた。



ドキドキが引かないまま、教室に向かっていると、内山くんに会った。


「斎藤さん。3位おめでとう。相変わらずトップ3は固いね。」


「あ、内山くん。おはよ。内山くんも5位でしょ?凄いじゃん!」


ふふっと内山くんが笑う。


斎藤さんの順位には届きそうもないけど。




理系クラスは、各教科トップ5の名前と点数がプリントにまとめられ配られている。だから、内山くんの大体の点数も把握している。


私は知っている。


私が苦手とする、英語と科学は内山くんの方がずっと点数がいいことを。


「私、英語と科学はからっきし駄目でさ。内山くんの方が点数いいじゃん。」


あっという間に追い抜かれちゃうよ。


肩を竦めてみせると、内山くんはちょっと不満そうに言った。


「俺は、物理と古文が苦手で、トップ5外なんですが。」


それは、私の得意分野であった。今回もその2教科は学年トップを獲得していた。



あはは。2人で顔を見合わせて笑った。



期末は負けないよ?



そう言って各自、自席へつく。







本鈴と同時に澤谷先生が教壇へ立つ。

いつもより少しにこやかな表情の先生。


「ええ、とりあえず。皆、テストご苦労だったな。成績が良かったものも、奮わなかったものも。年が明ければセンター試験まで1年となる。気を引き締めて精進するように。」


そこで、一拍おき。にかっと歯を見せて笑う。


「堅苦しい話はここまでにして。いよいよ文化祭がやってくる。

勿論、勉学も大事だが。思いっきり楽しめ!目指せ、優秀賞だ!!」


男子たちがざわめきたつ。


今日の午後の授業は、クラス会議の時間に充てられるという。





文化祭は2日間開催され、翌日は体育祭が開かれる。3日間のビックイベントだ。




顔が綻ぶ。


いよいよ、お祭りがやってくる。










昼休み。

お弁当を勢いよく平らげて私は足早に資料室を目指した。



ガラガラ。扉を開け放つ。


「失礼します。」

誰もそこにはいなかった。



先輩と人生相談をした椅子に腰掛ける。


あれは、ひと月前の話だ。



とても、遠いことのように感じる。


それだけ、この1ヶ月色々あったということだ。




先輩と出会って、彼女がいることを知って。進路が決まって。



「おーい、奈美ちゃん?」


思い返している間に、先輩が資料室へ入ってきていた。


目の前に先輩の顔があって、思わず立ち上がる。


あはは。先輩が今までで見せたこともないぐらいの大爆笑をしている。


「奈美ちゃん。ほんと面白い。そのトリップは癖?」


ん?と私は考え込む。


「あー、いや。ごめんなさい、無意識でやっちゃってます。」


謝ると、先輩はまた笑い出す。


この前と同じ会話してるね。



言われて思い出した。


先月は、私がここで先輩に頭撫でるのは癖か尋ねたんだった。



私も吹き出して、2人でひとしきり笑った。



「それで。話って何だったかな?」

目尻に滲んだ涙を拭って、先輩が改まったように言葉を発する。


ゆっくりと、私の目の前の席に座る。


「あ、はい。」


私も気を取り直して、席に座る。





大学見学に行って、まちづくりを本格的に学びたくなったことを話す。


図書館で資料を読みながら、妄想に耽って涙を零したことを話すと先輩はまた笑った。


奈美ちゃんはどこでもトリップするんだね。



「先輩。ありがとうございました。」



深々と頭を下げた。



先輩とここでお話してご紹介いただいたから、私、やりたいこと見つかりました。


先輩と同じ大学で同じ方向を目指すなんて、先輩の真似をしているように感じて気味が悪いかもしれませんが、私、自分なりに考えて、調べて、やりたいと思ったんです。



勢いよく告げると、優しく笑う先輩と目が合う。


「気味が悪いなんて思うわけないよ。こんな素直な子が、目をキラキラさせてまちづくりについて語ってくれるなんて、俺、嬉しいわ。」


そう言って少し、先輩が腰を浮かせて距離を近付ける。


ぽんと頭に手を置かれ、撫でられた。



一緒に目指していこうな?


いつか、2人でまちづくり出来たらいいな。





なんか、俺。もっと奈美ちゃんと色々話したくなった。


そう言って連絡先を交換することになった。



赤外線でデータを送り合う。


ドキドキと胸が高鳴る。


連絡先の交換って、こんなに緊張したっけ?


携帯と携帯がこつんと頭を突き合わせている。


とても、気恥ずかしくなった。



「はい。交換完了」


なんかあったら、また、相談乗るよ?





赤外線通信が終わり、私たちの間にまた距離が生まれた。


ガラガラ


勢いよく扉が開いて、先輩の彼女が扉の前に立っている。



「拓磨。そんなとこで何してんの?」


彼女さんに思いっきり睨まれて、現実を思い出した。


先輩、彼女いるんだった。



「先輩。本当にありがとうございました。私、精一杯頑張ります。」


もう一度、深々と頭を下げて、資料室を出る。彼女さんにも会釈して通り過ぎた。


入れ違いに彼女が先輩に歩み寄る。


2人の近づく距離を見たくなくて、自然と速度があがる。



「人生相談してただけだよ。」


先輩の声がかすかに聞こえた。

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