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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第5章 新しい風
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初めての…

高校生活最後のGWがやってきた。


GWが明けると、周助と大貴はいよいよ引退をかけた試合に挑む。


そんな大事な時期ではあるが、1日だけ陸上部にオフがある。



周助とデートすることになった。



デートという単語が気恥ずかしくて。まだ、慣れなくて。


ふわふわした気持ち。





デート前夜。

私服で周助と会うのも初めてじゃないけれど、デートという名目になった途端、どんな服を着ていけばいいのか。


可愛いって言って欲しいな。

周助、どんなのが好みかな?


周助のことを思いながら、コーディネートを考えるのも楽しかった。





ふぅ。

私は、寝る前。


ベランダに出て星を眺める。





ガラガラ。


大貴だ。



以前よりも、こうしてベランダで会話する機会がぐっと増えた。

なんだか、この新しい大貴との距離感がくすぐったくて、嬉しかった。


「よう。」


当たり前のようにして、大貴は星を見上げた。


「大会、頑張ってね。」


「おう。」


星を見たまま、会話をする。

この感じが心地よく感じる。


「明日は、オフだね。」


「ああ、そうだな。」


「真子と出かけるの?」


その問いに大貴の視線が私を向いたのが、分かった。


「まぁな。奈美は?」


私も大貴に視線をうつす。


「うん。周助に会うよ。」


「そか。」


ふっと、笑って視線が外れる。



「奈美、1つ聞いていいか?」


「ん?どうしたの?」


大貴の横顔を眺めて、表情を観察しても、何を聞かれるのか検討もつかない。


「こうして、俺と話すの嫌か?」


「へ?」


突然の問いに返事ができずにいると、大貴の顔がまた私を向く。


「お前、さ。高校入ってすぐ、俺のこと避けてただろ?」


ぶんぶん。首を横に振ると大貴の表情は険しくなった。


「全然、喋ってくれなくなったじゃん。笑顔見せてくれることも、目合わせてくれることもなかったろ?」


「えっと、それは。」


確かに心当たりはある。だけど、それは。大貴が好きで緊張してたからで。


そんなこと、言えなくて言葉につまる。


「まあ。高校でも異性の幼馴染とべったりってわけにはいかねぇよな。」


それなら、そうで、はっきり言ってくれりゃ良かったのに。


母さんがさ。奈美が全然家に遊びに来なくなったって寂しがって。

おばさんに会った時に、大貴が奈美ちゃんと話せなくて寂しいみたいよーとか、言ったらしい。


奈美。それおばさんから聞いた?

だから、去年、遊ぼうって誘ってくれたんだろ?気使って。





ああ、そういうことだったのか。

なんか、すれ違ってたんだな。私たち。


「ち、違うよ。」


えーと、高校入って話せなくなったのは。

なんか、急に恥ずかしくてなったというか。どうやって大貴と接してたか、わかんなくなっちゃって。

距離感?とか?


けど、同じクラスになれて。


前と同じように。とはいかなくても、仲良くなりたいなって思って。


確かに、すごく急に脈略なく誘ったけど。

お母さんには、何も聞いてない。

もちろん、おばさんからも。


だから、誘ったのは私の意思。


だったんだけど。





ずっと、心にあった靄が晴れていく。

大貴と、ようやく答え合わせが出来た。


「急に変な態度だったのは、ごめん。謝る。」



大貴はしばらく押し黙って考えていた。



「まあ、嫌われてはないと思ってたけど。勘違い、だったのか。」


大貴の口から大きなため息が零れた。


「奈美が、気使って誘ってくれたとか、なんか申し訳ねぇってか、気まずいってか、意地張って断っちまったけど。俺も、勿論。嫌なわけじゃなかったから。」


「うん。」


ふわり。


久しぶりに、大貴の本心が見えた気がする。優しく笑う大貴の顔が私を向いている。


「まあ、これからも幼馴染として、よろしくな?」


「こちらこそ。」


大貴とのわだかまりが消えてなくなった。



大貴のこと、好きって感じていたことは黙っておこう。

結局、違ってたんだし。









翌日。


周助とは、10時に駅前で集合。


待ち合わせの10分前に到着すると、周助がもう待っていた。


「周助!ごめんね?待たせた?」


私に気付くと、ニコニコ笑顔の周助。


「全然。まだ、時間前だしな?」




行こうか?そう言って自然と差し出された手に、ドキドキしながら自分の手を重ねた。


キュッと繋がれて、嬉しそうに周助は笑って進み出す。


「奈美。今日のそのワンピース。俺、好き。似合ってる。可愛い。」


な、なにそのべた褒め。


「髪型もアレンジ可愛い」


が、頑張って良かった。


「あ、ありがとう。」



恥ずかしくて顔を見れないでいる私。

周助は、そんな私を見ながら楽しそうだ。


水族館に到着して、館内に入ると記念撮影ブースがあった。


店員のお姉さんがニコニコした顔で近付いてきた。


「お兄さん達、時間ありますか?今日は、カップル限定でフォトフレームのサービスをしてまして。」


そう言って、見本品を見せてくれる。


「良かったら撮りませんか?」




「折角だから、撮ってもらおうか?」


「うん。」


付き合いだしてから、こうして2人の写真を撮るのは初めてだった。


並びながら、最後に撮った2ショットは、去年の文化祭だったね。と、思い出を懐かしんだ。




「あ、彼女さん!もう少し、彼氏さんにくっ付いて!」

カメラマンさんが、自然と彼女さんとか彼氏さんとか言うから、まだ慣れない単語に戸惑う。


周助がさっと私の肩を抱く。


近っ。恥ずかしっ。

戸惑っている間に撮影は終わった。


また、周助に手を繋がれて、お姉さんから写真を受け取る。


お姉さんにお礼を言って館内に歩を進めた。


周助は、自然と私の歩幅に合わせてスピードを落としてくれる。


ただ、お魚を眺めているだけなのに、何気なく交わすが楽しかった。


私が思わず、見惚れてじーっと無言で水槽を見つめていると、隣で何も言わず気が済むまでそうさせてくれる。

小さい子が来ると、自然と私の肩を引き寄せて子供に場所を譲る。


「あっ、ごめん。気付いてなくて」


「うん、いいよ。」


こんなに、女の子扱いして貰ったの初めてで、ドキドキが加速した。


イルカショーや、餌やり体験。

たくさん楽しくて。



今日のこの時間が終わって欲しくない。




水族館を出た頃には、夕方になっていた。


「奈美、まだ時間、大丈夫?」


「大丈夫だよ。」


水族館は、海沿いに作られていて。

水族館の近くには、海が眺められる遊歩道がある。


「少し、散歩しよ?」


「うん。」


夕日の赤い光に照らされた海は、キラキラと輝いていて。


「綺麗」


思わず呟いて、周助の手を離して海を眺めた。


海を見ることに夢中になっていると、後ろからギュッと抱きすくめられた。


「奈美」


「好きだよ」


耳元で囁かれた愛の言葉に、体が熱くなった。

いつもより低い声音に、鼓動が反応した。


周助の私を拘束する力が少し弱まった。

私は周助に向き直って、自分からギュッと抱きついた。



「周助。私も、好き。」


何度、口にしても恥ずかしくて。

言葉にすると、自分の気持ちを自覚して、ドキドキする。


ふと、見上げた周助の顔に夕日が差し込んで艶やかだった。


目を逸らせずに見つめてしまう。


しばらくそうして見つめ合う。



周助はグイッと私の頭を、周助の胸元に引き寄せる。


「前にも言っただろ。そういう顔で見られると我慢出来なくなる。」


ドクドク。


どちらの物かも分からない心臓の音が鼓膜を支配している。


ギュッと周助にしがみつきながら、感じていた。



多分、私も、我慢出来ない。



こうして周助に触れて。


周助の温もりと香りに包まれて。



凄く幸せで。

ドキドキもしてるけど。




周助のことが好きっていう想いが溢れて、止まりそうもなかった。


もう一度、顔をあげて周助を見つめる。



自分から、言葉になんて出来ないから、ただ、周助を見つめた。



「奈美?嫌だったら、ちゃんと逃げろよ」


しばらく、見つめ合っていると、周助の顔が近づいてくる。


ギュッと目を閉じる。



チュッ



柔らかいそれが、私のそれに触れる。


一瞬で離れていった。



目を開けて、盗み見た周助の顔は真っ赤だった。


私もきっと同じ顔。



ぐいっ

また、私は周助の胸に顔を埋めている。



「やば。想像してた何倍よりも緊張して。あんまり覚えてない。」


「私、も。心臓、止まりそう」


優しく頭を撫でられて、その感触が気持ち良くて、周助の胸に顔をすり寄せる。


「奈美、可愛い。」


もう一度、顔を上げると、周助の手がそのまま私の頭をホールドした。


再び距離が近づく。


自然と目を瞑って。




今度は、先程よりも少し長く。

何度か角度を変えて口付けられた。

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