初めての…
高校生活最後のGWがやってきた。
GWが明けると、周助と大貴はいよいよ引退をかけた試合に挑む。
そんな大事な時期ではあるが、1日だけ陸上部にオフがある。
周助とデートすることになった。
デートという単語が気恥ずかしくて。まだ、慣れなくて。
ふわふわした気持ち。
デート前夜。
私服で周助と会うのも初めてじゃないけれど、デートという名目になった途端、どんな服を着ていけばいいのか。
可愛いって言って欲しいな。
周助、どんなのが好みかな?
周助のことを思いながら、コーディネートを考えるのも楽しかった。
ふぅ。
私は、寝る前。
ベランダに出て星を眺める。
ガラガラ。
大貴だ。
以前よりも、こうしてベランダで会話する機会がぐっと増えた。
なんだか、この新しい大貴との距離感がくすぐったくて、嬉しかった。
「よう。」
当たり前のようにして、大貴は星を見上げた。
「大会、頑張ってね。」
「おう。」
星を見たまま、会話をする。
この感じが心地よく感じる。
「明日は、オフだね。」
「ああ、そうだな。」
「真子と出かけるの?」
その問いに大貴の視線が私を向いたのが、分かった。
「まぁな。奈美は?」
私も大貴に視線をうつす。
「うん。周助に会うよ。」
「そか。」
ふっと、笑って視線が外れる。
「奈美、1つ聞いていいか?」
「ん?どうしたの?」
大貴の横顔を眺めて、表情を観察しても、何を聞かれるのか検討もつかない。
「こうして、俺と話すの嫌か?」
「へ?」
突然の問いに返事ができずにいると、大貴の顔がまた私を向く。
「お前、さ。高校入ってすぐ、俺のこと避けてただろ?」
ぶんぶん。首を横に振ると大貴の表情は険しくなった。
「全然、喋ってくれなくなったじゃん。笑顔見せてくれることも、目合わせてくれることもなかったろ?」
「えっと、それは。」
確かに心当たりはある。だけど、それは。大貴が好きで緊張してたからで。
そんなこと、言えなくて言葉につまる。
「まあ。高校でも異性の幼馴染とべったりってわけにはいかねぇよな。」
それなら、そうで、はっきり言ってくれりゃ良かったのに。
母さんがさ。奈美が全然家に遊びに来なくなったって寂しがって。
おばさんに会った時に、大貴が奈美ちゃんと話せなくて寂しいみたいよーとか、言ったらしい。
奈美。それおばさんから聞いた?
だから、去年、遊ぼうって誘ってくれたんだろ?気使って。
ああ、そういうことだったのか。
なんか、すれ違ってたんだな。私たち。
「ち、違うよ。」
えーと、高校入って話せなくなったのは。
なんか、急に恥ずかしくてなったというか。どうやって大貴と接してたか、わかんなくなっちゃって。
距離感?とか?
けど、同じクラスになれて。
前と同じように。とはいかなくても、仲良くなりたいなって思って。
確かに、すごく急に脈略なく誘ったけど。
お母さんには、何も聞いてない。
もちろん、おばさんからも。
だから、誘ったのは私の意思。
だったんだけど。
ずっと、心にあった靄が晴れていく。
大貴と、ようやく答え合わせが出来た。
「急に変な態度だったのは、ごめん。謝る。」
大貴はしばらく押し黙って考えていた。
「まあ、嫌われてはないと思ってたけど。勘違い、だったのか。」
大貴の口から大きなため息が零れた。
「奈美が、気使って誘ってくれたとか、なんか申し訳ねぇってか、気まずいってか、意地張って断っちまったけど。俺も、勿論。嫌なわけじゃなかったから。」
「うん。」
ふわり。
久しぶりに、大貴の本心が見えた気がする。優しく笑う大貴の顔が私を向いている。
「まあ、これからも幼馴染として、よろしくな?」
「こちらこそ。」
大貴とのわだかまりが消えてなくなった。
大貴のこと、好きって感じていたことは黙っておこう。
結局、違ってたんだし。
翌日。
周助とは、10時に駅前で集合。
待ち合わせの10分前に到着すると、周助がもう待っていた。
「周助!ごめんね?待たせた?」
私に気付くと、ニコニコ笑顔の周助。
「全然。まだ、時間前だしな?」
行こうか?そう言って自然と差し出された手に、ドキドキしながら自分の手を重ねた。
キュッと繋がれて、嬉しそうに周助は笑って進み出す。
「奈美。今日のそのワンピース。俺、好き。似合ってる。可愛い。」
な、なにそのべた褒め。
「髪型もアレンジ可愛い」
が、頑張って良かった。
「あ、ありがとう。」
恥ずかしくて顔を見れないでいる私。
周助は、そんな私を見ながら楽しそうだ。
水族館に到着して、館内に入ると記念撮影ブースがあった。
店員のお姉さんがニコニコした顔で近付いてきた。
「お兄さん達、時間ありますか?今日は、カップル限定でフォトフレームのサービスをしてまして。」
そう言って、見本品を見せてくれる。
「良かったら撮りませんか?」
「折角だから、撮ってもらおうか?」
「うん。」
付き合いだしてから、こうして2人の写真を撮るのは初めてだった。
並びながら、最後に撮った2ショットは、去年の文化祭だったね。と、思い出を懐かしんだ。
「あ、彼女さん!もう少し、彼氏さんにくっ付いて!」
カメラマンさんが、自然と彼女さんとか彼氏さんとか言うから、まだ慣れない単語に戸惑う。
周助がさっと私の肩を抱く。
近っ。恥ずかしっ。
戸惑っている間に撮影は終わった。
また、周助に手を繋がれて、お姉さんから写真を受け取る。
お姉さんにお礼を言って館内に歩を進めた。
周助は、自然と私の歩幅に合わせてスピードを落としてくれる。
ただ、お魚を眺めているだけなのに、何気なく交わすが楽しかった。
私が思わず、見惚れてじーっと無言で水槽を見つめていると、隣で何も言わず気が済むまでそうさせてくれる。
小さい子が来ると、自然と私の肩を引き寄せて子供に場所を譲る。
「あっ、ごめん。気付いてなくて」
「うん、いいよ。」
こんなに、女の子扱いして貰ったの初めてで、ドキドキが加速した。
イルカショーや、餌やり体験。
たくさん楽しくて。
今日のこの時間が終わって欲しくない。
水族館を出た頃には、夕方になっていた。
「奈美、まだ時間、大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
水族館は、海沿いに作られていて。
水族館の近くには、海が眺められる遊歩道がある。
「少し、散歩しよ?」
「うん。」
夕日の赤い光に照らされた海は、キラキラと輝いていて。
「綺麗」
思わず呟いて、周助の手を離して海を眺めた。
海を見ることに夢中になっていると、後ろからギュッと抱きすくめられた。
「奈美」
「好きだよ」
耳元で囁かれた愛の言葉に、体が熱くなった。
いつもより低い声音に、鼓動が反応した。
周助の私を拘束する力が少し弱まった。
私は周助に向き直って、自分からギュッと抱きついた。
「周助。私も、好き。」
何度、口にしても恥ずかしくて。
言葉にすると、自分の気持ちを自覚して、ドキドキする。
ふと、見上げた周助の顔に夕日が差し込んで艶やかだった。
目を逸らせずに見つめてしまう。
しばらくそうして見つめ合う。
周助はグイッと私の頭を、周助の胸元に引き寄せる。
「前にも言っただろ。そういう顔で見られると我慢出来なくなる。」
ドクドク。
どちらの物かも分からない心臓の音が鼓膜を支配している。
ギュッと周助にしがみつきながら、感じていた。
多分、私も、我慢出来ない。
こうして周助に触れて。
周助の温もりと香りに包まれて。
凄く幸せで。
ドキドキもしてるけど。
周助のことが好きっていう想いが溢れて、止まりそうもなかった。
もう一度、顔をあげて周助を見つめる。
自分から、言葉になんて出来ないから、ただ、周助を見つめた。
「奈美?嫌だったら、ちゃんと逃げろよ」
しばらく、見つめ合っていると、周助の顔が近づいてくる。
ギュッと目を閉じる。
チュッ
柔らかいそれが、私のそれに触れる。
一瞬で離れていった。
目を開けて、盗み見た周助の顔は真っ赤だった。
私もきっと同じ顔。
ぐいっ
また、私は周助の胸に顔を埋めている。
「やば。想像してた何倍よりも緊張して。あんまり覚えてない。」
「私、も。心臓、止まりそう」
優しく頭を撫でられて、その感触が気持ち良くて、周助の胸に顔をすり寄せる。
「奈美、可愛い。」
もう一度、顔を上げると、周助の手がそのまま私の頭をホールドした。
再び距離が近づく。
自然と目を瞑って。
今度は、先程よりも少し長く。
何度か角度を変えて口付けられた。




