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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第5章 新しい風
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その先へ

周助と付き合うようになって、1か月が経とうとしていた。



5月に入ると、陸上部は春の新人戦を迎える。

同時に、周助と大貴の引退がかかる。


ここで勝てば、県大会への出場が決まり、7月まで部活動が続くこととなる。



真子から大貴と付き合いだしたと報告を受けて、私も周助とお付き合いが始まったことを伝えた。

それから、最後の大会までの残り少ない期間、彼氏の雄姿をこの目に焼き付けておこうと、時々、真子と部活をこっそり見学して帰るということを繰り返していた。


一生懸命部活動に励むみんなを邪魔するわけにはいかないから。

あくまで、ばれないようにこっそり。


大会には、真子と一緒に応援にも行くこととなった。



そして、私はひとつ。



やり残したことをすっきりさせようと思う。






「それで?いつ会うの?」

お昼休み。お弁当を食べに周助はH組に顔を出す。

私と食べる・・・わけではなくて。


もともとH組の時に仲の良かった大貴たちと談笑するために来ていて。

けれど、お弁当を食べ終わると私のところへ来て、少し会話を交わす。


部活動が忙しい周助。

歓迎会以降、デートらしいことも特になく、こうして毎日少しの時間、一緒に過ごすだけ。


「うん。今度の土曜。先輩、空いてるって」


私は、桜木先輩へまだ結論が出たことを伝えられていなかった。


先輩は、私の答えが出るのを待つ。そう言ってくれた。

周助にそのことを話すと、しばし悩んだ後に了承してくれた。


「奈美。俺、その日。部活午前中だけだから。先輩との用が終わったら会える?」


「うん。」




周助の表情がふと男の子になる。

その視線に絡み取られていると、バシッ頭に衝撃が伝わる。


「奈美。顔やばい。」

佳代だ。


「うーー、痛い」

恨めしく佳代を睨めば、周助の手が頭をやわやわと撫でていく。



「あーもー、他所でやれ!」


「すいません。」


佳代に謝ると私たちはぱっと距離をとった。




「最近、奈美とゆっくりできないんだもんなー」

周助がぽつりとこぼす。


歓迎会のあと、周助にぎゅっと抱きしめられたことを思い出してしまい、私は周助の顔が見れなくなる。


「むず痒いわ。空気が」

佳代さん、ご立腹です。








土曜日。


「奈美ちゃん、こっち!」

先輩の通う大学付近のカフェへ辿り着くと、先輩はすでに来ていて、手を挙げて私にアピールしている。


たったのひと月だけど、先輩の雰囲気はさらに大人びたように感じる。



「奈美ちゃん、ちょっと大人になった?」


「へ?」


席に腰を下ろして注文を済ませると先輩がとても自然とお世辞を言ってくれる。


「さすが、先輩ですね。」


「あはは。本心だよ?」


柔和な爽やかイケメンスマイルは、脅威を増しているようだった。



苦笑いで返すと、先輩は不意に人懐っこい笑みを浮かべる。



変わんないな。


ぼんやりと先輩を眺めていると、先輩は困り顔。




「奈美ちゃん、相変わらずトリップ?」


「あ、ごめんなさい!」





「先輩!」

急にまじめなトーンで話を切りだす私に先輩は戸惑うこともせず、聞く体制に入った。


「私、きちんと結論が出たんです。」



私、先輩にたくさんドキドキしたり。


うれしくなったり、安心したり。


好きってこういうことかな。って思ったりしていたんですけど。





先輩は私の憧れでした。



先輩は覚えてないかもしれませんけど、2学期になったばかりの頃に、先輩と廊下でぶつかりそうになって。その時に、かっこいいなって思ったんです。


そのあと、お話しする機会をたくさんいただいて。


いろんな言葉をかけていただきました。


ふたご座流星群を一緒に見たことは、一生忘れないと思います。

とても幸せな思い出です。



先輩は、本当は私なんかがこうやってお話できるような方じゃなくて。

雲の上のような存在で。


そんな先輩にが、近い距離にいて。

夢の中にいるようでした。


どこか現実感がなくて。




愛しいって思う気持ちとは違っていたんだと思います。


すごくすごく贅沢な時間を過ごさせていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。



私のためにたくさんの時間を作ってくださってありがとうございました。






その答えに先輩は少し寂しそうに笑った。

「奈美ちゃんは、本当に好きだと思える相手が見つかった。」

こくんと頷くと、周助の顔が浮かぶ。


ぼっと効果音がつきそうなぐらい顔が上記すると、先輩は笑う。


「今、幸せなんだね。」



こくん。もう一度頷く。




「奈美ちゃん。最後に少しだけ話していいかな?」


俺ね、奈美ちゃんが思ってるほどすごい人じゃないし。

奈美ちゃんと1つしか年変わらないし。


本当に、そんな尊敬してもらうの申し訳ないぐらい、ただの男だよ。


奈美ちゃんの彼氏を羨ましいって思うぐらい。

普通の男なの。


けどね。奈美ちゃんの思う俺は、きっとそうじゃないんだよね。


だから、奈美ちゃんが俺のこと、そんな持ち上げてくれたの嘘にならないように。

俺、がんばるね。


奈美ちゃんの思うかっこいい俺でいられるように。




そしてね。奈美ちゃんが来年。

俺と同じ大学来てくれて、もう一度「はじめまして。」から始めよう。


その時は、俺のこと。

もっと気楽に。


その辺にいるほかの男と同じように。


普通の男として見てくれたら嬉しいな。






今日限りで、先輩は卒業。






先輩の笑顔で、本当にこれが最後なんだと悟った。




「先輩。私、頑張ります。」


この一年後悔しないように。










先輩、ありがとうございました。




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