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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第5章 新しい風
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新学期

「奈美、おはよーー」


「おはよー、佳代!」


私は、教室に入ると自席の後ろに座る佳代に声をかける。


「なんていうか。4月になった!っていう感じしないねー」


クラスを見渡しながら、佳代はため息をついた。


「理系、2クラスしかないからねー。」


男子は少しメンバーが変わっているが、女子は結局変わり映えしない。



教室の扉に、掲げられたプレートを眺める。



3年H組


そこには、そう書かれている。


この教室へ通うようになって、早1週間が過ぎようとしていた。


受験生となった私たちであるが、文系クラスに比べると、あまりにも見慣れた景色のおかげで、いまいち気持ちにメリハリがつかない。


部活現役組に関しては、受験よりも引退試合の方が気にかかるようで、受験モードとは程遠い空気感を漂わせている。


変わったこともいくつかあるにはあるが。





「おはよう!」

澤谷先生が教壇に立つ。



担任も変わり映えしない。




「速やかに体育館へ移動してください。」

澤谷先生は、手短にホームルームを終えると、移動を促した。


今日は、1年生の歓迎会が行われる。



佳代と廊下を歩いて、体育館へ向かう。




この廊下で桜木先輩と出会ったんだなぁ。


廊下を歩きながら、物思いに耽っていると、佳代が笑っている。


「奈美、何考えてたの?」

ニヤリと意地悪に笑みを作った顔と、目が合うと、私は慌てて取り繕う。


「何も考えてない!」


ぷくくと、含み笑いしながら、佳代は視線を先を歩く人の波へ向けた。



「いいのかなー?そんなんで?」


「べ、別に!懐かしいなーって思ってただけだよ!」


「そうですかー。」


佳代は、言葉だけで納得を示した。






体育館に入って列を作ると、自分たちが1番端になる。


改めて、実感した。



先輩、卒業しちゃったんだな。




吹奏楽部のファンファーレで、新入生が入場し、着席する。


新生徒会の紹介。及び、会長挨拶。


部活紹介。


どれも、メインとなっているのは、同級生で。自分たちが最高学年であるということを思い知らされた。




我が校では、新入生歓迎会のあと、1年生のみ、校歌を覚えるために校歌コンクールを開催することとなっており。


クラス毎に放課後まで練習をする。


体育館はもちろん。

校庭も使われるため、この日は上級生は、午後からお休みで、部活もない。


全教員が指導と審査員になるからだ。




そういう訳で、歓迎会が終わって教室へ帰ると、皆散り散りに帰宅を始める。



私たちも例に習って、教室を出た。




「奈美、今日この後、予定ある?」


昇降口で靴を履き替えていると、佳代からお誘いがきた。


「あー、その。」


「奈美は、俺と約束があるから。」


理由を述べようと口を開くと、私より先に横から声が飛んできた。



「あ、周助くん」



「なんだ、そういうこと。」

それじゃ、おじゃま虫は消えますよー


佳代は手をひらひらと振って、潔く帰っていった。



「奈美、行こうか」


差し出された手に私は、小さく首を振る。


「ん?嫌?」


顔を覗き込まれて私は赤面した。


「嫌とかじゃなくて。学校は、恥ずかしい」


ぷいっとそっぽを向くと、周助くんの手が頭に乗っかる。


「じゃ、後のお楽しみにしようかな。」


歩き出した周助くんの隣に並ぶ。



それを確認すると、周助くんはふわりと笑った。


私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる速度に、私は彼の優しさを感じて嬉しくなる。




そう。



変わったことといえば。



私と周助くんの関係だ。











あの日、先輩と最後の人生相談をして。


私は悩んだ。




今までみたいに、ぱーと開けていくよう答えが貰えなくて。

どうしたものかと考えた。


先輩の言葉を反芻し、意味を噛み砕いていく。




結論は、卒業式から2週間後、不意に訪れる。


ホワイトデー。


周助くんは、私を誘ってくれた。




勉強会をせずに、休みの日に2人であった。


周助くんは、私が先輩と天体観測に出掛けていたことも、何故か知っていて。


俺とも星見よう


そう言って、プラネタリウムを訪れた。



隣に座る周助くんの横顔に心臓がとまるかと思うくらいに、ドキドキしていた。


手を握られ、いよいよ私はプラネタリウムを見ていられなくなった。

いや、見てはいた。

周助くんを見てしまうと、余計にドキドキするから。

見てはいた。


しかし、何も記憶に残らないぐらい心臓がうるさかった。



その後、施設の前にある広場を手を繋いで散策した。


ドリンクを買って、ベンチに座って。


心地いい沈黙が訪れていた。





すると、周助くんが、意を決したように立ち上がる。

私もつられて立ち上がると、ふわりと抱きしめられた。


周助くんの香りに包まれて、周助くんに聞こえちゃうんじゃないかというぐらいにドキドキした。


周助くんの私を抱き締める手が少し震えているのに気付くと、何故だか愛しく感じている私がいた。



「奈美、急にごめん」


ゆっくりでいい。奈美のペースでって言ったけど。

俺、ダメだ。


ごめん。

前に1度、たまたま見ちゃって。


奈美が。

先輩に抱きしめられてるの。



奈美が、俺を特別だって言ってくれて、嬉しかった。

けど、そうだよな。

そういう、特別は俺一人じゃないかもしれないよな。


俺、さ。


そんなの嫌だって思った。



俺だけ。


俺だけ、特別でいたい。



先輩が、奈美のことこうやって抱きしめるなら。

こうやって奈美のこと、戸惑わせてるなら。


俺も、遠慮しない。




奈美、好きだよ。



今すぐじゃなくてもいい。

けど、俺のこと、考えて欲しい。


奈美の特別にして欲しい。


彼女になって欲しい。




言い終わると、ゆっくり体が離された。


周助くんの顔は真っ赤だった。



私も負けず劣らず赤かったと思う。




自然と涙が溢れた。


周助くんは、ぎょっとすると、その雫を掬って、悲しそうに謝る。


「ごめん。泣かせたいわけじゃなかった。困らせたいわけじゃなかった。」


気持ちが抑えきれなくて。


俯く周助くんの手をそっと握って首を振った。



「違うの。嬉しくて。」

周助くんの気持ちが。







分かったよ。


私の気持ち。




今、どうしようもなく、心が周助くんを好きって訴えている。


もう一度、抱きしめて欲しいって。




先輩に抱きしめられた時には感じなかった愛しさが溢れてきた。




先輩に対して抱いていた感情は、やっぱり憧れだった。


憧れの人に抱きしめられて、頭を撫でられて。

緊張した。だから、ドキドキしていた。




けれど、これ程までに愛しいと感じたことはないし。

感じるドキドキの種類が違う。




先輩に感じてたのは、緊張のドキドキだったんだね。






私は、周助くんの手を握る力にギュッと力を込めて、周助くんの目を見た。




「あのね。今、ようやく分かったの」


私、周助くんのこと。





好き。




言葉にした途端、心の中から感情があふれてくるようだった。






一拍置いて、言葉の意味を理解した周助くんは、私をもう一度抱きしめてくれた。



「彼女になってくれるの?」


こくん。

頷いた私に、周助くんはとても嬉しそうに笑ってくれた。












隣を歩く周助くんを見つめながら、告白を思い出して赤くなってしまった。


「どうかした?」


「ううん。なんでもない」



気をとり直して、歩き出す。




3年生で周助くんとは、クラスが離れてしまった。

けれど、良かったのかもしれない。


ずっと、同じクラスにいると、周助くんを見つめてしまって集中を欠く可能性があるから。






真子はバレンタインに大貴に告白していて、2人も付き合いだしたらしい。







新しい風が吹いている。

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