卒業
卒業式 前夜。
私は自室のベランダから星を眺めていた。
あれから、答えは出ぬまま先輩の卒業式を迎えることとなった。
周助くんは、急かしたくないと言った。
奈美のペースで進んで欲しい。
はっきりと、想いを告げられた訳ではないけれど。
真剣な周助くんの顔が頭から離れなかった。
結局、勉強会はあれからも何度か行った。
中途半端な気持ちをぶら下げたまま、いつも通りはどうかと思ったけれど、周助くんが、いつも通りにしてて欲しいと言ってくれて。
その言葉に甘えることにした。
そうして、始まった勉強会では、クリスマスやバレンタインの出来事が嘘のようで。
ほんわか笑う周助くんに癒されて。
今まで通りの友達だった。
迎えた学年末テストでは、なんとか学年1位をとれた。
周助くんは、また3位だった。
順位表を2人で見て、ハイタッチを交わした。
3年生もこの調子で頑張ろう!
先輩は、見事志望校に合格。
合格発表の日、先輩は電話をくれて。
卒業式の後。
最後に、資料室で話をしようと言われた。
先輩が卒業したら、寂しいな。
大学生になる先輩ってどんな感じだろ?
好き
その答えはすぐそこまで出かかっている気がする。
それなのに、結論が出なかった。
私、ほんとダメだな。
なんで、こんなに好きが分からないのかな。
星を眺めていると、自然と涙が頬を伝い落ちた。
翌日。
いつも通りの電車。
定刻。
ガタンゴトン。
一定のリズム。
今日は、永遠につかなければいい。
そんな風に考えれば考えるほど、スピードをあげているような気がする。
きちんと、いつも通りに目的地に届けてくれた鉄の箱がとても恨めしい。
卒業式。
「答辞 3年A組桜木 拓磨」
「はい。」
先輩が登壇して、答辞を述べる。
涙が溢れて止まらない。
私が卒業する訳でもないのに、零れ落ちる雫をとめる方法が分からなかった。
先輩、本当に。
ありがとうございました。
「奈美ー?涙止まった?」
卒業生が退場したあとの体育館。在校生が後片付けをしている。
佳代は、ボロ泣きだった私に心配半分、からかい半分で話しかける。
「んー。なんとか。」
「そんなに、先輩がいなくなるの寂しい?」
「寂しいよ。」
椅子をガタガタ片付けながら、考えてみる。
「だけどさ。同じ学校にいたって連絡取り合わないと、会うことも少なかったんだよね。」
結局、そんなに変わらない気もするんだけど。
同じ学校に通ってるって、やっぱ特別だね。
「ふふ。そうね。」
佳代は、優しく笑った。
資料室。
扉を開けると、そこにはすでに先輩がいた。
先輩の顔を見たら、止まったと思っていた涙が再びあふれ出した。
「先輩、卒業おめでとうございます。それから、合格おめでとうございます。」
「ありがとう」
先輩は、胸ポケットに刺さっているお祝いの花を手に取ると、すっと私の耳にかけた。
「似合ってるよ。」
これ、奈美ちゃんが持ってて。
「先輩からの激励。」
我が校では、卒業式の日にお祝いの花を先輩から後輩へ託す習慣があった。
多くは、部活の先輩から後輩に渡すことが多いんだけど。
「奈美ちゃん、俺一足早く大学行くね。」
来年、奈美ちゃんが来てくれるの楽しみに待ってるよ。
ふわりと頭を撫でていく先輩の手。
また、涙がこぼれる。
「奈美ちゃん?そんなに泣かないでよ。」
これでお別れじゃないでしょ?また、いつでも会えるよ?
「あんまり泣いてると、抱きしめちゃうよ?」
思わず、涙がとまる。
「あんまりからかわないで下さいよ」
「全部が冗談じゃないんだけどね。」
消え入りそうな声で先輩が呟く。
「え?」
「ううん。なんでもないよ。」
爽やかな笑顔で先輩は誤魔化す。
「そうだな。うん。」
先輩は独りでに何かを決めた様子で、両腕を広げた。
「おいで?」
先輩の声が脳内に響いた。
今までに聞いたことのない甘い声だった。
無意識に先輩に近付く体。
すんでのところで、思いとどまる。
いや、だめでしょ、私。
「あはは。」
先輩は笑い出した。
「ちょっと流されそうになってたでしょ?」
ぷるぷると首を振って、必死に否定する私。
「それは、残念。」
先輩は、いつもの椅子に腰を下ろすと、出会ったころのような柔和なスマイルで私を見る。
「最後の人生相談、する??」
「えっと。」
ま、とりあえず座ってよ。
素直に座った私に先輩は満足気だった。
「奈美ちゃん、ごめんね?」
俺、惑わせちゃったかな?
「え?」
「何度も抱きしめたり、とか?」
「奈美ちゃん、反応がうぶでかわいいから。ついつい、やり過ぎちゃったかな?」
楽しそうに先輩が笑った。
「奈美ちゃんには、ずっとそのままでいて欲しいんだけどさ。」
俺がそういう気持ちで奈美ちゃんを縛り付けちゃいけないね。
もう、奈美ちゃんの意思を無視して奈美ちゃんに触れたりしないからね?
私は戸惑った。
先輩に頭を撫でられるのも、抱きしめられるのも嫌ではなかったから。
むしろ、安心できた。
ドキドキも。
「奈美ちゃん。思ってること言ってごらん?」
考え込んでる顔、してるよ。
「もう少しで見える気がしてるんです。自分の気持ち。」
でも、すっきりしなくて。
私。
先輩にも、ドキドキしちゃったりするんです。
でも、これがどういう感情か分からなくて。
「他にもドキドキしちゃう相手がいるのかな?」
「はい。」
先輩は、優しく私を見る。
「大丈夫。」
落ち着いて考えれば、奈美ちゃんなら大丈夫。
どんな風に違うのか思い出して。
「奈美ちゃんがさ、俺にドキドキしてくれたのってさ。俺が、急に抱きしめたりとかして、焦ったりしちゃったからじゃないかな?」
もし、そうなら。
きっと。それは、違うのかもね。
「今、これ以上奈美ちゃんのこと、惑わせちゃいけないと思うから、ごめんね。」
また、答えが出たら聞かせてよ。
俺、待ってるね。
最後に、柔らかく笑って先輩は資料室を出ていった。




