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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第4章 卒業
24/32

感謝

2月14日 バレンタインデー


教室は、色めき立っていた。


バレンタイン。


女の子が男の子に想いを伝える日。


今どき、女の子から男の子に想いを伝えるなんて珍しいことでもないけれど、伝える勇気を持てない子からしたら、決意をするいいタイミングだ。


また、2月といえば、年度末まで残すところひと月となり、たとえ、想いが実らなくても、気まずいを思いを長くしなくても済む場合が多い。


そういったタイミングも相まって、バレンタイン商戦は、日本の一大ムーブメントとなっている。



何も、チョコレートでなくても。何もこぞって今日じゃなくても。


そんな風に考えつつも、私が今日手にぶら下げているのは、間違いなくチョコで。


バレンタイン商戦に乗っかって、チョコレートフェアなるものへ繰り出して。



意味は違えど、想いを伝えたい相手に渡すことには変わりない。


周助くんには、明日渡すことになったけれども。


あくまできっかけに過ぎないのだから、絶対今日じゃなくていけないなんてことはないだろう。




きちんと、2人に感謝の想いを伝えようと思う。




私は、資料室の指定席へ腰掛け。

物思いに耽りながら窓の外を眺めていた。



桜木先輩と出会ったのは、まだ暑さが残る9月。2学期が始まってすぐだった。


廊下でぶつかりそうになった。

会話を交わすこともなく終わった。


そんなものだろうと思ってた。

そんなご都合主義よろしく、親しくなることなんてない。


そのはずだったのだが。


きっかけは、ここ資料室。


何度もここで私の話を聞いてもらって。



思い悩む私を救い出してくれた人。






ガラガラ


資料室の扉が開いた。


姿を現した先輩は、いくつか紙袋を抱えていた。


「ごめんね、待たせちゃって」


つい最近、彼女と別れたばかりの先輩。そりゃ、周りがほっときませんよね。


紙袋を見て、遅れてきた理由も察しがつくというものだ。


小さく首を振って、苦笑い。


先輩も気まずそうに笑って、定位置に座った。


「私こそ、ごめんなさい。お忙しいのに。今日じゃない方が良かったですかね?」


そう言って先輩へ視線を向けた。


「もう。会いたくなったら連絡してって言ったでしょ?そうやって謝らないの。」


先輩の暖かな手が私の頭を包みこむ。


クシャと髪をかき混ぜながら、先輩の視線は私が持参した紙袋へ。


「それと。奈美ちゃんの用事は今日じゃないと、意味がないものだってことじゃないの?」


「え?あー、その。」


そう言われてしまうと何となく言い出しにくい。


「これ、渡したかったのは事実なんですけど。」


「けど?」


先輩が、じっと私を見つめて、続きを促す。


別に愛の告白をしようと言うわけでもないのに、私の心臓は早鐘を打っている。


「いつも、お世話になっている先輩に、一言お礼を伝えたくて。」


友達に言われたんです。

恋愛的な意味での好きって想いじゃなくても、感謝したいとかそういう想いを伝えたいっていうのも、『想い人』に気持ちを伝える日って意味合いで間違いはないんじゃないか。って。


私、先輩にきちんと何かしらの形として、想いを伝えたかったんです。


いつも、ありがとうございます!

先輩には、感謝してもしきれません。

もし、良ければ。これからも、先輩とお話したいです。


これ、受け取ってください。



さながら、愛の告白のようにずいっとチョコを差し出すと、手を口に当ててぷくくと、笑いを堪えている先輩がいた。


「ありがとう。」


にこりと笑って受け取ってくれたけれど、まだ笑いは収まってない様子。


「あの?」


私、なんか変なこと言ったかな?


1人考えあぐねていると、先輩が笑いを堪えきれずに、あははと笑った。


「ごめんごめん。」

まさか、奈美ちゃんから今日呼び出されるなんて、予想外だったし。

あの奈美ちゃんが俺に告白ってわけないよなーとは、思ってたんだけど、予想の斜め上いくことされちゃって。


「奈美ちゃんの想い、しっかりと受け取りました。」


そう言って、先輩は私に手を差し出す。

反射的にその手を握り返した。


「奈美ちゃん。こちらこそ、これからもよろしくね?」



「はい。」


笑い返すと優しい目をした先輩が私を見ている。


「ふふ。この場合、俺もホワイトデーに奈美ちゃんに日頃の感謝を返せばいいのかな?」


「へ?」

いや、いいんです!ただ、私がしたくてしたことなので、先輩にお返しいただこうなんて滅相もありません。


勢いよく告げると、先輩はまた笑ってる。


「俺だって奈美ちゃんに、感謝伝えたいけどなー」


「あ!それなら。」





私、先輩の合格の知らせが欲しいです!





「それ、奈美ちゃんへのお返しになるの?」



「はい!」


力強く頷いて肯定した。


私の来年の弾みになりますから!




「分かりました。合格してみせましょう。」


先輩は、ふわりと笑うとまた頭を撫でた。



「ねぇ、奈美ちゃん。」


先輩は頭から手を離すと、少し真剣な表情で私を覗き込む。


今までにあまり見たことのない表情にドキリと鼓動が脈打つ。


「せっかく、バレンタインだしさ。少しだけ、ぽいことしていい?」



「どういうことですか?」



ふわり


先輩の優しい香りが鼻腔を掠めて、私の体は先輩に、包まれていた。



え?………抱きしめられてる。



体が熱を帯びているのが分かる。

何もできずにそのまま硬直していると。


ギュッと先輩が少しだけ力を込めて、私を解放した。



「そんな、カチカチにならないでよ。」


嫌だった?


私は真っ赤になっているだろう顔を、先輩に見られるのが恥ずかしくて、俯いたまま首を横に振る。


「そかそか。それなら、俺にドキドキしちゃった?」


意地悪な笑みを浮かべる先輩を思わず見上げると、先輩と目が合う。


「奈美ちゃんが、そういう反応してくれたの初めてだからね。」


先輩の言葉に思い出した。

大貴と真子のことでもやもやしてた時や、天体観測で泣きそうになった時にも、こうして先輩に抱きしめられた。



「だって!あれは、私を励ますため………、ですよね?」


「あはは。ま、そういうことにしとくね。」


ぽんぽんと、私の頭を軽く叩くと、ニヤリと笑う先輩。




「俺ね。奈美ちゃん抱きしめるの、結構好きだよ?」


「へ?」


また、じわじわと顔が赤くなる。




どうしよう。

私も先輩に抱きしめられるの結構好き。


ドキドキもしちゃうけど、落ち着くし。



「ふ。からかうのは、これぐらいにしといてあげる。」


先輩は、いつもの柔和な笑みに戻って、私から距離をとった。




「先輩。私で遊んでますよね?」


さあ、どうでしょう?




先輩が楽しそうに笑うから、私も笑った。


「それじゃ、先輩。受験頑張ってくださいね!」


「うん、ありがとうね。」







私は、先輩にきちんと感謝の想いを伝えられて凄く満足だった。

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