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春、きらり  作者: 如月 蝶妃
第4章 卒業
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年明け

ガタンゴトン


電車に揺られながら、ぼんやり外を眺める。目に入った景色に思わず心を奪われていた。そこかしこにイルミネーションの光が輝く。


星空みたいだな。


窓枠に肘をつくと、手首にはめていた腕時計がキラリと存在を主張してきた。


視線を移すと、私はぼっと顔が熱くなる。


何故だか分からないけれど、今日の周助くんには、たくさんドキドキさせられた。

突然、男の子の顔したり、真剣な顔をするとドキリとしてしまうことはあるが、今日は違った。

ふわりと微笑むいつもの表情にもドギマギして。


もっと、頭を撫でていて欲しかった。


こんなの初めてだ。



周助くんは、友達。



もう一度、チラリと腕時計に視線を送って、心の中で唱える。

クリスマスの雰囲気がそうさせたんだよ。

冬休みだって、勉強会する約束もあるんだもん。

ダメダメ。気分切り替えてかなきゃ。



思考の波に囚われている私を、目的の駅に到着したことを告げる車内アナウンスが現実へ連れ戻した。




ただいま


ガチャと玄関を開けて、私はそこでしばし思案することとなった。


玄関に並ぶ靴がこの家に家族以外の存在を教えていたからだ。


「今日、誰か来る予定あったっけ?」


そんな予定だったのなら、周助くんとご飯食べて来れば良かった。


廊下を抜けてリビングに近付くと賑やかな声が聞こえていた。



「ただいま」

もう一度声をかけて、リビングの扉を開いて固まった。


「おかえり!」

そう言って出迎える母。


その向かいから声をかけられる。


「おかえりなさい!奈美ちゃん!久しぶりねー」


大貴の母だ。


「よう」


気まずそうに声をかけてくる大貴。




えーと。どういうこと?

疑問符が頭を駆け回る私に、母が答えを提示してくれた。


「お買い物行ったら、井上さんとばったり会ってねー。井上さんとこもお父さん帰って来られないみたいで。寂しいから一緒にどう?ってなったのよー」


昔はこうやってよくご飯一緒に食べたわよねー


なんて、笑いあう母たち。


いまだ、固まっている私に母が声をかける。


「早く着替えてらっしゃい!お腹空いたわー」



母に急かされて、2階の自室へ向かう。


大貴、真子と夜は一緒じゃないんだ。


手早く着替えを済ませて、階下へ急いだ。






「メリークリスマス!」

4人でダイニングへ座り、カチンとグラスを鳴らした。



母達が盛り上がっているなか、私は早々に食事を終え、自室へ退避した。


ベランダに出て、空を眺める。



星を眺めていると、先輩の顔が浮かんでくる。

先輩を想いながら、空を眺めていたとき。


ブーブー


ポケットの中の携帯が震えだした。


着信

桜木 拓磨先輩


えーーーー


心の中で大絶叫した後、ゆっくりと通話ボタンを押した。


「メリークリスマス!奈美ちゃん!」


「あ、メリークリスマス」


開口一番、先輩の明るい声が耳に飛びこんでくる。

電話から聞こえる先輩の声は普段よりも少し大人びて聞こえて、緊張が走る。


「ふふ。今ね。息抜きに星見てたんだ。そしたら、奈美ちゃんの顔が浮かんでねー。何してるのかなー?って!」


「あ。私も星見てました。」


「え?ほんと?」


「はい。」


先輩のウキウキした声を聞いて、緊張はどこかへ飛んでいって、少し可愛いな。と感じていた。

自然と頬は緩んだ。


「奈美ちゃん、俺のこと考えてたりした?」


「ちょっと考えてました。先輩、どうしてるかなー?って。」


素直にそう答えると、先輩は電話のむこうで笑っていた。


「奈美ちゃん、ほんと素直ー」

そんなこと言われたら喜んじゃうよー



そんな会話をしてると、ガラガラと隣家のベランダが開く音がした。


「あ」


大貴と目が合うと思わず声を出していた。


「奈美ちゃん?」


「あ、いえ。何でもないです!」


慌てて取り繕う。


「ふふ。いい気分転換出来たよ。付き合ってくれてありがとう!」


良いお年を。


そう言って、先輩は通話を終了した。




「あー、わりぃ。邪魔した?」


私は首を横に振る。


「先輩か?」

大貴は、ゆっくり近付いてきて、空を見上げた。


「そう。」


「今日、一緒だったのか?」


私の腕時計を指さす大貴。


「あー、それは周助くん」


ふーーん。そう言って視線は星に戻っていった。


「大貴は?」


今日、どうしてたの?


「別に。」


「真子と、一緒だったんじゃないの?」


その質問に大貴の視線は、私に向けられた。


「まぁな。」


「そっか。」


それ以上、会話は続かなかった。

ただ、黙って空を見上げていた。


「奈美。お前さ。」

空を見上げたまま、大貴が沈黙を破った。


「先輩と周助、どっちが好きなの?」


大貴に視線を移すと、真剣な顔した大貴がそこにいた。


「え?」




「分かんない。」


たっぷり間を開けて答えると、大貴のため息が聞こえた。


「どういうこと?」

私の返答に不満げな大貴。


「先輩は、憧れって感じだし、周助くんは、友達だもん」


「あっそ。」


分かんねぇってことは、どっちのことも多少は意識してるわけだ。



返答が出来ない私を見て、大貴の表情が少し優しくなる。


「お前さ。ちょっとは成長したと思ってたけど、気のせいだったな。」


「そんなことない!」


思わず言い返して、目が合うと、2人で吹き出した。



強めの風が私たちの間を抜ける。


「寒。中入れよ」


「うん。」


お互い自室に下がる。





大貴の言葉がグルグルしたまま、その日は眠りについた。



どっちが好き?



分かんないよ、そんなの。









年越しは、家族3人で過ごして。

玲奈とも佳代とも1度だけ遊んだ。


新学期になると、すぐに実力テストが待っている。

実力テストは、定期試験と違い模試みたいな扱いのため、範囲が広い。


成績を落とさないよう、私は勉強した。


周助くんとも、何度か一緒に勉強会をした。



クリスマスのあと、初めて会った時は、少し意識してしまっていたけれど、すぐにいつも通りに戻って、あの日のドキドキはどこかへ消えていた。


本当に、クリスマスはどうかしてたんだと思う。


大事な友達にドキドキしちゃうなんて。





2人のどっちが好き?




私は多分、まだ好きが良く分からない。








いよいよ、三学期が始まる。



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