2人きりのメリークリスマス
2年H組の女装クリスマス会は大盛況のうちに終了した。
女装したみんなのメイクオフをしながら、今日、ここに来ていない大貴をふと思う。
真子と過ごしているのかな?
考えてもしょうがないし、真子を応援するって決めたんだから、喜ばしいことだよね。
また、ひとり考えこみながら黙々と作業をしていると。
「奈美。」
着替えが終わって男の子に戻った周助くんが、真剣な声で私を呼んだ。
刹那、私の意識は引き戻された。
「なに?」
周助くんは少し緊張気味?
表情がこわばっていた。
「この後、予定あるの?」
周助くんの問いかけに首を横に振る。
周助くんは、ほっと息を吐くと、少し柔らかくなった表情で私を見据えている。
「奈美が良ければ、この後。俺と出かけてくれないかな?」
「え?」
あー、うん。折角のクリスマスだし、このまま帰るのは勿体ないかな、と思って。
戸惑った私に早口で告げる周助くんの声が、通り過ぎて行った。
な、なんで私ドキッてしたのよ!
ふぅ
気持ちを整えて、周助くんを見る。
「いいよ。」
友達なんだから。
断るのも変でしょ。
別に深い意味はないよね?
私は、心の中で、言い聞かせる。
もう、何度も勉強会で二人きりになっている。
今更、何を意識する必要があるのか。
「ありがとう。」
ふわり。
周助くんの嬉しそうな笑顔と目が合うと、何故だかまた私の心臓は音を立てた。
違う。違う。
クリスマスだって思うから余計に意識しちゃうんだよ。
だって。周助くんは、友達。
2人で電車を待つ。
ここから、数駅離れた繁華街で行われているイルミネーションを見に行くことになった。
「大貴。来てなかったな?」
「あ、うん。多分、真子と一緒かな?」
周助くんは私の顔をまじまじと見つめてる。
「え?なに?なんかついてる?」
小さく首を振る。
「奈美。気になる?」
「へ?」
「大貴が山口さんと仲良くしてるの。気になる?」
目が合った周助くんの顔は真剣だ。
「上手くいってるかなー?って意味では、気になるよ?」
そう、返すと、1つ息を吐く。
「奈美はさ。このまま、2人が上手くいっていいの?」
「へ?」
「あー、ごめん。変なこと聞いたな。」
「ううん。私、2人が上手くいくといいと思ってるよ。」
笑顔を見せると周助くんも笑った。
電車がホームに入ってきた。
乗り込んだ電車の温かさに、ほっとする。
「わー!きれーーー」
駅を降りると、駅前のロータリーから数々のイルミネーションが施され、クリスマスの特別感を思い出す。
「そう、だな。」
イルミネーションをバックに微笑む周助くんの笑顔に思わず見惚れた。
周助くんは綺麗に笑う。
「俺の顔、なんかついてる?」
距離の近くなった周助くんにびっくりして、思わず後ずさり。
よろけた私の腕を周助くんが掴む。
「奈美?なんか、今日変じゃない?」
首をぷるぷると横に振った。
今日は、何故だか周助くんがとっても男の子に見える。
「今日の周助くん。分かんないけど、雰囲気違う。」
「は?雰囲気?」
何やら考えこんでいる周助くん。
「クリスマスだから?」
周助くんの答えにぴんときた。
「あ、そうかも!雰囲気に飲まれちゃったかな?」
ごめんごめん!もう、大丈夫!
そう言って、歩きだそうとしたら、パシッと手をとられた。
「奈美。せっかくだから、今日は雰囲気に飲まれといてよ。」
「え?」
「俺のこと、ちょっとは意識してくれたってことじゃないの?」
せめて、手ぐらい繋いで歩こうよ?
そう言って笑う周助くんの表情はいつも通りのふんわりで。
なのに、文化祭の時とは違って繋いだ手からドキドキが伝わってしまうような感覚に襲われる。
「やっ。」
手を引こうとして、失敗。
「奈美?たまにはさ。俺のことでも、頭悩ませてよ?」
イタズラに笑う周助くんに逆らうことを諦めた。
「クリスマスだから!ね!」
そう、口にすると気持ちも少し落ち着いて、自然と笑顔になった。
「それじゃ、行こうか」
イルミネーションが綺麗な公園を2人で手を繋いで歩く。
だんだんぎこちなさはなくなって、たくさん話した。
やっぱり、周助くんの笑顔は落ち着く。
すっかり、ドキドキしていたことも忘れていつも通りの空気になっていた。
「あ、奈美。」
そこ、寄っていかない?
可愛い雑貨屋さんが目につく。
「うん、いいよ。」
入った雑貨屋さんは、とても私好みの雑貨が並んでいた。
「可愛い。」
ぽつりと、零してしまった。
「ん?」
私が眺めてた腕時計を覗き込む周助くん。
お、それ。奈美に似合いそう!
はめてみなよ?
促されて、手首にはめる。
鏡を眺めて自然と頬が緩んだ。
やっぱ、可愛い!
けど、ちょっと買えないかな。
また、お金が貯まったら、買おうかな。
そう、思って時計を外すと手を差し出してる周助くん。
意味が分からなくて見つめてると、
「それ。貸して?」
掌に時計を乗せるとにこりと笑った。
それじゃ、そろそろ行くか?
「え?」
周助くん、それ?
手の中の時計を指さすと笑った。
「奈美に似合ってたし。今日は、雰囲気に飲まれててって言ったでしょ?」
「ダメだよ!そんなの!」
慌てて時計を戻そうとするけど、それは適わない。
「今日だけ。特別。」
一緒に勉強会してくれたおかげで、成績あがったし。
奈美の1位のお祝いもしてないし。
クリスマスプレゼント?
それと、日頃の感謝も込めて。
「俺の気持ちが収まんないから、受け取って?」
「そ、そんなの。私の方こそたくさんお世話になってるのに!」
周助くんは首を振った。
「奈美が、俺の隣でそうやって笑っててくれたら、俺にはそれで充分。」
これからも、そうやって笑ってて?
出来れば、俺の隣で。
私は、もう頷くことしかできなかった。
2人で手を繋いでお店を出る。
再び、イルミネーションの輝く街並みに出た。
ベンチへ腰掛けて、周助くんが息を吐いた。
「あー!なんか違うな!!」
こんなかしこまったの、やっぱ、違う!
「奈美?とりあえず、これは俺からのお礼!感謝!」
だから、変に気負わずに貰ってくんね?
「うん。」
笑顔で見上げると、周助くんも笑ってる。
周助くんの手が頭に乗っかって。
柔らかく撫でていく。
心地いい。
思わず、目を閉じた。
やわやわと頭を撫でていた手がゆっくり離れる。
あ。
離れちゃった。
私はまた、寂しく感じていた。
目が合った周助くんは、少し困り顔。
「奈美?そんな顔しないでよ。」
そんな、物欲しそうな顔。
「クリスマスモードやめにしよっか?」
そう言って笑った周助くんは、もう一度私の頭を撫でた。
立ち上がって歩き出した周助くんを追いかけつつ、もう繋がれることのない手がすごく寂しさを訴えていた。
「晩飯、どうする?」
いつも通り笑う周助くん。
「あー、親に連絡してなかったから、多分家で用意されてるかも。」
ごめん。
「突然誘った俺も悪かったし。」
暗くなってきたし、帰るか?
「そうだね。」
私たちは、それぞれ家路についた。




