クリスマス会
12月25日。午後1時。
2年H組。
冬休みに入ったはずのその教室は、クラスメートの笑顔で溢れていた。
文化祭と同様に、机でステージを作る。
メイクブースも作って、準備は整った。
文化祭の時に仕入れた、チャイナドレス、パジャマ、私服が並ぶ。
制服は元の持ち主に返却して、今回はなし。
浴衣も季節外だから除外された。
そして、今回新たに導入されたサンタコスチューム(ミニスカ版)が5着並べられている。
すでに集まった面々。
級長を中心に真剣な話し合いが行われていた。
議題はもちろん。
誰がこの5着を着るか。だ。
皆の視線は周助くんに集まる。
内山には、着て欲しいよな。
いや、内山のチャイナドレスも見たい!
普通に私服着たら、違和感ないかもしれないぞ!
パジャマも萌えそうだな。
文化祭の時よりも白熱しているのではないかという会議。
内山くんは言う。
「せっかく5着あるんだから、ここは女子にサンタコス来てもらおう!」
それも捨て難いよなー。
級長がぽんと手を打つ。
「いっそのこと、くじで決める?」
賛同が集まった。
それじゃ、くじ引き作って、引こうぜ!
あ、澤谷先生も人数に入ってよ!
「いや、俺は……」
男子達は強引に先生の手を引いて、輪の中に加えてしまった。
文化祭の時、観客席となっていたところには、余った机が並べられ、お菓子やジュースが並び、立食パーティの体を成していた。
先生の差し入れのチキンも並び、クリスマスらしさはばっちりだ。
級長が、抽選箱をもって舞台にあがった。
「ええ。2年H組のみなさん。本日はお集まり頂きありがとうございます。」
今日ここにいない級友がどこで誰と過ごしているのかなんて、野暮なことは言及しないよう、級長として強く要請いたします。
それでは、みなさん。
コップにジュースは入っていますでしょうか?
皆が頷く。
「それでは、担任の澤谷先生に乾杯のご発声をお願いします。」
教室の真ん中あたりにいる澤谷先生へ視線が集まる。
「いよいよ受験が近づいてきて、不安に感じている者もいると思うが、たまに息抜きすることも大切だ。今日は勉強を忘れて楽しもう。」
乾杯!!
紙コップをこつんとぶつけあって、ジュースを勢いよく飲み干す。
メリークリスマス!!
みんなで口々にお祝いをする。
「ご歓談を。と言いたい所ですが。」
級長が再び口を開く。
「お待ちかねの衣装決め大会を開催します!」
えー、誠に残念ながら、女子5人はメイク係という仕事があるため、衣装を着ることが出来ないとのことで、男のみとなります。予めご了承ください。
皆が、順番にくじを引く。
私たちはメイクブースで、着替えが終わった子達が来るのを待つ。
残念ながら、全員分の衣装はないため、はずれくじを引いた人は、お着替えなしとなる。
「お願いしまーす」
徐々にメイクブースが混み始める。
思い思いのヘアメイクを施し、完了した人が立食スペースへ戻っていく。
はずれくじの人達は、戻ってきた級友を見てからかいあっている。
最後にサンタコスチュームをGETした幸運の5人がメイクブースを訪れた。
ぷっ
私たち5人は思わず吹き出した。
選ばれた5人は、
級長
澤谷先生
野球部エースのムキムキ君
文化祭では、チャイナドレス組として活躍したクラス一の濃ゆい顔を持つゲジ眉君。
そして。
我らがエース。
周助くん。
しかし、ミニ丈のスカートに、腕がむき出しのサンタコスでは、内山くんの筋肉が隠せない。
こ、これは。
皆の期待に応えられないかもしれない。
周助くんは私のところにくる。
「奈美。メイクお願いしていい?」
周助くんはこくんと頷いた私を見て、椅子に座った。
改めて周助くんの体を見やる。
「今回は、筋肉隠せないね。」
「ん?そうだな。」
周助くんにメイクを施しながら、隣の級長に声をかける。
「上着羽織らせるのはあり?」
級長は内山くんを見て、言う。
「クラスのエースは何着ても可愛くいて貰わなくては困るからな。」
ぐっと親指をたてる。
むき出しの腕は凄い、男感。
これはまずい。
私は、文化祭のとき持ち寄った服の中に白のケープがあったことを思い出す。
衣装が並べられた机からそれを持って周助くんに差し出す。
「周助くん、これ着て?」
「あ、ああ。」
周助くんは、戸惑いながらそれを受け取り羽織った。
お、腕が隠れた!
やっぱり膝も隠したいね。
そう言って、お決まりのニーハイ。
「ブーツがあったら良かったな。」
ぽつりと零すと隣の机でメイクしてる級長が答える。
「あ!1つだけ買ってあるかも。白いボンボン付きの!」
「え?ほんと?」
私はぱーと笑顔になる。
鏡越しに、周助くんが笑ってる。
「奈美。ほんと、俺を可愛くするのに必死だね。」
「だって、素材がいいから勿体ないの。」
周助くんは、ふんわり笑った。
今回は、周助くんにウィッグを被せる。
耳下で緩く2つに結んで胸元まで伸びた髪がふわっと巻いてある。
女子力高めのやつ。
サンタ帽子を被せて、ヘアピンを見えないところにとめて、地毛と固定する。
ウィッグの調整をして、胸元を見て気付く。
「あ、今回は大分胸元開いてるから、気になっちゃうね。」
私は、タオルを持って戻ってくる。
胸元入れといて!
「斎藤さん!これでいい?」
メイクが終わった級長が、ショートブーツをもって戻ってきた。
「コスチュームと一緒に置いてあったから、1つだけ買っといたんだよ!」
「周助くん、これ入るかな?」
女性ものの、1番大きいサイズを購入していたおかげで、周助くんでもなんとか履けた。
完成した周助くんを眺めて、私は頷いた。
「可愛いー」
級長や女子で笑いあって、メイクブースを後にする。
登場した周助くんに、歓声があがる。
やっぱ、うちのエースだ!
サンタコスの級長が舞台に立つと、みんなが舞台に注目する。
それでは、まず。
私服、パジャマに着替えたみなさん。
舞台へどうぞ!
級長の合図でみんなが舞台にあがる。
パフォーマンスがひとしきり終わると、交代でチャイナドレスのみんなが舞台にあがる。
待ち時間に打ち合わせしたらしく、今流行りのお笑い芸人のネタを披露し始める。
みんなは大笑い。
サンタコスした澤谷先生も、手を叩いて笑っていた。
それじゃあ、本日のメイン。
サンタコスをGETした強運の持ち主に登場して貰いましょう!
級長の言葉にクラスが沸き立った。
1人ずつ舞台に呼び込まれる。
野球部エースのムキムキ君。
みんなは、隠しきれない巨体に抱腹絶倒だった。
キリリとしたエースの顔はメイクしても、キリリと眼光鋭い。
その顔のまま、ピッチングフォームを披露する。
一同、大爆笑。
次に、ゲジ眉君。
舞台の隅から隅まで。
ウィンクで投げキッスしながら、華麗なランウェイを決める。
投げキッスを受けた男子からブーイングが巻き起こる。
次に、呼び込まれたのは澤谷先生。
背が高くすらっとした澤谷先生は、以外と似合っていた。
女らしくは仕上がっていないが、爆笑が起こる程ではない。
みんなは先生の有志に拍手喝采だ。
トリを務めるのは、周助くん。
周助くんが舞台にあがると、文化祭の時に踊った曲を誰かが携帯で流し始めた。
周助くんは、ソロでダンスを披露しきった。
全ての出し物が終わり、歓談タイムに入ると思いきや、サンタコスの5人が何かを手に舞台に並んでいる。
「大倉 佳代さん!」
突然、指名された佳代は肩が跳ねていた。
次々、女子の名前が呼びあげられる。
「斎藤 奈美さん!」
最後に私の名前が呼ばれる。
「以上、5名。」
舞台へ登壇してください。
わけが分からず、顔を見合わせながら舞台にあがった。
私は周助くんに腕を引かれて、周助くんの前に立たされる。
みんな、1人ずつサンタコスの5人の前に並んだ。
「女子のみなさん。」
級長が喋り出す。
俺たち2年H組には、君たち5人がいてくれる。
男ばかりのクラスで、君たちに嫌な思いをさせることもあったと思う。
肩身の狭い思いをしたこともあったと思う。
きっと、男は馬鹿だなって呆れることも。
しかし、君たちは、我々に笑いかけてくれる。
受け入れてくれる。
文化祭では、どの男子達よりも、裏方で必死に働いてくれた。
君たち5人は、このクラスの誇りだ!
このクラスの大事な仲間だ!!
これは、囁かながら、俺たちからの感謝の証だ!
「せーの!」
いつも、ありがとう!!!
級長の掛け声のあと、全員の声がハモる。
拍手が起こる。
サンタコス隊が持っていた箱をあける。
ネックレスが入っていた。
それぞれ、目の前のサンタにネックレスをつけて貰う。
「周助くん」
目が合うと、周助くんは柔らかく笑う。
「メリークリスマス。」
俺たちからのクリスマスプレゼントだよ。
ふわりと頭に手が乗る、
優しく撫でて離れていく手が少し寂しく感じる。
私たち5人は、みんなにお礼を言って頭を下げた。




